sideアルフォード
恨めしい目で私の愛しの妻であるローズを見る女が、おそらく意思に反して去っていく様子を見て、ローズと結婚してからのことを思い返した。
グルーデスト公爵を継ぐことは、後継者候補になった時でさえも考えていなかった。
私の光属性魔法の素養の強さと魔力が、どちらも優れていなかったためだ。
その他の能力で候補に選ばれたものの、グルーデスト公爵家以外の方が自分を活かせると思っていたから、早々に騎士になる努力をすることにしていた。
全てが変わった、ローズとの結婚。
元々望んでいなかったグルーデスト公爵になったが、ローズとの生活は幸せそのものだ。
ローズは虐げられて育ったためか、自己肯定感が低い。
でも、卑屈ではないし、自分がされて嫌なことは絶対にしない、細やかな気遣いができる女性である。
そんな彼女をとことん甘やかすことが、私の結婚後の楽しみになっている。
それは前グルーデスト公爵夫妻も同じようで、彼らは引退しても領地には引っ越さず、なにくれとなくローズを構い倒している。
公表はしていないが実の祖父母と孫だから、孫がかわいくてしかたがないのだろう。
ローズ独占できないのは残念だが、夫妻にかわいがられているローズは嬉しそうだから、微笑ましく見守ることにしている。
グルーデスト公爵としての仕事も順調だ。
私に当主交代することで心配された光属性魔法の依頼だが、依頼者全員に満足してもらうことができている。
それは、ローズが協力してくれているからだ。
ローズが光属性魔法の素養持ちであることは公表していないし、今後公表されることもない。
ミュゼラン公爵家を追い落とすためだけに、ローズまで傷つける必要はないからだ。
それに、ミュゼラン公爵家の面々は積極的に何かしなくても、幸福とはいえないありさまになっている。
闇属性魔法のおかげで、まだ公爵位が保てているだけだ。
表立ってはできないローズの光属性魔法だが、彼女は婚約した時から真面目に学び続けて、今では高レベルの魔法でも使えるようになっている。
私では辿り着けない高みだ。
そして全てのローズの功績は、私や、事情を把握していて信頼のおけるグルーデスト公爵家の光属性魔法使いのものになっている。
人目を避けられる依頼は避けて行い、結界張り等の人の目の前でやる魔法はあたかもやっているかのように演技して、実際はローズが魔法を行使している状態だ。
ローズ自身の功績にならない上に、心ない者に「光属性魔法が使えない公爵夫人」等と揶揄されることがあるのに、ローズは献身的に働き続けた。
「誰かの役に立てることが、救う助けになれることが、嬉しいのです」と、慈愛の微笑みを浮かべる。
そして、時に辛いことがある学びからも、逃げないのだ。
私はローズが愛しくてたまらない。
騎士の道を捨て、なりたくなかった公爵になったことは、彼女のおかげで一切後悔しないで済んでいる。
もうすぐ、私とローズの最初の子どもが魔力検査を受ける。
でも、結果はどうでもいい。
ただ健やかで幸福であってくれれば、それでいいのだ。
前グルーデスト公爵夫妻も、そう言っている。
この価値観の転換が、グルーデスト公爵家にとってはローズがもたらした一番の財産かもしれないな。
私はローズと共に、幸福に包まれた光の道を歩む。
私が隣にいる限り、ローズが不幸になることは決してないと誓おう。
「ローズ、愛している」
「私も、アルフォード様を愛しています」
幸せな未来は誰にも奪わせない 和泉あき @izumiaki
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