食材5つ目 〜海藻〜

「え、えっと、一体……」


 俺の名前は山形次郎、41歳。至って思い込みの激しい生娘だ。いや、生娘



-・-・-・-・-・-・-



「なぁ、おパパさ……ん。地図ってあるか?」


「急にどうしたんだい?持って来てあげるから、ちょっと待っていなさい。」


 俺は急に不安になっていた。異なる人種に異なる食文化に価値観。それは今日、街に行った時にも感じていた。俺の直感が、この世界は可怪しいって告げてたから間違いない。

 なんせ、家にテレビが無いのが1番デカい。テレビが無かったら、情報なんか入って来ないだろ?情報とか価値観の発信とかどうやってんだろ……って思うよな?家にアンテナが立ってなかったから、多分テレビは無い……多分だけど断言出来る。

 それにその家や建物は木造か石積みやレンガ積みだった。


 日本なら考えられないだろ?大っきめの地震が来たら全部崩れるぜ?そんな街じゃ怖くて住めやしねぇ。地震・雷・火事・おっさんの順番に怖くなるって言うだろ?ん?いや、これだとおっさんが1番怖い……のか?ま、まぁ、ましてやテレビもないんだから、被害状況の報道とか尚更無理だろ。

 だがそれは置いといて、おっさんが持って来てくれた地図はやっぱり俺の不安の通りだった。



「納得したぜ、これじゃ海魚はいないし、海藻もあるワケ無ぇ」


ばたんッ


「あ、あなたッ!大変よあなたッ!ぶひひぃッ」


 なんか、悪い事って重なるモンだよな?海が無いって事実を知った衝撃以外にも、ただの豚じゃない豚が必死の形相で突然やって来たんだから……ってそうじゃねぇ。それだと全豚を否定する事になるから、そしたら俺が半分豚の血が入ってる、クレアの身体を否定する事になる。だから、そうじゃねぇ。



 母豚が食事中にやって来た事で、驚いたのはおっさんだった。おっさんが言うには母豚は仕事で今日は遅くなると聞いてたみたいなのに、血相変えて突然帰ってきた訳だからやましくなくても驚くだろう。

 これでやましい事をしてたら当然真っ青だろうな。



「母さん、一体どうしたと言うのだい?」


「あなた、この街の近くにダンジョンが、ダンジョンが発生したらしいのよッ。姉さ……いえ、女王陛下から突然言われて、それを伝えなきゃって急いで飛んで帰ってきたのよッ。ぶひひぃん」


 この母豚、飛べたんだ……。やっぱりただの豚じゃなかったな。ってか、もう、豚だか馬だか分からねぇ鳴き声になってんだけど……。

 ってか、ダンジョンってなんだよ?英語は良く分かんねぇけど、確か意味は「地下にある牢屋」だっけか?ってか、英語通じんのかこの世界……。そっちの方が凄ぇわ。



 とまぁ、地下牢が街の近くに発生したのがそんなに驚く事なのかは知らねぇけど、そのまま母豚とおっさんは食事してた広間から出ていっちまった。


 その時ちょうど入れ違うように、拾った子豚がつぶらな瞳で俺を見ながらやって来たんだ。腹でも減ったのかな?だから取り敢えず俺は食卓に並んでた中で、子豚が食べられそうな物をいくつか抱きかかえると、俺の部屋に戻っていった。




 翌朝、俺は部屋のベッドの上で目が覚めた。そして、寝惚けながら寝返りを打ったら俺の手が何やら柔らかいモノに触れていた。取り敢えず、寝惚けながらそれをニギニギすると、意外と弾力がある。まだ眠いから目を開けたくなかったし、寝惚けてたから本当に何も考えて無かったんだと思う。だから、そのまま口を近付けていったんだ。



「あっ……あぁ……気持ち……いい」


 流石に俺でも驚いたね。いや、最近驚きまくってる中で一番驚いたって言っても可怪しくないくらい驚いた。いや、驚愕した。あれ……言い換えた必要はなくないか?

 まぁそれは置いといて、驚いたのは当たり前だ。だって、俺の部屋から誰かの声が聞こえるんだもの。それが艶めかしい感じの幼女の声だったら尚更だ。そしてその声は俺の真横から聞こえて来た。と言う事は、同じベッドの上にいるって事さ。

 な?驚愕しない訳がないだろ?



 俺は驚きのあまり眠い目が突然覚醒し、目を開けたんだが……そこにあったのは、赤み掛かった裸身であり、発育途中の小振りな双丘だった。そして俺の唇は、その片方の頂きにフィットした挙句にちゅーちゅーして、舌がペロペロしてた訳だ。食べ物と勘違いしてたのかな?

 でもま、これは性犯罪者確定行為だね。ってかその前に、この子はどっから湧いたんだろ?ここって公爵プリンセス家の家だよね?裸の幼女が侵入した挙句に、俺の部屋にあるベッドの中で俺と一緒に寝てるってどんな理由よ?



「まま、まま、ご飯、ご飯」


「え、えっと、一体……何がどうなってんの?」


「まま、うちの、おっぱい、あげるから、うちに、ご飯、ちょうだい?」


「ね、ねぇ、キミはどこの子かな?なんで俺がママなの?」


「まま、うちの事、忘れ、たの?まま、うちに、「とんこっつ」、って、名前、くれた。まま、うちの、ままに、なった」


「あ……まさか……?まさかだよな?うんうん、まさかに決まってる。そうだ、豚骨!豚骨って名前にしたあの子豚はどこ行った?」


「うち、「とんこっつ」、だよ?」


 こうして俺はママになった。そしてそれと同時に豚骨スープの素も失った事になる。流石に自分の事を「ママ」と呼んで懐いてる豚骨トンコッツをスープにする勇気なんかないし、そんな残虐非道なサイコパスじゃないから当然だろ?

 俺はてっきり、子豚の姿のまま大きくなると思ってたから、喪失感は果てしなく大きかった。



 でも俺は何で急に豚骨トンコッツが成長したかを知りたくて、おっさんを探す事にした。だが、おっさんは見付ける事が出来なかった。ちなみに母豚もいなかった。

 そして3日の間、二人は家に帰って来なかったんだ。




 4日目の朝に俺は街が騒然となっている事に気付いた。どうやら街の東側に住人達が避難しているらしい。ちなみに、俺が豚骨トンコッツと出会ったのは、街の西側から出た所にある森だったから、そっちの方で何かが起きているんだろう。


 クレアの両親が家に帰って来なかったこの3日間、食事は全て使用人が用意してくれたから特に何も問題はなかった。

 流石に豚骨トンコッツをずっと全裸でいさせる訳にもいかなかったから、部屋のクローゼットをひっくり返して取り敢えず着れそうな物を着せておいた。

 クレアの持ってたショーツは、豚骨トンコッツには教育上まだ早そうだったから、そこは察してくれ。でも、ノーパンがいいかどうかのツッコミは入れないでくれると助かる。

 言っとくが、俺に幼女趣味はない。



 ちなみに豚骨トンコッツはこの3日間で、またも成長していった。とは言っても身体的な成長と言うよりは中身の方だ。

 今では幼女化した時の話し方ではなく、ハッキリハキハキとした話しっぷりになっていた。考え方は幼稚だが、ちゃんと聞き分けてくれるいい子になっていたから、俺的には嬉しく思う。

 ただ、俺におっぱいを吸わせれば、ご飯が貰えると考えるようになったのは悩みの種だが、今はどうしようもないから放っておく事にした。


 ってか、こんなに簡単に子育てが出来るなら、苦労してる連中は……ってそんな事を言ったら、俺の身が危険に晒されそうだからやめておこう。




「じゃあ、準備も整ったし、豚骨トンコッツ行くかッ!」


「うん、うちも行く!うちも準備終わった」


 何の準備が出来たのかって?そりゃモチロン、突然出来た地下牢ダンジョンに向かう為の準備さ。



 俺は家の使用人達に話しを聞いたんだ。おっさんと母豚はそこに向かったって。どうやら、その地下牢ダンジョンからモンスターって呼ばれるヤツらが湧き出して来てるらしい。

 おっさん達はこの街の兵士達と一緒に、地下牢ダンジョンから湧き出すモンスター達が、一段落付くまでそこに留まるらしい。

 湧き出してるのに一段落って可怪しな表現だろ?要するに、王都って呼ばれる場所から援軍が来るまで、時間稼ぎをしなきゃいけないらしいって事だ。



 だから、俺としてはその地下牢ダンジョンってのも気になったし、モンスターってのも気になったから向かう事にしたんだ。だけど、ただ向かっても足手まといなのは分かってるから、取り敢えず、家の中を漁ってみて使えそうな物を準備したって訳さ。


 俺はテレビッ子で、よくチャンバラ見てたから剣くらいは振れると思ってる。剣も刀も似たようなモンだろ?ちなみに豚骨トンコッツもお手伝いしてくれるって言うから、荷物持ちを任せる事にした。豚骨トンコッツはこう見えて意外と力持ちだから助かるぜ。

 流石に幼女を闘わせるのは倫理コンプラ的にどうなのって思うから、荷物持ちだけをさせる事にしたし、その荷物のほぼ全部が食料だったりするから、最終的には豚骨トンコッツの腹の中に消える可能性もあるけどな。



「うわッ、こりゃひでぇな。そこら中、死体の山じゃんか!豚骨トンコッツの教育には宜しくない絵面だな」


「まま、こっちに何か落ちてるよ?」


「ん?なんだこれ?ちょ、なんでこんなのが落ちてんだよ?!」


「まま、これ食べれるの?」


「多分な。だけど、今は先に進もう。なんで、こんだけ兵士が死んでるって事は、おっさん達もやべぇかもしんねぇ。あ、でもな、、ばっちいから食ったらダメだぞ」


「はーい、まま。うち、分かった。落ちてる魚は食べないようにするね。でも、これって魚なの?」


 俺達はこうして地下牢ダンジョンに向かって歩き出していった。

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