第44話 ミラクルミクルとはーとふるなコント(ミクル視点)

「不思議なものですね。同じ高校を卒業してバラバラの学校に行っても、こうして四人揃うことがあるなんて」

「……だったら少しは遠慮しろ」

「いえ、ジーラさんの奢りということに甘えてですね」


 有名店のカフェテラスにて、私はテーブルに隙間なく置かれた料理を前にきちんと手を合わせて食べることに専念する。


 今日もジーラさんが料理のお支払をしてくれると言うので、ほぼ全てのメニューを制覇して(注文)みました。

 何かジーラさんの顔色が悪いみたいですが、お仕事で疲れてるのでしょうね。

 あまり根を詰めないで欲しいものです。


「なあ、ミクル。いつも思うんやけど何で財布を家に忘れていてくるわけ?」

「そうですわ。通学には電車は必須でしょう?」


 私は三個目のハンバーガーを食べる手を止めて、ポケットから一枚の券をケセラさんたちに見せる。


「定期券というものがありますので」

「ほおほお、お米券の次に便利なやつか。それなら確かに」

「リンカはてっきり自転車で来てるのかと思ってましたわ」

「いや、乙女に片道10キロ越えは辛いで……」

「えっ、食欲魔女なら、それくらい余裕なのでは?」


 リンカの常識のない問いかけに不思議と高揚した私はハンバーガーを飲み込んでから、リンカに一言言い放つ。


「魔女ですかー。魅惑な香りがぷんぷんですね?」

「ひき肉と玉ねぎの匂いならするけどな」

「なるほど。天然の香水ですか」

「誰が買うんやね。そんなハンバーガーな香水……」

「でも実際にはあるらしいですわ」


 リンカさんがスマホを見せながら直火焼きの香りがどうこうと言ってますが、私を庇っての発言みたいですね。

 これは大変おみそれしました。


「なあ、ミクル。こんなにあるんならウチにも一口くらいくれや?」

「はい、しょうがないですね」


 私はパンをちぎってケセラさんにお裾分けします。

 確かにみんながいるテーブルを私だけの料理で占領して、一人で食べるわけにはいかないですよね。

 最後の晩餐の絵画にも失礼です。


「はい、どうぞ。ケセラさん」

「どうぞって、こんな切れ端をくれても……ウチは鳩やないで」

「ええ。私なりのハートの籠った精一杯の気持ちです」

「ミクルちゃんって天然に見えて、たまに鬼畜な面がありますわね」

「……鬼教官」


 お三人さんからお褒めの言葉を頂いた私はその答えを明確に伝える。


「いやですね、教官とか呼ばれると照れてしまうじゃないですか♪」

「ミクルちん、それガチで言ってるん?」

「もうケセラさん、何年の付き合いになるんですか。私は嘘はつきませんよ?」

「つまりだ、ウチはモルモットのように食べ物の切れ端しか食わせんわけやな……」

「……通称、半切れミカン」

「あっ、ミカンなら、それ系のタルトもありますよ?」


 私はナイフとフォークでミカンのタルトを丁寧に一口サイズに切り分けて、空いているお皿に盛り付けてケセラさんに渡す。


「そうやで。ミクルも話が分かってるって……何なん、その鋭い目つきは?」

「はい、それで最後のタルトなんです。我が子のように旅立ちを見守るのは当然です」

「だあー、そんなにガン見されると、めっちゃ食べづらいわ……」


 我が子タルトは灼熱地獄の異世界でも元気に過ごしてくれるでしょう。

 恨むならケセラさんの旅路ではなく、食いじを恨んで。


「いや、争いからは何も生み出せませんね」

「……妄想なら無限大」

「なるほど。こうやってパンやお菓子を巡っての第四次元世界大戦が起きるのですね」

「リンカ、そのトラエモンのような発言、本当に現役の大学生か?」

「失礼ですわね。発想が良いと言ってもらいたいですわ」

「えっ、箸置きが良いですか?」

「ミクルちゃんのその耳は飾りですのー‼」

「はい。ごもっともです。人の話を聞くためにあります」

「はあー、この娘は全然分かっとらんわ……」


 ケセラさんが重苦しい表情で何かを訴えているようですが、裁判を起こすのなら弁護士さんも呼ばないと。

 多数決で決めてしまってもデザートだけに味気ないでしょうから。


****


「……み、みんな!」

「……いつもこの店に来てくれてありがとう」


 カフェテラスでのお会計を無事に済まして、お店を出ようとした所を引き止める見習い店員のジーラさん。


「何言ってるん。ウチらが来たいから来てるだけや」

「そうですよ、ジーラさんが頭を下げる必要はないですよ」

「ミクルは一回きちんと謝らんといけんけどな……」


 ケセラさんが会計のレシートを見せて、いつもより数倍引きつった笑顔を私の方に向けてくるのですが、そんなに酷いことをしたでしょうか?

 みんなで仲良くお裾分けもしましたよね?


「じゃあな、ジーラ。また来るからな」 

「その時には私が奢りますからね」

「ミクル、その口だけの台詞、何度目や?」 

「3000℃くらいでしょうか?」

「うーん……そう言う反応で来たか」


 ケセラさんが難しい反応をしながら、うんうんと一人で頷き出す。


「まあ、鉄は熱いうちに打てと言うからな」

「ケセラちゃんも大変ですわね」

「リンカもジーラの今後を見送らないといけんやろ。覚悟は決めとん?」

「ええ、腹切りは覚悟のうえですわ」

「まさにお侍さんやな」


 ──こうして私たち三人は近場にある駅までの道のりを徒歩で進み、色んな話題に華を咲かせました。


 ──これからも私たちには様々な困難の壁が出てくるでしょう。

 でも私たちは時に後ろを振り向きながらも、前を向いて壁を破壊しながら頑張っていかないといけません。


 もう四人だけのコントな話ではなく、皆さんに通じるはーとふるなコント(会話)を目指していかないといけませんから──。


 私たちが繋げていく物語に、今までもこれからもありがとう──。


****


「──おい、結局、僕の出番はあれっきりないんひょ?」


 出番のほとんどなかったタツノ君(第14話より)も神のご来光のように輝いてたよ。


 このコントのトリを務めて、どうもお疲れ様でした……。


「トリじゃなく出番をよこせひょ‼」

「いえ、この物語もここで終わりですので」

「君たちふざけとるんひょう‼」

「元のジャンルは百合ですから」

「くっ、次の生まれ変わりは乙女希望だひょ‼」


 それは却下です。


「なんだとおおおおー‼」


 それでは最後に除夜の鐘のようなタツノ君の雄叫びを聞きながら、さよなら、サヨナラ、sayonara。



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