第18話 釣り、釣り連れならぬ、釣り暮らし(ケセラ視点)

「ケセラさん、秋の味覚と言えばサンマですよね」

「ああ、分かるで。ここの学食メニューにはないもんな」


 秋の気配を漂わす学校での昼休み、いつもの教室にて食欲の秋の話題になる。


 サンマは鮮度が命。

 日持ちせんから、このような平凡な食堂で作り置きは難しいんよ。


 平凡と聞いたら厨房のおばちゃんから目からビームを食らいそうやけど。

(逆ギレのジャアァァー!)


「……だったら食堂を乗っとればいい」

「なるほど。ハイジャックになったら早いというわけですね」

「いやいや、二人ともおかしいで。ここ陸地やから」


 この二人はたまにこうやって脱線するから元の道に戻すのも大変や。


「……ハイジャックと揉み消された火」

「燃やすなよ!」

「それではテロリストになってしまいますね。乗客の記憶操作をお願いします」

「いや、ミクル、ドヤ顔で言ってもいけないことだから」


 そうやって洗脳したまま、火の鳥は進むんやで。

 嫌な予感しかせんやないか。


「ねえ、そんなに新鮮なサンマが食べたいんなら、実際に釣りをして捕まえてみたらどうかしら」


 クラスメイトとの会話が済んだリンカがウチらの話に首を突っ込みにきた。

 ツッコミどころ満載みたいに。


「あっ、それはいい考えですね」

「……魚類採集」

「レアなお魚さんも釣れますかね?」

「……オオイヌノフグリという品種の」

「いや、ジーラ、それ雑草やから」


 基本、海はポイ捨て禁止。

 許可なく道ばたに生えている草を持ち込まないで。


****


『ザバーン、ザバーン!』


 次の日の休日。

 ウチら四人は大きな白いモーターボートで地元にある海のど真ん中にやって来たで。


「ひゃー、いい眺めやなー!」


 ──このボートはリンカの私物であり、操縦免許を取得してるリンカの執事が運転しとる。


 最初は大事なボートに傷が付くからリンカ自身が運転すると駄々をこねていたけど、ウチが何とか説得させてリンカの執事に運転を任せることになったんよ。

 無免許運転でこのシーサイドを走り回ったら、ジーエンドでたまったもんじゃないからね。

 命あっての物種。


「執事っち、ごめんよ。後でたこ焼き奢るから」


 焼肉のような感覚で言ってはいるが、実際にタコが釣れるとは限らんけどな。


 ウチは拳を天に振りかざし、ニヒルな顔をする。 

 タコなんか釣れたら刺身にして食べたいし、初めからたこ焼きを奢る気など、さらさらないで……。


****


「それでリンカさん、どうやってサンマを採るのですか?」

「……手づかみ?」


 いや、ウチらJKでも熊じゃないからな。

 鮭なら分からんけどな。


「お二人ともまずはこの竿を持って下さいな」

「何ですか、この手品のような道具は?」

「……溺れるものは藁を掴む」


 ジーラ、掴むの意味が違うやろ?


「何か気に障る言い方ですわね……」


 リンカもジーラの発言にウチと同じ思いになったのか、少々不機嫌になる。


「これは魚を釣る釣り竿ですわ」

「……そのくらい言わなくても分かる」

「どう見ても芋づるには見えないですよね?」

「コホン!」


 リンカが軽く咳払いしながら話を続ける。

 明らかに怒ってんな。


「この釣り竿の糸の先端に針がありますよね。その針に餌を付けるのですのよ」

「なるほどの針に糸を通す原理なんですね」

「……少しはンなだけに」


 あの二人はやる気あるんかいな。

 漫才のやる気なら花マルあげたいけど。

 はい、嬢ちゃん良くできました的な。


「それで餌は初心者でも釣りやすいゴカイを使いますわ」


 ささっ!


 リンカがウニョウニョ動くミミズのような生き物を見せた途端、ミクルとジーラが遠ざかる。


「どうかしましたの?」


 さささっ。


 ゴカイとの距離を置く二人とその二人の反応に興味津々なリンカ。


「……それ地球上の生物?」

「ええ、れっきとした魚の万能餌ですわ」


 リンカがゴカイがウジャウジャ入った餌箱を見せつける。

 するとそれに反応して逃げ回る二人。


「イヤー! 火星の遺産か何か知らないけど気持ち悪いから寄って来ないで下さい!」

「……おい、ミミズモドキ。半径五メートル以内に入るな」


 ミクルが真っ青な顔をしてしゃがみこみ、ジーラは折り紙の手裏剣で臨戦態勢をとる。

 その紙の折り紙じゃ、意味なくね?


「だからこのゴカイをこうして釣り針に引っかけてですね」

「ひっ!?」

「ぬおっ!?」


 ミクルとジーラの後ろに回り込み、手慣れた感じで餌を付けるリンカ。

 あっという間にゴカイが付いた釣り竿を手にしたまま、ミクルたちはボケーとしてる。


 リンカやるじゃん。

 百戦錬磨の女王だけのことはあんね。


「さあ、ミクルちゃん、その釣り竿の糸を海へと投げるのよ!」

「はいっ!」


『ジャボン!』


 ミクルが勢いをつけて釣り竿を海に投げ込む。

 一同、その彼女の動きに呆然としてた。


「ミクルちゃん、違うわよ! 何で釣り竿ごと捨てるのよ!」

「えー、だってウニョウニョして気持ち悪いですよ」


『一体、何の罰ゲームですか?』とミクルが親指を突き立てて、リンカに見せる。

 言ってることと顔の表情が真逆やで。


「ああ、あれはお父様が大切にしていた年代物の竿だったのに……」

「……ドンマイ、リンカ」

「そうね、落ち込んでも仕方ないわね」


 ジーラの励ましに元気になるリンカ。

 この二人は良くできた関係ね。


「またネットオークションで買い直せばいいんですもの」

「……そう。相談料のあんドーナツを込みで」


 その二人の言葉にウチの中の何かが切れた。


「あんたら、ふざけてんのかー!」


 海のど真ん中で産声のような大声を上げたウチ。

 その声に魚も驚いたせいか、その日に釣れた魚はゼロやった……。


****


 ──後日の学校での昼休み。


「ケセラさん、今度商店街でサンマの掴み取り大会があるみたいですよ」


 ミクルがそのチラシを見せつけて誇らしげに笑う。


 じゃあ、あの釣りイベントは何なん?

 最初からそうしたらええやろ?

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