第23話 奢りますよ、怒りますよ、奉行が起こりますよ(ケセラ視点)
「さあ、今日はリンカの
「「「いただきます!」」」
丁寧に両手を合わせて、食文化に感謝をするウチら。
「じゃあ、遠慮なく逝かせてもらうよ、姉御!」
ケセラは席についたリンカに指を突きつけて大きく宣言する。
先制ホームラン(メニューの注文)を取るのはウチやで。
「店員さん、このロースとカルビをじゃんじゃん持ってきて‼」
──今、ウチらを含めた例の四人はとある焼肉店に来てる。
日曜日のランチタイムなのに他に客はいなく、さらに今日はこの食事の支払いは全てリンカ持ちだからって、やたらと気前がいいじゃない。
気になってリンカを問いただすと、最近、親が所有していた株が上場に乗り、大儲けとなったので、それで子供のリンカにも小遣いをいつもよりアップということになったらしい。
それで一人じめしても
内装もインテリでお洒落で、おまけに壁には芸能人のサインや金箔まで貼ってて、いかにも金搾り取りますよー‼ 的な店内やで。
──こんな高級店に我が物顔で来るリンカも毎月いくら小遣い貰ってんのやろ。
いいなー、さぞかしコンビニの唐揚げさんも食い放題なんやろうな。
いや、感傷に浸るのは止めにせんと……。
「さて肉も来たし、じっくりと楽しむで」
「──っておい!」
ケセラが胸を膨らます隙をつき、ジーラが網一杯に大量のキャベツを乗せていた。
「こんなことしたら肉が焼けんやろ‼」
「……ダイエットならまずは野菜から」
「だからって山ほど乗せて‼」
「……これぞベジタリアンピラミッド」
ジーラが薄ら笑いをしながら定員オーバーになったキャベツを焼いてるけど、すぐにしんなりするから焼けるスペースも確保できるはず。
それに別に焦らなくても肉は逃げたりしない。
できる女なら心も広くないとな。
「まあ、前菜のつもりで食べればいいか」
「……繊細な農薬にまみれた優しい野菜」
「余計食う気無くすわ!」
「……洗って食べれば大丈夫」
「いや、普通なら洗って出すやろ?」
「……フィンガーボウルがある」
「あれは指を洗うもんやし、焼肉店にはないで」
ウチはキャベツを摘まもうとした割り箸を止めて、ジーラに睨みをきかせる。
「……うるうる。キャベツに罪はない」
「そうですよ、ケセラさん。玉ねぎでもないのに泣かせたら駄目ですよ」
「いや、玉ねぎ星人でもないし、目の前に人間の罪人がおるんやけど……」
ケセラはよく焼けたキャベツを頬張りながら、その甘味を堪能する。
シャキシャキとした歯応えもあり、舌触りも滑らか。
漬け物じゃないけど、いいキャベツ使ってんな。
「さて、待望の肉といきますか」
「──っておい!」
今度は網の上に大量の玉ねぎのスライスが敷き詰められていた。
またジーラの仕業か!
「ジーラ、こんなに玉ねぎ乗せたら肉が焼けんやろ‼」
「……玉ねぎは微妙に美容にいい」
「だからって山ほど焼くなや!」
「……美容、ビヨーン」
「己はふざけとんのか!」
割り箸をジーラに突き立てて、怒りをあらわにするケセラ。
こうまで分かりやすい態度をせんと分からん子やからな。
「……うるうる。玉ねぎに罪はない」
「そうですよ。戦争をするならよそでして下さい」
「いや、玉ねぎと乱闘するつもりはないんやけど……」
ケセラはよく焼けた玉ねぎを口に入れて食感を楽しむ。
程よい甘味があってジューシーで口の中が優しさに包まれる。
「これまたいい玉ねぎ使ってんな」
「……いい感じに玉ねぎボンバー!」
「おい、さりげなく追加すな!」
玉ねぎの山を平らげ、ケセラは待ち構えていた肉を焼きにかかる。
しかしその皿から次々と消えていく肉たち。
「ケセラちゃん、肉を焼くならこのリンカに肉を任せなさい!」
「奢ると言いながら結局は仕切るのかよ‼」
リンカがトングを手にして丁寧な動作で肉を網に乗せる。
俗にいう焼肉奉行というヤツか。
肉を乗せてこの焼き加減がベストとか、この肉の栄養素はじんわり焼くことによりどうとか色々とうんちくを語りながら肉を焼いていくんやで。
道理で今までリンカだけ大人しかったんやな。
「ケセラちゃん、肉を焼くにも選ばれしものが必要なのですわ」
「……トング攻撃力ゼロ」
「はい、真の道具は持ち主を選ぶと言いますよね」
「いや、そこの金網よりも熱い
勇者ではないリンカの後ろに続くミクルとジーラの暴走を引き止める中、焦げ臭い煙が四人を襲った。
「ゴホッ、ゴホッ……。換気せんもろくにきかんとかこの店の作りどうなってんの?」
「……真の持ち主じゃないと煙の妖精は操れない」
「いや、雷様じゃあるまいし、別に操らんでいいやろ?」
するとジーラが席から立ち、ひとさし指を天井に向ける。
「……ライテイン(来店ー)!」
「調子に乗んな!! エセ勇者!」
今度は勇者ジーラの行動を止めるケセラ。
良かった、ウチら以外に客がおらんで。
「ケセラさん、あれを見て下さい!」
「なっ、リンカが煙にまみれて!?」
ケセラは白く曇った煙で見えなくなったリンカを捜す。
おかしい、さっきまで向かい側に座って肉を焼いていたのに?
「リンカ無事かいなー‼」
「ええ、お陰様で──」
「とぉーても、美味しい地鶏の炭火焼きができましたわ」
「
それで煙がもくもくと舞い上がっていたんやな。
しかも黙々と作業して、人騒がせなリンカやで。
「ケセラさん、次はハラミなんてどうでしょう」
「ナイスミクルちん。お主もたまには役に立つねえ」
「ええ、ありがとうございます。ついでに骨付きカルビとかも注文しませんか?」
「いいねえ!」
****
「……おう、ミクル。ちょっといいか……?」
「はい、なんなりと」
「物事にはな、限度があるんやで……」
「はい、そんなものは越えてしまえばいいのです」
「だからと言って食わせ過ぎや……うぷっ」
あれから山盛りに来た肉を平らげ、身動きもままならないケセラにミクルがてへぺろと可愛く舌を出す。
リンカも満喫した表情で網の上に二個の大きな焼おにぎりを焼いていた。
「リンカ、頼むで。ウチはもう食べれんで」
「何言ってるのかしら。食べきれなくても店員にお願いしたらお持ち帰りできるわよ」
「メニュー表にもTake out okって表記してるわよね?」
確かにメニューの下の方に『Take out ok』と小さな赤い字で書かれてる。
「それを早く言わんかい!」
「ミクルも知ってるんならさあ……」
網の隅でピーマンを焼いているミクルに忠告するが、その言葉を深くは認識してないっぽい。
「ケセラさん……」
「竹がアウトということは流しそうめんは出来ないということですね」
「秋にやるもんじゃないやろ?」
「でも竹が出来ないと店の儲けが減って困るんじゃあ?」
「あー、もう竹の話はええから、そういう経済理論は経営者に言ってやー!」
ミクルが正面にいるおにぎりにタレをつけているリンカの方へと向き直る。
「リンカさん、タケアウトオケの件なのですが」
「はい? タレントオケ? 芸人さんの名前?」
ミクル、焼肉店に来るのもいいけど、もう少し英語の勉強しような。
まずは中学からの基礎からな。
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