虚像の殺害、チンクルホイ

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きみがくだらないネタツイにいいねしてるのを見てああやっぱり“きみ”は私が勝手に創り上げた虚像に過ぎないんだなと思いました。私の文章は読まないくせに、活字は極力避けるくせに、あの子の歌う歌詞は大切にするしちょっとエモいとか言われてバズってる二番煎じみたいなしょーもない知見(笑)にはいいねするきみはちゃんと大学生だしやっぱり“きみ”はちゃんと虚像だ。もう私の手紙を読んでも泣いてくれないんだろうな、あーあ、だって“きみ”じゃないもんね、きみはさ。私、誰のことが忘れられないんだろう。ずっと誰に執着してるんだろう。失恋して互いに励まし合っていた人たちが、元恋人のことが忘れられないと一緒に嘆いていた人たちがいつの間にかみんな新しい相手と前に進んでゆくのを見ているとなんだかとてもかなしい気持ちになる。本当は祝福すべきことなのに勝手に置き去りにされたような気持ちになって、ばっかみたい。結局そんなもんなのかよ。私が蹲って泣いている間にきみは他の子と半年記念日を迎えていて、私がこうして一歩も前進できずにいる間にもきみは確実に前に進んでいてさ、あーあ、本当に何やってるんだろうな。いつか私に振る舞うと張り切っていた手料理も、私のために夜な夜な作ってくれたチーズタルトも、受験が終わったらまた行こうねと交わしたディズニーランドの約束も、きみのその熱っぽい視線も私にしか見せない崩れた笑顔も上擦った声もその大きな手も、全部全部他の子のものになっちゃった。きみが私との約束を他の誰かと果たしているのを見るのが辛い。何度もきみのプロフィール画面を開いては「ブロック」のボタンを押そうとする度に泣いてしまう。そのボタンひと押しで殺してしまえることは分かっているけど、分かっているからずっと押せない。だってそれって一緒に可能性も潰してしまうことになるから。だけど本当に私たちに縁があるのなら、一度切れてもいつかまた結び直せる日が来るのかな。切るも繋ぎとめるも自分次第だけど、だけど、もし本当に私たちが運命なのだとしたら、一度切れてしまった縁でもいつかまた繋がれるのかな、そうしたら今度こそその縁をかたくきつく結ぶことができるのかな。もうそう信じていないと生きていられないよ。いつかこんな泣いてばかりの夜が報われる日が来るのかな、いつか全部大丈夫になるのかな、これも全部いつかの伏線なのかな、頼むからそうだと言ってよ、ねえ。

あーあ、ピアス開けたってきみとの運命はちっとも変わらなかったな。

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