謝玄4 隠退請願1
「臣は凡人、陛下を補佐しうる才能がないにもかかわらず破格の恩寵を賜りましたため、この才も省みず軍事に、政治に参与してまいりました。
戦地を駆け巡ること、実に十年。つねに鏑矢の音が絶えぬ危地に身を置きつづけ、いくさごとが起これば率先して軍務に名乗りを上げ、その手厚きご恩に答えるべく身を粉とし、いつ死すとも構わぬ思いでおりました。
請い願うは、些細なりともの功を挙げ、栄えある陛下よりの御恩寵に報いること。天は大晉を嘉し、王威のしばしばは高らかに掲げられたること、実に陛下の神武英斷がゆえにございます。どうして陛下に服せぬことがございましょうか。
亡き我が叔父、臣
我らの願いは陛下の威徳を担いて天下を安寧のもとに統一すること。陛下により太平が世にもたらされれば、この凡庸なる臣もいくばくかのご恩をお返しできた、お返しできたこととなりましょう。その上で、亡き叔父のごとく東山に身を引き、道を修め余生を送らん、と考えておりました。
この書面は、包み隠さぬ我が思いを文字として形にしたものでございます。こちらを陛下にお聞き届けいただいたうえで、改めて陛下のお言葉を賜りたく思います。臣がお国のために慌ただしく駆けずり回ったは、実にこの願いのゆえにございました。よもや臣の身に斯くも罪業が積もり、この期に及んで上は叔父の謝安や兄の
悲嘆の毒は我が身を蝕み、幾百もの痛みが我が心を刻むのです。臣にはもはやこれらの寄ってたかる苦しみから逃れきることかなわず、慟哭ひとつのごとに衰えゆくのを感じます。かくなる悲しみを抱え、なお生きながらえておりますのは、たとえ賢哲なる補佐が身罷ろうと、陛下のお示しになられます御威光さえ確かなものであれば、
こうして、あらためて臣のまことの願いを述べたいと願いましたは、国を栄えさせ家を保ち、かくしてこの停滞した情勢を吹き払うことに、皆に余念なく携わってもらいたいからであります。
玄既還,遇疾,上疏解職,詔書不許。玄又自陳,既不堪攝職,慮有曠廢,詔又使移鎮東陽城。玄即路,於道疾篤,上疏曰:
臣以常人,才不佐世,忽蒙殊遇,不復自量,遂從戎政。驅馳十載,不辭鳴鏑之險,每有征事,輒請為軍鋒,由恩厚忘軀,甘死若生也。冀有毫釐,上報榮寵。天祚大晉,王威屢舉,實由陛下神武英斷,無思不服。亡叔臣安協贊雍熙,以成天工。而雰霧尚翳,六合未朗,遺黎塗炭,巢窟宜除,復命臣荷戈前驅,董司戎首。冀仰憑皇威,宇宙甯一,陛下致太平之化,庸臣以塵露報恩,然後從亡叔臣安退身東山,以道養壽。此誠以形于文旨,達於聖聽矣。臣所以區區家國,實在於此,不謂臣愆咎夙積,罪鐘中年,上延亡叔臣安、亡兄臣靖,數月之間,相系殂背,下逮稚子,尋復夭昏。哀毒兼纏,痛百常情。臣不勝禍酷暴集,每一慟殆弊。所以含哀忍悲,期之必存者,雖哲輔傾落,聖明方融,伊周嗣作,人懷自厲,猶欲申臣本志,隆國保家,故能豁其情滯,同之無心耳。
(晋書79-16)
孝武帝末年近くって、ほんとみんなから「お前頼むぞ、マジで頼むぞ、ぜんぜん慢心していい状況じゃねえからな」がひしひしと伝わってきててやばいですね。しかし孝武帝末期のこの情勢って、どうにも史書に載らない隠しベクトルが働いてるようにも思えて仕方ないのですよね。司馬道子司馬元顕の専横だけで片付けていい動きじゃなくない? ならなんで司馬道子はわざわざ低い身分の人間を抜擢しなきゃならなかったの? その情勢って結局劉宋文帝や孝武帝と一緒で、貴族連が国家強化に機能してなかったからでしょ? とゆう。
ともあれ、この先の謝玄はどのように思いを吐露していくのでしょうね。
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