第6話 エピローグ~忘れていたもの手にした何か~
「――思い出したよ」
気を失い、目を覚ました俺はアミラに膝枕をされていた。まだ体力は戻っていないため、しばらく膝を借りるしかなく不思議そうに顔を覗き込むアミラに語りかけた。
「アミラのお父さんが最期に釣りを供にした
「……思い出したのですね」
「うん、ジャバヲォックを釣り上げた時は良かったんだけど、洞窟から飛び出したジャバヲォックの火の玉を避けようとして崖から落ちたよな」
「はい、高い崖じゃなくて、命に別状はありませんでした」
その衝撃で記憶を失っていたのだ。いや、それともそういう失敗の経験を忘れたくて、無理やり記憶に蓋をしていた可能性もある。いずれにしても、情けない話だ。
「俺を恨んでいるんじゃないか」
思い返すと、確かに大怪我を負った時から釣りに対して消極的になった気がする。あの時の釣りの罪悪感から無意識に苦い記憶を忘れ、ダンジョン釣りという仕事から逃げようとしていたのかもしれない。
恐る恐る訊ねる俺にアミラは首を横に振った。
「恨むわけありません。あの日、私達にはパーティを組む金銭的な余裕はなく成果を焦っていた父に困っているからとパーティを組んでくれたのはクルスさんだけでした」
「しかし、結果的にパーティの力量を見誤った俺の責任だ」
「無念だったかもしれませんが、
「遺言、か……」
そうなると、俺もアミラも彼の遺言を受け取ったことになる。
「ジャバヲォックはどうしましょうか?」
「鮮度が落ちてるから、あまり高値にはならないだろうが、一度酒場に戻って解体できる連中を呼んでこよう」
「それがいいですね、私一人では解体するのも運ぶのも大変そうです」
他の
「……これから、クルスさんはどうするんですか」
下山途中、夜明け前の町に戻りながらアミラが問いかけた。
少し悩み、俺は答えた。
「一緒に実家についてきてくれないか」
「え!? そ、それって……す、少し大胆過ぎます……出会って一日しか経っていないのに……」
顔を赤くして熱を抑えるように両頬に両手を置くアミラに急ぎ言い直した。
「違うっ。そういう意味じゃなくて、喧嘩して飛び出してきた親父ともう一度話をしてみようと思ったんだ」
「あ、なるほど、そういうことですか……。良い考えだと思います」
「恥ずかしい勘違いしやがって……。今なら少しだけ、あの時の親父の気持ちが分かるような気がするんだ。だからさ、そっちも少しだけ俺に協力してくれよ」
人差し指の関節の辺りの小さな唇に当ててアミラは笑った。
「――はい、私達はパーティですから」
釣り人はダンジョンで竿を振るう 孝部樹士 @ki-mio
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