第15話 ビニールプール詐欺と、薄布着せ替え人間の命運(ジーラ視点)

「あついですね」

「そりゃ、こんだけも密接してればな」

「早く開けてあげたいと思いませんか?」

「開けるのは前なん?」

「いえ、私は後からです」

「へえー、真面目なふりしてテクニシャンやな。余計開けにくいやろ」


 ミクルとケセラがコンビニで買ったバームクーヘンのスイーツによる包装紙の開け方で雑談してる。

 よくそんなお菓子の切り株を対象として雑談できるな。

 胃に収めたら終わりなのに……。


「ねえ、ジーラさんはどんなスイーツが好きですか?」

「……ううっ」


 コミュ症な陰キャにとって陽キャの気楽な質問には心が折れそうになる。

 何か喋らないととは思うけど、迂闊に返答して爆死したら嫌だし、都合のいい言葉なんて思い浮かばんし……。


「ミクル、人の話を聞いとる? ジーラは饅頭まんじゅうとかに入ったアンコが好きやったやろ?」

「……コクコク」

「あっ、そうなんですね。すみません、ジーラさん。今度お供え物を持ってきます」

「あのなあ、ジーラはお地蔵さんやないで」


 ケセラが腕組みをして、ミクルを説教してるけど、半分は自分がやりたいだけ、多分。


「……では、アンコ餅1個」

「はい、交渉成立です」

「人を無視して交渉すな!」


 アンコが食えればどんな卑怯な手も使う。

 それが和菓子のスターたる務め。


「所でさ、最近真夏まっしぐらで暑いやん」

「だったら移住しませんか?」

「あのなあ、ウチらは渡り鳥やないんやで。そんなにホイホイ移動できるか!」

「……この際だから断捨離だんしゃり

「現役の女子高生に無茶言うな!」


 ケセラはミーハーだから色んな物を持っていているようだから、それを自分が無料で貰う。


 断捨離万歳。

 闇物、病みつき、ウッハッハッ。


「あの……ジーラさんが怖い顔をしているのですが」

「心配入りませんわ、ミクルちゃん。そのにやけ顔はいつもの妄想ごっこですから」


 リンカよ、これはごっこ遊びではない。自分はいつだって本気だ。


「妄想ですか?」

「まあ、大勢の集団よりも一人を好むと、たまにあんな兆候が表れるのよ」

「ジーラさんにも色々あるんですね」


 そう、ボッチさんにも色々とある。

 だから早くあんまんでもあんぱんでもいいから地蔵になった自分に甘い系のお供えをしろ。


「色々ありすぎて脳内が暴走してるということか」

「ケセラさん、ハンカチあります?」

「何や、泣けてきたか?」

「いえ、鼻を噛みたくてですね」

「ポケットティッシュじゃ駄目なん?」

「地球環境に優しくがモットーでして」

「ウチのポケットにしまう環境は無視なんか?」


 ケセラがミクルに突っかかる。

 あの二人は意見がぶつかり合い、いつもああだ。

 たまには休戦協定を結んだ方がいいと思う。


 無事に協定が結ばれた暁には自分を神として崇め、金一封を……。


「……でへへへ」


 金一封貰ったらどうしよう。

 高級栗入りあんぱんとコーヒー牛乳を毎日買って、それをヘビロテして……思わずにやけが溢れて止まらない。


「──でさ、家の前で水遊びなんてどや?」

「えっ、ケセラさんの家には川はないですよね?」

「何言うてる、こういう時こそビニールプールの出番やで」

「あなたって発想が小学生みたいですわね」

「そうか、リンカの好きなゴ○ィバのアイスもたんまり用意してんのに……」

「あっ、いえいえ。まったく大人な対応ですわー!」


 ケセラの陽動作戦にまんまとかかった一匹の蟻。

 その先にはビニールプールという地獄が待ち受けてるのに……。


「ジーラさんも勿論もちろん参加ですよ」

「このイベントはキャンセルできへんからな」

「……会員制?」

「残念。観念かんねんせいやー!」


 ケセラが自分の両手を掴んで苦笑してる。

 初めから辱しめるつもりで?

 くっ、背中もリンカに押さえられ、抵抗できない!


「さあ、ジーラさん。大人しく脱ぎましょうね」

「大丈夫よ、ジーラ。痛くも痒くもないからね」

「フフフ……」


「……ああああー!?」


 仲間から強制的に服を脱がされ、あらわになった自分の姿にミクルが手をかけた!


****


「……うーん、この方法もいまいちですね」

「体位的にも何も感じないんよね」

「でも本人は楽しんでるようですわ」


 自分は色々な水着衣装を着せられ、恥ずかしさのあまりに気が狂う。

 いくら部屋の中とはいえ、薄布をかけ、外しては、またかけての繰り返し。

 自棄やけになり、笑って誤魔化すしかないという行為がいけないの?


「うーん、ジーラさんはこのスク水が一番しっくりきますね」

「せやな、幼児体型やし」

「ええ。リンカのスタイルを分けてあげたいくらいですわ」

「いや、逆に太るやろ」


 そう分かっていたなら、自分で遊ぶには止めてほしい。

 精も根も尽き果てた……それでは皆さんさようなら。


 fin……


「「「勝手に終わらすな!」」」


 ※この小説はまだまだ続きます。

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