碧を探して

長月桂花

第1話 手紙

10年後の私へ

拝啓

今、幸せですか?

あの子とは今も友達ですか?

なりたかった職業に就けていますか?

全部叶っているといいな。

敬具

中学3年生の私より


という手紙が片づけをしていた実家の押し入れから見つかった。泣いた。ただただ泣いた。それしかできなかった。独り、子供の頃のベッドに包まり泣いた。ようやく落ち着いた頃にはもう深夜だった。

過去の私に手紙を書こう。そう思った。過去は何をしたって変えられない。そんなことは分かっている。だからこれは、馬鹿な私の無駄あがきだ。


中学3年生の私へ

拝啓

ごめんね。

全部叶えられなかったよ。

中学生、高校生が一番幸せだったよ。

今を大切にしてね。

そして、楽しんでね。

敬具

10年後の私より


碧に光る海。それはまるで宝石のようだった。そして、あの子そのものだった。私から見たあの子はこんな風に輝いている。これはきっといつまでも色褪せない青春だ。



初めてあの子、中尾羽美に出会ったのは中学一年生の時。吹奏楽部の仮入部の時だった。

私は吹奏楽部に入ることは小学生の頃から決めていた。理由は、姉が吹奏楽部に入っていて楽しそうだったからだ。同じ小学校出身の友達と仮入部に参加した。

そこで出会ったのだ。第一印象は可愛らしい子だな。それだけだった。


正式に吹奏楽部に入部することになって、担当楽器が決まった。私は、第二希望のクラリネットになった。羽美はトランペットになった。

私と同じクラリネットの一年生はあと二人いた。そのうちの一人はとても美人だった。その子の名前は串崎綾乃。綾乃の兄は私の姉と同級生で吹奏楽部に入っていた。もう一人も、兄弟が吹奏楽部に入っていたらしい。

その時に思ったことは、先輩たち大変だろうなということだ。何故なら、一年生が皆自分たちの先輩にあたる人たちの妹だからだ。


本格的に部活が始まり、楽器練習や人間関係の難しさが出てきた。先輩たちの指導が厳しかったのだ。その中でクラスは違ったが、綾乃と仲良くなった。綾乃はハキハキしており、とても明るい性格だった。そのため、人見知りだった私にも話しかけてくれて部活も楽しくなった。一緒に先輩たちの愚痴を言ったりして親交を深めた。


羽美とはクラスも楽器も違ったが、綾乃のコミュ力で土日の部活でのお昼ご飯を一緒に食べたりして仲良くなっていった。

これは吹奏楽部あるあるだと思うが、木管楽器と金管楽器には謎の間があった。部活以外の時間は仲が良かったが、部活になると違った。木管楽器の人たちは、練習に厳しく集中していた。対して、金管楽器の人たちは、練習中もおしゃべりしたりしていた。そのため、コンクールなどギスギスしていた時期があった。


しかし、定期演奏会は三年生のラストの本番だったので皆楽しく練習していた。


そして、私たちは二年生になった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る