認知バイアスの解消

エリー.ファー

認知バイアスの解消

「何か食べたいものはありませんか」

「ないですね」

「何か知りたいことはありませんか」

「このあたりの地域では、どんなお祭りをするんですか」

「できる限り、冷たい鉄を持ってきて、壁に叩きつけます」

「それは楽しいんですか」

「楽しいかどうかではなく、お祭りなのでやっています」

「考え方として壊れているように思います」

「壊れた精神状態で成り立つものがお祭りです」

「お祭りを勘違いしているように感じます」

「お祭りが嫌いなのですか」

「いえ、そうではありません」

「それならば、否定せずに受け入れてみればいいのではありませんか」

「受け入れてはいます。しかし、消化することができないのです」

「お祭りと思わずに、儀式だと思えばいいのではありませんか」

「一緒です」




「楽しいお祭りがもうすぐ行われるんだけど、寄っていきませんか」

「嫌です」

「何故ですか」

「お祭りなんて、すべてクソだからです」

「クソということはないでしょう」

「まず、お祭りに良い思い出がないんです」

「金魚すくいの金魚に、母親を殺されたとかですか」

「金魚すくい屋の店主に母親と父親を殺されました」

「意外とハードな人生ですね」

「それ以外に、わたあめ屋の店主に」

「身内を殺されましたか」

「いいえ。親友を殺されました」

「何もかもハードですね」

「そうなんです。ハードコア祭りなんです」

「考え方を改めるべきであると思います」

「はい、すみません。でも、お祭りがとにかく怖いんです。自分の知る限り、お祭りというのは常に呪われていて、叫び声や血飛沫とセットなんです」




「お祭りって、血の香りがするよね」

「そう、その通り」

「それが情緒ってやつだよね」

「そう、その通り」




「今日のお祭り、なんか楽しくなかったね」

「たぶんだけど、誰の首も吹き飛ばなかったからじゃないの」

「確かに。全然グロテスクじゃなくて、すっごく困っちゃった。どう反応すればいいか分からないんだもん」

「結局、刺激が強すぎたから丸くなっても意味なんて何もないしね」

「こんな田舎町じゃ、変なお祭りくらいしか面白そうなものなんてなかったのに」

「めちゃくちゃ退屈だよね」

「本当に、退屈」

「どうにかして、お祭りより楽しいものを見つけないと」

「恋しちゃうとか」

「恋したくなるような相手なんて、どこにもいないよ」

「いや、いるよ」

「どこよ」

「どこにでもいるよ」




「お祭りなんて、バカが叫ぶための理由だよな」

「マジで、そう思う。うるせぇよ」

「静かな町が好きなのにさ、台無しだよな」

「そう、マジで台無し。意味なんか何にもない」

「お祭り騒ぎなんて、ろくなもんじゃねぇよ」

「本当に、その通り」

「俺さ、お祭り。爆破しちゃおっかな」

「すげぇじゃん。でもやべぇじゃん」

「でもさ、やらねぇと誰にもこの思いって伝わらないじゃん」

「分かるけどさぁ。人、結構死んじゃうかもよ」

「死なねぇよ」

「いやいや、死ぬって」

「人は祭りに守られてるから大丈夫だって」

「本当かな」

「本当だよ。だって、俺たち去年の祭りの最中にあった工場の爆破で首以外、吹っ飛んじゃったけど祭りが近くなると、この町に出て来られるようになるじゃん」

「そうだけどさぁ。でも、死んでるのは事実だし」

「大丈夫だって」

「そうかなぁ」

「そうそう」

「まぁ、ちょっと分からせちゃうか」

「分からせねぇと、駄目だって、マジで」

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