大好きなゲームの世界に転移したニートは本領発揮する

TEN

第0章 ニートゲーマー異世界へ

1話 ニートゲーマー

「こんな世界になんないかな~」



 私は春川裕香はるかわゆうか、二十七歳。

 半年前からハマっているゲームがある。


 それは――



 Endエンド ofオブ the Worldワールド

 通称『E.o.W.』。



 私の望んでいる世界そのもの。

 私と恋人の峰野大輔みねやだいすけは毎日仕事もせずに、トイレとご飯と睡眠時以外は常にコントローラーを握っている。

 まぁつまりクソニートってわけ。


 このオフラインゲームを、部屋に40型液晶テレビを二台並べて、私達は隣で個々にプレイしている。

 決して金持ちではないが、こういう楽しみ方もアリだと思う。

 まぁ、二人で一緒のオンラインゲームをプレイする時もあるのだが……その話はいいだろう。

 今はこのゲーム――E.o.W.が最高に楽しい。


 そして今日も、私たちはこのゲームにのめり込む。


「お前、こんな世界に、なったらなったで大変だと思うぞ?」


 この時の私はまだ、この言葉の本当の意味を理解していなかった。


「だってさ~こんな世界になったらすごい楽しいよ、多分! いや絶対!」


 荒廃した世界に憧れているというか、もうなってほしいとすら思っている。

 みんながシェルターに隠れている中、私は荒廃した世界で基地を見つけて、物資探しに行って、突然変異した巨大な生物と戦う。

 こんな面白そうな事ある? ってくらい楽しいよきっと。


 ――そんな甘い考えを抱いていた。


 シェルターとは、核爆弾の影響で放射能だらけになった外に、出られない人達の住む一時的な施設の事。


 ――核戦争。


 それは世界のあちこちに核爆弾が落ち、その影響で動物や昆虫――生物が、消し飛ぶか突然変異して巨大化した。


 人間は、生物が巨大化するより、もっと悲惨な状態になった者も数知れない。


 核爆弾の影響で世界中には大量の放射能が溢れ、その影響で体がただれて、知能や感情を失った者はグールと呼ばれる。

 そして突然変異して巨大化し、人ならざる姿をした者はミュータントと呼ばれた。体はゴツゴツし、緑色をした奇妙な二足歩行生物だ。


 どちらともに言える事は、こんな世界にした人間を恨み、見境なく襲ってくるという事だ。

 まぁグールは憎しみという感情すらないから、本能的に襲ってくるのかもしれないが――

 どちらにせよ凶悪な存在だという事に変わりはない。


 そしてこんな世界でも、助け合って何とか生き延びて生活している人がいる施設がシェルター。

 戦える人は外へ物資集めに、そうじゃない人は中で農作物を育てたり店を開いたりしている。

 働かない者や戦えない者は飢え死ぬ。無意味に外に出た日には無残にも殺されて終わりだ。そんな死体がこの世界には無数に転がっている。


 ――そんな世界。


 自給自足で崩壊した世界で生き延びる。

 私はこれを望んでいる。狂ってると言われればそうかもしれない。

 でも私は、この何の張合いもない日常、平和ボケした日本、いや世界が嫌いだ。


 私の考えは誰も理解しようともしないが、これは私が本当に望んでいる世界なのだ。

 これまでもこれから先もずっと、この考えを理解出来る人は現れないだろう。


 ――大輔以外は誰も。


 私が生きている内にそれは叶わない。

 分かっている事だけど残念でならない。

 だからこそ憧れを抱いているのだ。

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