賢一が変わるきっかけ
一ノ瀬 夜月
第1話
あの時、優子先生がいなかったとしたら、俺は今、この大学にいないだろう。それに、教師を目指そうとも考えなかったはずだ。
これは俺の恩師である優子先生と、当時高校生だった俺、賢一の話だ。
僕の名前は、
高校受験当日、僕の精神状態はかなり追い込まれていた。元々僕は、緊張し易い体質で、その上、母が絶対に合格しなさいと圧力をかけて来たのだ。
母は、自分の行きたい大学に受かる事が出来なかったようで、僕が代わりに大学に受かって欲しいと思っているみたいだ。それと高校受験に直接的な関係は無いのだが、偏差値の高い高校に受かれば、その大学へも行きやすくなると考えているらしい。
母の言うことは絶対ではない事は分かっている。しかし、僕は逆らう事が出来ない。ほんの少しの反論だって出来やしない。だから、今回の受験にも受からなければいけない。
そうして、緊張と不安を抱えたまま、試験が始まった。試験は五教科で、制限時間は、一教科につき五十分。最初の教科である英語は得意なので、難なく終わった。続く国語もそこそこ解けたはずだ。
しかし、問題は次の教科の数学だ。数学は、僕が最も苦手な教科で、事前の模試でも七割を超える事がほぼ無かった。試験が始まり、問題を確認すると予想以上に難しそうだった。特に、図形問題が全然分からなかったので、ひとまずとばすことにした。
そして、他の問題を解いていたが、正直、正解か怪しい問題ばかりだ。しかも、残り時間がたったの3分しかない事に気づいた。このままでは、あの図形問題が解き切れない。それどころか見直しすら出来ない。僕は混乱して、思わず周りをキョロキョロしてしまった。
その時に、ななめ前の受験者の回答の一部が見えてしまった。わざとでは無く、偶然だったが、僕はある事を思いついてしまった。
「見た答えを写せばいいんじゃないか?」
という、とても汚い発想だ。普通の人なら、絶対に許さないだろう。しかし、僕は、僕はこの学校に受からなければいけない。それには、テストの点が必要不可欠だ。だから、これは仕方のない事なんだ。
結局、僕はカンニングを実行してしまった。偶然にも、試験官にはバレていなかったが、内心はかなりヒヤヒヤしていた。
その後、昼食を挟み、気分を切り替えて試験に臨んだ。他の二教科は、特に問題なく終わり、後日面接を受けて、僕の受験は幕を閉じた。
その後、結果を確認すると合格していて、念願のN校に入学する事が出来た。当時は罪悪感でいっぱいだったが、今では徐々にその感覚も薄れてきている。何故かと言うと、僕は高校に入ってからも不正行為を続けているからだ。
不正行為といっても、カンニングなどの大きな事では無く、テスト返却後、回答を一問だけ書き換えて点数を上げてもらうという方法だ。
一問だけなら、教師側も採点ミスだと判断して、簡単に引っかかってくれる。
そう考えているうちに、今回もテスト返却の時間がやって来た。返却される教科は、僕の大嫌いな数学だ。まぁ、点数次第だが、悪かったら、絶対に書き換えてやる。
「次、空木くん、前においで。」
数学担当の優子先生に呼ばれて、僕はテストを貰いにいった。しかし、テストの点を見て、固まってしまった。点数が、58点だったからだ。周りから見たらそんなに悪くないのかも知れないが、平均の68点をかなり下回っていた。こんな物を母に見せたら、きっと大目玉に決まっている。
なので、また回答を書き換えることにした。ちなみに、今回は二問書き換えてた。慎重に周りを見渡し、怪しまれていないかを確認したが、一瞬、優子先生と目が合ってしまった。
しかし、優子先生は何事もなかったかのように話を続けた。あの先生は、おっとりとした性格で、普段からよく抜けているから多分大丈夫。
その後、点数を修正してもらい、無事に乗り切ったなどと思っていたが、授業後に優子先生に呼び出されてしまった。
優)「空木くん、何で呼び出されたのか分かるかな?」
空)「分からないです、何か御用ですか?」
しらを切り通すつもりで言ったが、優子先生の目は真っ直ぐこちらを見つめていた。
優)「さっき返したテストの回答、書き換えたよね?」
まさか、バレていた?でも、証拠はないはずだから乗り切れるか?
空)「それは...」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます