ねじまき島
深川我無
プロローグ
序曲
私は音無美空。ねじまき島に住んでいる。
ねじまき島は太平洋に浮かぶ小さな島。世界大戦の折に、日本軍によってインフラが整備されたらしい。
ねじまき島の名前の通り、この島は中心に向って渦巻くように海抜が高くなっている。ソフトクリームほど甘くなく、巻きうんちほど汚くない。いわばカタツムリみたいな緩やかな螺旋を描いて、島は渦巻いている。
島の中心(厳密には少し北西にズレているらしいけれど)には巨大なゼンマイ鍵がそびえ立っている。ゼンマイは地下に造られた機関部と繋がっていて、街中にあるたくさんのオルゴールの原動力になっている。
島では一年に一度このゼンマイを巻く、ゼンマイ巻きというお祭りがある。ゼンマイ鍵に巻き付けた七色の縄を引いて、島民一同でゼンマイを巻くの。メイポールダンスみたいに。
島の皆はオルゴールの調べを誇りに思っているから、ゼンマイ巻きの継承と機関部の整備は、島の人達にとって、とても大切なことなの。
私はこの島で生まれてから、今まで一度も島を出たことはない。だから他の世界の常識とか、普通とか、そういうのはよく知らない。ただなんとなく、周りの大人が話すのを聞いていると、どうやら外の世界はこことは全く違う常識で運行しているみたい。
私はこの島が気に入ってる。友達も大好きだし、島の人達も皆優しい。だけどひとつだけ困ったことがある。致命的に耐えられないことがある。
それはこの街のオルゴールのピッチ。
どうやら私は絶対音感があるみたいで、この街に響くオルゴールの狂った音程が耐えられないほど辛い。頭がぐわぐわして目眩がするし、場所によっては頭痛や吐き気がするほどだ。それにとても不安定な気持ちになる……
学校には学校のオルゴール(それも理科室の音楽、体育館の音楽、図書室の音楽といった具合に事細かく別れている)病院には病院のオルゴール、役場には役場の……といった具合に街中狂ったオルゴールの音色で溢れてる。
私が落ち着ける場所は秘密の海岸と森の中だけ。家の中までオルゴールに支配されているから頭がおかしくなってしまいそう。
友達やお母さんに相談してみたけれど、他の皆はなんにも気にならないみたい。
だからある時、私は思いついた。この島の地下に潜り込んで狂ったピッチを自分で直してしまえばいいんだ。
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