劉牢之1 淝水

劉牢之りゅうろうし、字は道堅どうけん彭城ほうじょうの人だ。曾祖父は劉羲りゅうぎ、弓の腕を買われ、武帝ぶていに仕え、北地ほくち太守や雁門がんもん太守たいしゅを歴任した。父は劉建りゅうけん。やはり武幹があり、征虜將軍せいりょしょうぐんになった。おそらく謝万しゃまん寿春じゅしゅんを失陥したときの司馬である。ともあれその家門は代々武勇で鳴らしていた。

劉牢之は紫赤色の顔をしており、すれ違う人を驚かせた。一方で口数少なく剛毅、常に多くの計略を頭に巡らせていた。


太元たいげん年間、謝玄しゃげん廣陵こうりょうに赴任。この頃前秦ぜんしん苻堅ふけんが勢力を伸ばしており、謝玄はそれに対抗すべく、任地にて勇士を募った。このときの呼びかけに応じ、謝玄からも認められたのが劉牢之のほか、東海とうかい何謙かけん琅邪ろうや諸葛侃しょかつかん樂安がくあん高衡こうこう東平とうへい劉軌りゅうき西河せいが田洛でんらく、そして晉陵しんりょう孫無終そんむしゅうであった。謝玄は劉牢之を參軍さんぐんとして迎え入れ、精銳を与え前鋒を務めさせる。すると百戰百勝。「北府兵ほくふへい」と呼ばれ、敵軍から恐れられるようになった。苻堅が将軍の句難くなんを派出し侵攻させると、謝玄は何謙らを率い迎撃に出る。劉牢之は別働隊として盱眙うたいに動き、前秦軍の輜重隊を撃破。運搬船を鹵獲し、この功績から鷹揚將軍おうようしょうぐん廣陵相こうりょうしょうに任じられた。


同時期、車騎將軍しゃきしょうぐん桓沖かんちゅうは過去に奪われた襄陽じょうようの奪還に動き、あわせて宣城內史せんじょうないし胡彬こひんには壽春じゅしゅんに向かわせ、桓沖を援護させた。このとき劉牢之も兵二千が与えられ、胡彬に続いた。


淮南わいなん攻略がうまく進まない苻堅はしびれを切らし、弟の苻融ふゆうや驍將の張蚝ちょうこうに兵を与え、またたく間に壽春を陥落させた。謝玄は胡彬や劉牢之に前秦軍を迎撃するよう命じたが、相手は二十万を超す大軍。到底どうにか出来るものではない。胡彬らは硤石きょうせきに駐屯したが、それ以上進むことは出来なかった。一方、広陵の北に当たる洛澗らくかんにも、苻堅は将軍の梁成りょうせいに二万を与え駐屯させた。謝玄は寿春を諦め、劉牢之に精兵五千を与えて梁成の迎撃に向かわせた。


劉牢之が梁成軍と四キロメートルほどのところにまで迫る。このとき梁成は川を天然の堀として布陣していた。劉牢之は參軍さんぐん劉襲りゅうしゅう諸葛求しょかつきゅうらを率い、まっすぐに渡河。敵陣になだれ込んで梁成やその弟である梁雲りょううんを討ち果たし、更に兵を分けて渡し場を塞いだ。前秦の騎兵歩兵は崩潰し、争うように淮水わいすいに身を投げた。殺し獲えること一万人余り、その攻城器具をことごとく鹵獲した。そしてご存知、淝水にて苻堅は大敗。長安ちょうあんに逃げ延び,箇所箇所には前秦軍残党による防衛拠点が築かれた。劉牢之は譙城しょうじょうを陥落させると安豐あんほう太守たいしゅ戴寶たいほうに城を守らせた。

このときの功績から劉牢之は龍驤將軍りゅうじょうしょうぐん彭城內史ほうじょうないしに任じられ、武岡縣男ぶがんけんだん、食邑五百戶に封じられた。


劉牢之はさらに鄄城けんじょうに進み、東晋に帰服しないでいた諸勢力を制圧。河南かなん一帯の城や砦に詰める者たちは劉牢之が来たと聞くと次々に帰順するようになった。




劉牢之,字道堅,彭城人也。曾祖羲,以善射事武帝,曆北地、雁門太守。父建,有武幹,為征虜將軍。世以壯勇稱。牢之面紫赤色,須目驚人,而沈毅多計畫。太元初,謝玄北鎮廣陵,時苻堅方盛,玄多募勁勇,牢之與東海何謙、琅邪諸葛侃、樂安高衡、東平劉軌、西河田洛及晉陵孫無終等以驍猛應選。玄以牢之為參軍,領精銳為前鋒,百戰百勝,號為「北府兵」,敵人畏之。及堅將句難南侵,玄率何謙等距之。牢之破難輜重於盱眙,獲其運船,遷鷹揚將軍、廣陵相。

時車騎將軍桓衝擊襄陽,宣城內史胡彬率眾向壽陽,以為沖聲援。牢之領卒二千,為彬後繼。淮肥之役,苻堅遣其弟融及驍將張蠔攻陷壽陽,謝玄使彬與牢之距之。師次硤石,不敢進。堅將梁成又以二萬人屯洛澗,玄遣牢之以精卒五千距之。去賊十里,成阻澗列陣。牢之率參軍劉襲、諸葛求等直進渡水,臨陣斬成及其弟雲,又分兵斷其歸津。賊步騎崩潰,爭赴淮水,殺獲萬餘人,盡收其器械。堅尋亦大敗,歸長安,餘黨所在屯結。牢之進平譙城,使安豐太守戴寶戍之。遷龍驤將軍、彭城內史,以功賜爵武岡縣男,食邑五百戶。牢之進屯鄄城,討諸未服,河南城堡承風歸順者甚眾。


(晋書84-10)




淝水まわり省略しようと思ったら一瞬で終わりました(あいさつ)


うーんまぁ、正直このあたりが劉牢之にとっての黄金期でしたよねえ。才覚的には朱序しゅじょに戦略任せてその手足として動くのが最良だったんじゃとは思いますが、まぁそううまくいかないのがヒエラルキーの難しいところ。別に朱序との絡みがあるわけじゃないですが、対抗意識を燃やさないはずがないんですよね、どう考えても。結局劉牢之って陣頭指揮最強、なんですよ。なんなんですか五千で二万の敵陣に真正面から突っ込んで大将首挙げるとか。そなたこそまことの三國無双かっつーの。


将来起こる慕容垂ぼようすいとの戦いも、別に絵図引いてくれるひとがいたらもうちょっと違った結果になったのかもしれませんね。なんつーかまあ、ザ・ピーターの法則の体現者だな、って感想です。

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