第30話 シングル、ジングル、シンクロイエナイト(ケセラ視点)
「……ジングルベール」
「……シングルヴェール」
「……シンクロオールアウェブ!」
四人で食卓を囲んだ聖夜にジーラの甲高い歌が炸裂し、ウチはハンバーグを切っていたナイフを止める。
今日はクリスマスやけど、そんなん聞いたら食欲が失せるわ。
「ジーラ、納豆かき混ぜながらその歌はやめよーや」
「……風情があって自分は好き」
「その替え歌のどこにそんな要素があるん?」
「……フッ」
テーブルから右隣にて、鼻で笑ったジーラが箸で納豆を首の位置まで持ち上げ、ネバネバさせてる。
何かの健康食品のPRかいな?
「……シンクロオールナウェブ!」
ジーラが糸を引いた納豆を見せながら、ここがポイントと言いたげに納豆を強調する。
見事に納豆と協調(シンクロ)してるな。
「
「……実際にナットウク王という王様がいて」
「それは納得いかんな」
あの良心価格で大量に消費される納豆を裏で操ってるヤツやで。
モヤシ並みにヤバいやんか。
「それよりもケセラさん」
隣の席にいたミクルがナイフを動かす手を止めてウチに訊いてくる。
「いくらジーラさんがクリスマスに肉はタブーだからって、ジーラさんだけ納豆は酷くないですか?」
「ウチは本人の意見を尊重したんやで」
「……ズバリ畑の肉とも言う」
ジーラが納豆を荒々しくかき回す振動でテーブルが激しく揺れる。
「なっ、何ですの? 聖夜に大地震?」
リンカが揺れるコーヒーカップに視線を落として尋常じゃない顔つきになる。
この世間知らずのお嬢さんは目の前の現状を全く理解してないな。
「……フッ。その自信(地震?)はどこからやって来るのか」
「能書きはいいから早く食えや」
「……待て、ハードウェアに録画する」
「そりゃ、上書きや!」
ウチは隠し持っていた秘密兵器でジーラの心を叩く。
ツッコミという見えない武器で。
「ケセラさん、あの……下書きするんですか?」
「いや、そんなんちゃうよ」
ミクルがスカートを両手で押さえながら、頬を赤く染めて俯いてる。
この子はこの子で何を妄想してるん?
「それにしてもクリスマスパーティーのわりには随分と質素な料理ですわね」
「……酸素も含んでる」
「そりゃ、窒素や‼」
「ああ、そうですのね」
問題が解決したのか、華やかな笑顔になったリンカが両手を合わせて、うんうんと頷いてる。
今のどこに納得できる部分があったん?
……まあ、それは物置部屋に置いといて。
「元はと言えば、乗用車でウチの家に突っ込んできたリンカのせいやろ?」
「すみません、アクセルとアクセルを踏み間違えましたわ」
「どっちも一緒やろ!」
リンカの不慣れな乗用車運転の駐車により、ウチの家の一階部分が破壊され、急きょ修繕と言う形になったけど、まさかクリスマスにやらかしてくれるとは……。
そのせいで家の修繕費にお金がかかり、クリスマスの料理まで手を回せなかった。
そんな切ない事実……。
(バッドルート確定)
「……大丈夫、人類みな姉妹」
「はい。笑って話せば分かってくれますよ」
「いや、普通に笑えんやろ?」
いつからこの3人のIQは猿並みに下がったん?
いや、猿の方が賢いか。
片手のさつま芋を頬張りながら、如意棒みたいな物干し竿とか器用に操るもんな。
「お陰で今年のクリスマスは散々や。たまたま買い置きしてた食材があったから助かったけど」
「冷蔵庫に窮地を救われましたわね」
「あんなあ、その張本人が何を……」
大体、自動車免許の仮免がとれたからって、いきなり自動車学校の敷地外を走るのが悪いやろ。
助手席にベテランな乗務歴なドライバー=執事さんがいたら、教習指導員抜きで路上オケとか言ってるけど、そのテイクアウトオケ? のせいでウチの家が半壊やで?
おまけに事故を起こしたリンカ本人は惚けたふりして『クリスマスは慌ただしいですし、修繕費は年末でいいですか?』とか言ってくる始末。
あー、今すぐにでも乗用車ごとあのお嬢さんを海に沈めたいわー‼
いや、本気ではせんけど、それくらいウチは腹を立ててるってことや。
「まあまあ、そう怒らないで下さいよ。
「……ほとんど冷凍食品だけにw」
冷めてて悪かったな。
そんなに言うならファミレスのコック長に作ってもらえや。
「あんたらはジーと指をくわえて食卓におっただけやろ?」
「だってヤケドしたら危ないですし」
「……袋で指とか切ったり」
「レンジから開けたら大爆発とかもありえますわ」
「そんな不便な冷凍食品なら、誰も買わんわ‼」
お手軽さを売りにしてる商品にそんな危険はないで。
まあ、確かにリンカの言う通り、レンジから出す直後は要注意やけど。
「ケセラさん、どうかしました?」
「いや、何でもないで……」
もう
問いつめた分だけ変な答えが返って来て、余計にご飯も不味くなるし……。
「何か、ケセラさん、今日はやけに大人しいですね」
「……年中繁盛期じゃなかった」
「そうですわ。年中いらっしゃいませのノリでしたわよね」
「……いらっしゃーい‼」
「いえ、ジーラさん。ケセラさんはもうちょっと棒読みな発音ですよ」
「……イラッシャイ?」
「うーん。それはそれでイラッと来ますわね」
リンカが指をこめかみに当てて真剣に答えを出そうとしてる。
いや、何でそんなにジーラの真似事に食い付くんよ?
その本人はあんたらの目の前にいるんやで?
「あー、黙って聞いてる方が苛つくわー‼」
「ケセラさん、やっぱり無理してたんですね」
「……言いたいことはハッキリと」
「白黒ハッキリし過ぎや‼」
ウチが怒鳴るのを抑えたリンカが落ち着いた顔で自前のバッグから例の物を取り出した。
「もういいですから。さっさと食べてゲームしますわよ」
「「はーいー♪」」
ここは保育園か、動物園なんか?
そう思いながら、無心でハンバーグを頬張るウチ……。
『ガリッ‼』
あっ、この部分の肉冷たいで。
うまくレンチンされてないやん。
これがホントの半バーグならぬ、ガリガリ君ビーフシチュー味ときたもんや……。
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