短編小説 片想い

H.K

好きだったんだ

少しだけ嬉しかった、うんん、とても嬉しかったんだけど。

 

 あの人は、怖いけど優しい人で、天才的な技を持っていて、沢山の人を喜ばしてあげてて、その人たちの笑顔をみるとあの人も笑顔になって、私にはそんなことできないから。

 

 だから、『好きです』ってメールをもらった時はとても、とても嬉しかった。

 

 でも、私、『人として、とても尊敬してます、が、お付き合いとかは難しいです』ってメールを返してしまった。なんでだろう。

 

 私は自信がないから、あの人のように自信満々、いや、冷静に、包み込むように相手のことを考えながら、考えてはいるんだけど、あの人には敵わない。あの人と同じように相手のことを考えて行動できないから。未熟者。釣り合わない。

 

 なんで、自信が持てないの。

 

 私は、幼い頃から周りに流されていて、自分がやりたいことを後回しにしてしまって、お姉ちゃんのために、妹のために、動いていた。今でもそう。

 

 あっ、これが楽なんだ、私は楽なことばかり選んできたのかもしれない。あの人もいってた『何か新しいことを始める時は、一歩だけ勇気を出して、右でも左でもいいから、一歩だけ出せばいいんだ』って。私にはそんな考えがなかった。

 

 私、新しいこと、始める。勇気を出して一歩踏み出してみる。

 

 海外に留学したい。外国語を勉強して、その国の沢山の人たちと出会って、あの人みたいに相手のことを深く考えられる人間になりたい。

 

 え、あっ、あの人のことを考えてる。いや、尊敬しているから、だよね。周りの人たちもあの人に倣って、動き出してるもんね。自分磨き、自分を高めるんだよ。頑張るんだ。

 

 あの人には相談なんてできなかったけど、みんなは応援してくれる。

 でも、あの人は、ここを離れるって、私のせいじゃないよね。

 あの人はきっと、新しいことを始めるんだ。きっと。

 

 『留学、成功するといいですね、僕は新天地へ向かいます。多分、君のことは一生片思いです、バイバイ』

 

 久し振りにあの人からメールがきた。嬉しい、悲しい、でも、ありがたい。切ない。

 

 あっ、私、あの人が好きなんだ。

 

 終

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短編小説 片想い H.K @st3329

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