食材6つ目 〜愛情〜
「ってか、あれがモンスター……」
俺の名前は山形次郎、41歳。至って思い込みの激しい貴族令嬢だ。いや、貴族令嬢
-・-・-・-・-・-・-
だが気になるのは魚の切り身が落ちてる点だ。切り身だせ?日本のスーパーに普通に売ってるような切り身が点々と落ちてるんだ。まさか、切り身の形をした魚がいるなんて事はないと思うし、そもそも見た事のある切り身しか落ちていなかったんだよな。
「まま、ダンジョンあったよ。あそこが入り口。入ろ入ろ?」
「なんだ、
「ダンジョンは地下牢じゃないよ?ダンジョンはダンジョンだよ?」
「なんだ、英語じゃないのか……。だが、やっぱりここにも切り身が落ちてるから切り身をこのまま追い掛けて行けば、おっさん達と合流出来るって事だな。よし、行くぞ、
ダンジョンは意外と広かった。これじゃ、
俺は物分かりがいいからな、
そんな事よりも、このダンジョンは迷宮さながらで分岐が多く、切り身を頼りにするのは心許なくなっていたのは確かだった。
「なぁ
「おっさん?」
「あぁそっか……。おっさんって言っても分からないよな?」
「その、「おっさん」の臭いが分かれば追い掛けられるよ?」
臭いフェチか?幼女なのに臭いフェチとかどんな趣味してんだよ……とか俺なら思いそうだろ?でも、そうじゃない。豚は鼻がいいとも言うから犬のように臭いを辿れると俺は知ってた。なんせ、トリュフ豚については調べていたからな。
俺はおっさんの部屋から勝手に拝借した剣を
なっ、完璧だろ?どっからどう見ても、勇者みたいだろ?でも飽くまでも拝借しただけだから、泥棒じゃない。だから、窃盗罪には問われない筈だ。無断拝借罪ってのがあれば仕方無いが……な、そんなの無いよな?
「まま、こっちから「おっさん」の臭いがする。付いて来て」
「流石、
「はーい、良い子だからちゃんと、ままの言う事聞く!」
こうして俺達はおっさん達が進んだと思われる方へ向かっていった。
途中途中で、切り身がやっぱりポツポツと落ちてたから、間違いはなさそうだった。
そして暫く進むと叫び声やら雄叫びやら黄色い歓声やらが聞こえて来ていたので、俺の足取りは少しだけ早くなっていったんだ。
「きゃーッ!あなたーッ!カッコいいーッ!痺れちゃうーッ!フレーッ、フレーッ、あッ・なッ・たッ!」
「でぇやあぁぁぁッ!」
——正直な話しなんだが、小学校の運動会みたいな黄色い歓声に俺は頭が痛くなったね。テレビとかでよくあるじゃん?子供を応援する事に必死になるあまり、脚立まで持ち込んで高い場所から必死に応援してる親とかさ……。そんな感じだった。
母豚が宙に浮かんで黄色い声援送っていやがるの。まぁ、宙に浮いてる豚だから、母豚がただの豚じゃない事は証明されたけど、それにしてもあんな歓声に意味があるのかね?
そして、おっさんや兵士が黄色い声援を浴びながら真面目な顔して闘っている事のシュールさが分かる?いや、流石にこれは見ないと分からないよな?だって、それを見た俺も言葉を失ったんだもの。
「ってか、あれがモンスター……なのか?意外と茶目っ気がある姿なんだな?」
「まま、闘う?ままが闘うなら、うちも闘うよ?」
「おいおい、
「まま、うちも闘えるよ?武器は、これでいい」
初期装備の
ガアァァァァ
「後ろから?」
気付けばいつの間にか俺達は囲まれていた。おっさん達とは距離があるし、切り身が落ちてた方から来たから平気だと思って油断してた。
まぁでも、テレビで見たチャンバラ技術がある俺だから、楽勝な筈だし……と、俺は当たり前のようにそう思っていた。
びゅおんッ
「うわぁ、ちょっと待った。まだ俺は剣を抜いてないんだからッ」
「まま、大丈夫?うち、こいつら倒していい?」
茶目っ気のあるモンスターはその外見に似合わず、凶悪な殺意を向けて俺に攻撃して来た。俺はチャンバラ技術でそれを躱したが焦った事も重なって剣を上手く抜けなかったんだよね。まぁ、初陣の武者震いってヤツを経験した訳だ。
逆に
「よし、抜けた。これで俺も……って、あれ?な、なんだこれ?身体が……勝手に……?」
ざしゅざしゅざしゅッ
しゅぱぱぱぱッ
しゅばんッ
それはあっという間だった。俺は見事な剣捌きで俺達を取り囲んでいたモンスター達を斬り伏せていったんだ。闘う気マンマンだった
「まま、強い。流石、ままだね。そうだ、見てみて。モンスターが魚になったよ?」
「確かに、やっぱりこの切り身は、コイツらががががががが……えっ?えっ?えっ?ちょっと、なんで身体が勝手に?そっちじゃない。俺は切り身をぉぉぉぉぉぉぉ。ちょッ、なんでどうなってんだよぉぉぉぉぉ」
ま、意味が分からないと思うから説明するとだな、俺は
俺は剣を握り締めたまま、黄色い歓声が上がってる戦場——要するにモンスター達の群れに向かって、猛然とダッシュさせられたんだ。そこに俺の意思は反映されてないから、意味不明でしかない。
「クレア!?どうしてここに?」
「おパパさ…ん、どいてどいてどいてえぇぇぇぇ。違ッ!俺を止めて止めて止めてぇぇぇぇぇぇ!!」
こうして俺は一人でモンスターの群れに乗り込み、そこから俺の無双劇が始まった訳さ。なんなのかね、コレ?
本当によく分からない身体だよね、
で、結局どうなったかと言うと、俺はその場にいたモンスターを一人で殲滅しちまった。そして殲滅し終わると壊れたロボットみたいに脱力してその場に倒れたんだ。
ぱちっ
「おぉクレア、目が覚めたかい?大丈夫、パパが分かるかい?」
「おパパさん、俺、一体どうなって……?」
「それにしてもクレア、なんで一人で危険なダンジョンにやって来たんだ!危ないじゃないか!クレアの身に何かあったら、パパは……パパは……うっうっうっ……」
「パパさん……ごめん。でも、俺は一人で来た訳じゃないぜ?」
「まま、この人から「おっさん」の臭いするよ?この人が「おっさん」だよ、まま!うちはちゃんと見付けられたよ?偉い?ねぇ偉い?」
「ま、ま、ま、ママぁ?!く、く、く、クレア!い、いつ子供を産んだんだね?そそそ、それに相手はどこの誰だ?パパの大事なクレアをキズモノにした報いを、ちゃあんと取らせないいけないから、全部白状するんだッ!」
正直、おっさんの目は怖かった。むしろ、狂気すら感じた。サイコパスの目だって言えるかもしれねぇ。世の中の父親ってのは皆こんな感じなのか?だったら俺の娘が突然妊娠したら、俺もこんな感じになっちまうのか?
俺はそう考えると、妻が娘を連れて旅立ってくれた事には感謝しかねぇと思ったよ。
「あら?クレアリス、レッドオークに名付けをした……の?——あなた、冷静になって。その子はクレアが産んだ訳じゃないわ」
「なぁんだ、心配しちゃったよ。でもレッドオークなんて……あぁ、あの!」
「あなた?なんでクレアリスがレッドオークに名付けをしたのか知っているのね?それなら後で、
おっさんの次に目の色が変わったのは母豚だ。だが、母豚が話した内容で、俺はなんとなく
確かにあの夜、部屋に子豚だった
だってさ、「おい、こっちに来て一緒に寝るか?」じゃ、なんか可怪しいし偉そうだろ?それにペットなら名前の1つくらい付けたくなるモンなんじゃないか?それとも可怪しいのは俺なのか?
「と、ところでクレア。さっきのは何をしたんだい?クレアがあんなに強かったなんて、パパは知らなかったよ」
「それは、俺の方が知りてぇよ。この剣を抜いたら、突然、勝手に身体が言う事を利かなくなったんだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます