114 女装メイド潜入生活2日目……?

 女装メイド生活2日目になるのか、もしかして初日と思ったのがすでに2日目か。混乱しそうだけど多分2日目。 


 地図を頼りに3階建ての屋敷の地下へと行く、大きな広間が一つあった。

 円形のホールになっており壁際には衣装が沢山並んでいた。大小さまざまなメイド服もかけられており衣裳部屋もかねているのがわかる。



「で。問題の扉はあの二つ」



 左右に扉があり片方が浴室でもう片方が立ち入り禁止の扉だ。

 ためしにドアノブを回し引いても全くびくともしない。



「ふう…………マナオールアップ! マナアームアップ!」



 全身に力が入る。

 ドアノブを触った瞬間僕の中にあった魔力が一瞬で消えた。



「うっまただだ……」



 せめてサーリアでもいれば僕よりいい案が出せるだろうけど、やっぱり開かないか。

 鍵かな? 鍵であればその鍵を探さないと。


 じゃぁどうやって? と言われると僕の目の前に二つのカゴがある、布がかぶせられて、どうぞ調べてください。問う感じだ。


 布を取るとたたまれたメイド服が合った、その一番上に下着もたたまれている。



「ぶっ!」



 慌てて口を押え周りをみても静かで僕一人しかいないようだ。

 え、これを調べるって事? …………いや、まさかね。確認しないと、うん。これは確認だ。


 一番上の下着は触らないといけなくて、地面に置くのは汚いよね、仕方がない……ポケットに入れておくか。

 さすがの僕でも? 広げては調べない。

 



「どう考えてもサーニャさんのです」



 僕は呟いて辺りを見回した。

 何も起きない……おかしい。



「本当にリバーが来ないって事は、本気やばいかもしれない。慎重にならないと、じゃぁこっちのカゴは」



 もう片方のカゴを見るとドキフさんの着ていた衣服だ。

 触りたくないけど、何か手かがりがないかと確認しないといけない。

 鍵でも何かあれば……別に魔物の死骸や泥、汚い物など、グィン達と冒険者を組んでいた時は平気だったはずなのに、最近はそんな事なかったのでちょっとだけ抵抗がある。



「だめだだめだ。いくら強くなろうが、しょせん僕の実力なんて補助魔法の力。うん、初心を忘れたらだめだよね」



 大きな衣服を調べる。

 へえこの服って上の下着がないのか、なるほど上半身の服の裏に縫い込まれているのか。

 パンツのほうは……うわ女性物なんだ。

 股間の所が伸びきってるのはそれだけ大きいって事? うーん想像はしたくない。

 ポケットの中に特に物はないし。



「もう少しマッサージを覚えたほうがいいわね、初日だし許してあげるわサーニャ!」



 っ!?

 右の扉の奥からドキフさんの声がした、やばい、やばい、やばい。僕は調べた衣服をカゴに突っ込むとすぐに隠れる場所を探す。

 幸いに沢山のメイド服がかけられているのでその中に身を隠す。

 すぐに浴室のほうの扉が開いた。


 バスタオル姿のドキフさんと、ビキニ姿のサーニャさんが赤い顔出てきた。


 あの浴室で一体何が……僕が唾をのむとドキフさんがバスタオルを取らないで着替えを始める。器用だなぁ……てっきり男っぽい着替えをするのかと思っていたけどますます女性らしい。



「あらどうしたのサーニャ☆」

「あっいえ……下着が無くて」

「んまっ!」



 やばい。僕のポケットにはサーニャさんの下着が入っている。ドキフさんは辺りを見回し始めた。


 バレた!?


 僕のすぐ目の前までくると、人一人分横にたった。引き出しが開ける音が聞こえ、すぐにその引き出しも閉じられる。


 ぷりぷりと後ろ姿で離れていくとサーニャさんの前まで戻っていくのが見えた。

 バレたかと思った。



「ネズミか何かしらね。これを履きなさい☆ 安心して新品よ。この屋敷にネズミが出ないのもあなた達の仕事よ」

「あ、りがとうございます……」



 サーニャさんはビキニからメイド服に着替え始めた。その間もドキフさんは鼻歌を歌いながら一緒に着替え始める。


 僕としてはドキフさんに注目したいけど、うん。無理だよね。

 つい着替えをしているサーニャさんのほうを見てしまう。だめだ変な癖がつきそうで怖い。


 二人とも地下から1階へと上がっていくのを確認し、僕は口から手を離す。



「あぶなかった……」



 あっやばい。急いで僕も上に戻らないと、メイドは4人しかいないんだ。しかも2人は小さい子供。僕やサーニャさんに仕事が降られるに違いない。


 足音を立てないように1階にいく、こっそり外に出ると屋敷のほうからドキフさんが僕の名前を呼びだした。

 服装は白いブラウスで下は動きやすそうなズボン。水色のブラが透けていて大きな胸が特徴で谷間がすごい。



「あらラック、外にいたのね」

「はっはい! そのどんな魚がいるのかなって」



 地下にいました。とは言えない、何とか誤魔化せたかな?

 ドキフさんは僕をちらっとみたけど特に気にしてないようだ。良かった。



「魚ねぇ……人食いしかいないわよ?まさか泳いで逃げる? とか考えてないでしょうね」

「えっまっさかーはははは」

「そうよね。ここにいれば世の中の男なんてすべて忘れられる楽園よ☆」



 いや。ドキフさんも男ですよね?

 ぐっとこらえる。


「なーに?」

「いえ、その……これだけ高待遇な場所なら、その女装した男性がメイドとして働くって事もあったのかなぁって」

「またその話?」



 やばい。

 少し焦ったかもしれない、ドキフさんの表情が不機嫌そうな顔になっている。



「いえ! ここは素晴らしく女性の楽園だなって思いまして! そんな楽園に男が忍び込んでくることも。そういえばメイド服がたくさんありましたけど、過去にいた人は」

「あらやだ、もう地下まで見に行ったの? 貴方たちの前にいたメイドは☆」



 ドキフさんは僕を見ると舌をペロリとする、寒気がしはじめた。ドキフさんは地面から石を拾い上げると、湖へ投げた。

 そのポーズは素晴らしく湖の反対側へ行きそうな腕力だ。


 その途中で大きな魚が湖から飛び出し、石をたべ湖に戻っていく。



「いなくなった……」

「そう、どうしてかしらね☆」

「さぁ……」



 ごくりと唾をのむ。

 おしっこがちびりそうだ。



「思い出した」

「なーに?」

「夜中にトイレに行きたいんですけど鍵が開いて無くて……」

「夜はゆっくり寝る者よ? もらしたら見せなさい」

「やだよ」



 あっ思わず素で喋ってしまった。



「あのドキフお姉さま。この歳になって漏らすのは恥ずかしいです、それにルシやシルもトイレに行きたい時に困るので」

「もう仕方がないわね、夜の鍵は開けておくわ。湖は危険だから行かないようにね」



 よし、許可は得た。

 後は僕の力が出ない理由を知りたいけど、さすがに僕でもそれは聞けない。



「さて、ドキフお姉さまも仕事をするわ。明日の昼まで部屋に来ない事☆」

「わ、わかりました」



 命令を伝えるとドキフさんは屋敷に戻っていく、後ろ姿だけみると本当にきれいなお姉さん系女性なんだよなぁ……それに全体的に僕達を信じている。というか、裏切られる事を考えて無い。


 そりゃ僕もこんな事が無ければ裏切るつもりはないけど、とてもいい主人に見えてくる。

 屋敷に戻ろうとすると、サーニャさんが走ってきた。

 僕の手を引っ張ると扉の影になるように壁に押し倒してくる。



「ラック!」

「な、なに……?」

「よ、よかった…………生きてた」



 サーニャさんが突然泣き出した。



「えっえ!?」

「ご、ごめん。どこに言っても貴方の姿が見えないから、そのもう殺されたのかと思って私が弟を探してって言ったばっかりに……」

「ああ。大丈夫だよ、それよりもサーニャさんは大丈――っあっごめん聞かない方がよかったよね」



 浴室で男と女が一緒。

 しかも、一人は普通に女性が好きな女装した主人。何も起きない事はないだろうに。



「ラックってデリカシーがないのね。その……私も覚悟を決めて入ったけど、マッサージをするだけだったわ。あっもちろん普通のよ!」

「よかった。これで涙拭いて」



 僕はポケットからハンカチをサーニャに手渡した。



「ありが……」

「あっ…………」



 ハンカチではなく、それはサーニャさんのアレで……気づけば僕のほっぺに大きなビンタが飛んで来た。

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