劉波5  氣力懾然

陛下ご自身がいくら倹約に努め、臣下らに憐れみをお恵みくだされたとて、その臣下らが欲の赴くままに市井にて振る舞っておるのです。六司が翼をはためかせれば、三事は手をこまねいて沈黙するのみ。このため有識者はまるで陛下とは関係ないような人物の周りに起きることとして嘆息し、妖事が起こるごとに大いに恐れるのです。


昔、春秋しゅんじゅうそう景公けいこうは火星の逆行を見て大いに恐れ、いん武丁ぶてい湯王とうおうの祭祀中に雉が飛び込んできたことを災いの予兆として恐れました。どちらもその後、名君と称えられておるのは、陛下もご存知のことと思います。


伏して願いまする。


陛下におかれては、はるか禹王うおうが全土の治水に赴かんとされたときのお志を仰ぎ、紂王が酒池肉林の乱倫の末滅びた故事を踏んではならぬ轍とされ、詩経しきょう曹風そうふう候人こうじんを恭公が小人を近づけてはならぬという警句としてものされたことに倣い、また列女伝にある春秋衛しゅんじゅうえい定公ていこうに嫁いだ姜氏きょうしの言葉「公の行いは大臣を捨て小臣と謀られておられる。罪深きことです」を思い出してくださいませ。


そして聖恩を国内にめぐらされ、大いに后らとむつみ、数多なす賢人たちの言葉を受け入れ、政の得失をつぶさにまのあたりとなされませ。 そうして百官に職務を授け、その損益を語らせるのです。そこから原因、由来を探り、各員の才能を確認し、晋という鼎にて美味を生み出されませ。かくして聖意は天に通じ、瑞祥がもたらされることでしょう。さすれば四海が治まり、天下も幸いに満ちるのです。


臣の亡き祖先である劉隗りゅうかいは、昔晋室よりかたじけなくもご恩を賜るも、その操を守り切ること叶いませんでした。これは歴史にも記されているところ、ご恩を返したい想いこそあれど時に恵まれず、泉下にて今なお悔いを抱いております。臣のこの凡劣なるに至りても、結局は志果たしきれぬ者の子孫に過ぎませぬ。斯様なるものに対し、それでもなお陛下より代々のご恩を賜る光栄に浴しております。このくずおれかけ、家を傾けかけぬ身ではございますが、その身振り絞り、賜った御恩に応えたく存じます。


ところで、先にもこの上表をしたためましたが、どうやら陛下のもとに届かなかったようにございます。やにわに病を得、我が余命の残り少なきことを悟れば、目はかすみ息が切れるなか、ただこの愚臣の思いを伝えねばならぬ、と思えてなりませぬ。とは申せど気力も損なわれ、これ以上陛下に何かをお伝えすることももはや叶わぬのでしょう。



この上疏が届けられると、まもなくして劉波は死亡した。前將軍ぜんしょうぐんが追贈された。


子の劉淡りゅうたんがあとを継いだ。劉裕りゅうゆうが簒奪をなすかどうかというタイミングに廬江太守ろこうたいしゅに任じられた。




陛下雖躬自節儉,哀矜於上,而群僚肆欲,縱心於下,六司垂翼,三事拱默,故有識者睹人事以歎息,觀妖眚而大懼。昔宋景退熒惑之災,殷宗消鼎雉之異。伏願陛下仰觀大禹過門之志,俯察商辛沈湎之失,遠思『國風』恭公之刺,深惟定姜小臣之喻。暫回聖恩,大詢群后,延納眾賢,訪以得失;令百僚率職,人言損益。察其所由,觀其所以,審識群才,助鼎和味。克念作聖,以答天休。則四海宅心,天下幸甚。

臣亡祖先臣隗,昔荷殊寵,匪躬之操,猶存舊史,有志無時,懷恨黃泉。及臣凡劣,復蒙罔極之眷,恩隆累世,實非糜身傾宗所能上報。前作此表,未及得通。暴嬰篤疾,恐命在奄忽,貪及視息,望達愚情。氣力懾然,不能自宣。

疏奏而卒。追贈前將軍。子淡嗣。元熙初,為廬江太守。


(晋書69-5)




この劉波、みまかるよりも前に陛下をぶん殴らねばならぬ! 三族の首が飛んだとしたら、まぁドンマイ! 的な気概を感じますね。素晴らしい。


後半は正直まったく意味を取れなかったんですが、きっとこんな感じだといいなぁ! と思いながら日本語にしました。いや、ここ数回のくらすあてね様よりのご指摘もそうでしたが、なかなか漢文を読めるようになる気がしません。どっかできっちり時間を確保してトレーニングしとかないとなぁ。

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