第4話 自身、雷、くしゅんとオヤジ(リンカ視点)
「ジーラさん、ちょっといいかな?」
よく晴れた校内の屋上でボッチで焼きそばパンを食べている彼女にリンカが声をかける。
リンカは同じ時期に転校してきた彼女のことが気になってたのだ。
べっ、別に好きとか言う感情じゃなくて気になるというか……ここは女子高だから女の子通しで好きになるパターンもあるかも知れないけど、それは他人の話、リンカには関係ないわよ!
リンカは白馬の王子さまみたいな男の人がタイプなんだから……じー……。
「どう、学校一の美少女から品定めされる気分は? まさに虫眼鏡で照らされた光って気分かしら、ジーラさん?」
「……おお……光あれ……ルギー……」
「……ぶへくちゅぅぅーんー!!」
ジーラが女の子らしからぬ、おじさんのような大きなくしゃみをする。
その声は山彦となり、この学校中にチャイムのように響き渡ったに違いない。
「……それでは至福の一時タイム」
「ちょっと待って、そのままじゃ汚いでしょ!?」
鼻水を垂らしながら焼きそばパンを食べようとするジーラをリンカが何とか引き止める。
そうやってリンカがスカートのポケットから白いハンカチを取り出そうとした時……、
「……これでいい……ぶちゅーん!!」
「なあああーあー!?」
もう信じられる?
リンカの制服のシャツで鼻をかんだのよ!
「……卵かけご飯落としたでオケ?」
「いいわけないでしょ!!」
「……器用に白身だけ」
「そんな器用な特技なんてないわよ‼」
「……通信で習得」
「何の役に立つのよ‼」
「……メレンゲ?」
「ケーキ作りでもないわよ!」
「もういい。あなたなんて知らない。リンカ、明日からもうよその場所でお昼に行くから」
どうせそんな風に自己中な態度ばかりとって、校内で問題になってこの高校に転校してきたんでしょ。
女子高を選んだのも男子から嫌がらせを受けた上での行為かしら。
まあ、こんな所で一人でいるから友達とかにも興味を持たないんでしょ。
「さようなら、ボッチのジーラさん」
「……ボチボチ」
リンカはジーラに別れを告げ、屋上の扉を閉めて、長い階段を下りていった……。
****
翌日はどしゃ降りの大雨だった……。
リンカは雨の日なのに校内にいないジーラを捜して教室や様々な部屋を見回っていた。
「何でどこにも居ないのよ……」
昨日のリンカの余計な一言で傷つき、今日は学校を休むんじゃないかと気になり、出席の名簿を見せてもらったけど、彼女は遅刻ながらも今日も出席していた。
まさかと思うけどあの場所じゃないよね?
リンカは大急ぎで最上階の階段を駆け上がる。
『ドーン!』
大きな音を立てて錆びついた扉を開けると、そこにはコンビニのビニール傘をさして座り込んでいるジーラがいた。
「ジーラさん、あなたこんな所で何をやっているの! 風邪でもひいたらどうするの‼」
「自分はオケ」
「はあ? いくらボッチが好きでもクラスメートが一人欠けてるだけであなたに嫌がらせをさせているようなイメージを持たれるのよ!! ちょっとは協調性というものを理解し……」
「……みぃ」
「えっ、みぃ?」
「あなた、リンカが心配しているのにその言い草は何よ‼」
リンカは何の悪ふざけかと思ってジーラを問いつめる。
「……みぃ」
「えっ?」
リンカはジーラの口が開いてないことを思い知り、その鳴き声が彼女の声真似ではなく、ジーラの背中から聞こえることに気づく。
「……みぃ、みぃ」
「あっ、子猫だったのね」
「……怪我」
一匹の小さな子猫は足に包帯が巻かれていて、ジーラの後ろにそっと隠れる。
「そうか、ボッチと見せかけてこの子の面倒を見ていたのね」
「……いえ、一人は好き」
「自分に素直になってよ。ジーラ、あなたは充分に素敵よ」
「……素敵より、素晴らしいと」
「あなたって本当に強情よね!?」
◇◆◇◆
「──という馴れ初めでジーラと友達になったのよ」
「……そう、戦友」
「ジーラ、この平和な時代に戦争ごっこはやめて」
リンカがジーラとの昔話をしてもミクルちゃんもケセラちゃんも何も文句は言ってこない。
「ケセラさーん、いい話ですよねー‼」
「ミクル、大泣きやな」
「だって一匹の子猫を庇って、リンカさんという悪の手から守って……ううっ……」
「ちょい、趣旨変わっとらん?」
それどころか歓喜のまなざしでリンカを見てくれて、ああ、これが気の合う友達なんだなと心から思わせてくれる。
前の学校では私とは表面的な付き合いで、ただのお嬢様扱いな感じだったから、余計にそう思わせてくれる。
この人たちと出会えて良かった。
「……著作、猫と焼きそばパン」
「ええ。いい大作になりそうですね」
「ウチは何の役なん?」
ちょっと感覚がズレてるけどね……。
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