第2話 転倒予防

 高齢者は転びやすい。

『2017年度・老人保健健康増進等事業報告書』によると、入所サービスでの事故(258例)の約8割が〈転倒〉関連であったという。


 高齢者の転倒予防に、バリア・フリー化がすすめられてきた。


 ところが住民調査によると〈転倒者群・非転倒者群〉ともに「段差アリが69%」で、両群間に差はなかった。

 つまり段差があってもなくても転ぶのである。

 この辺に高齢者の転倒が減らない理由はありそうだ。


 しかし現実には、転倒を〈事故〉として扱い、その〈責任〉を問う。

 自宅では「しがだねぇな」とあきらめても、病院や介護施設に対しては賠償を求める家族さえあると聞く。

 その対応にリスクマネジメント活動が盛んとなり、行き過ぎると家族との間にギクシャクした関係も……。


 長寿科学総合研究事業転倒予防ガイドライン研究班が作成した『高齢者の転倒予防ガイドライン』を読み返して驚いた。

「高齢者の転倒は疾患であり、事故ではない!」とあるではないか。

「身体的原因による症候群としてとらえ、予防医療に注目し経費を注ごう」とも。


 残念ながら高齢者の「転倒事故ゼロ」は達成不可能な目標だったのだ。


 まして「転倒の責任が誰にあるか」など不毛な議論である。

 ……という認識で使いたいのが、国立長寿医療研究センターの『転倒予防手帳』という優れもの。


〈高齢者の転倒リスク予測〉では、転倒スコア6点以上を「要注意」と判断。

・過去一年に転んだことがあれば5点

・歩く速度が遅くなったなら2点

・杖を使っていれば2点

・背中が丸くなってきたら2点

・5種類以上の薬を飲んでいれば2点


 ステートメント1

【転倒すべてが過失による事故というわけではない】

 転倒リスクが高い入所者については、転倒予防策を実施していても、一定の確率で転倒が発生する。

 転倒の結果として骨折や外傷が生じたとしても、必ずしも医療・介護現場の過失による事故と位置付けられない。


 ステートメント2

【ケアやリハビリテーションは原則として継続する】

 入所者の生活機能を維持・改善するためのケアやリハビリテーションは、それに伴って活動性が高まることで転倒リスクを高める可能性もある。

 しかし、多くの場合は生活機能維持・改善によって生活の質の維持・向上が期待されることから原則として継続する必要がある。


 ステートメント3

【転倒についてあらかじめ入所者・家族の理解を得る】

 転倒は老年症候群の一つであるということを、あらかじめ施設の職員と入所者やその家族などの関係者の間で共有することが望ましい。


 ステートメント4

【転倒予防策と発生時対策を講じ、その定期的な見直しを図る】

 施設は、転倒予防策に加えて転倒発生時の適切な対応手順を整備し職員に周知するとともに、入所者やその家族などの関係者にあらかじめ説明するべきである。

 また、現段階で介護施設において推奨される対策として標準的なものはないが、科学的エビデンスや技術は進歩を続けており、施設における対策や手順を定期的に見直し、転倒防止に努める必要がある。


*『介護施設内での転倒に関するステートメント』

  https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/important_info/20210611_01.html


*『高齢者のための転倒防止セルフチェック』

  https://www.ncgg.go.jp/hospital/tento/index.html


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