067 疑似製品と楽に生きる事を勧められる

 僕がユーリーさんに提案したのはステーキだ。

 最後のひとかけらでナイフに刺して二人に見せる。



「このステーキですよ」

「ラック様……長旅でお疲れのようですね。寝ましょう、添い寝いりますか?」

「重圧で頭のほうに……たまにいるんだ新兵の中でもその、任務後に突然おかしくなる奴は」



 綺麗に食べ終わっている二人に頭を心配された。



「違う。いや違います。あのですね、魔剣の偽物を作って交換したらどうかなって」



 僕の提案に二人とも押し黙った。

 やっぱりだめなのかな。

 そうだよね、大事にしてるのをこっそり交換ではなくて誠意ある対応のほうが良いのは違いない。


 ジャックさんに土下座して頼むしかないかな。斬られないといいなぁ……誰かヒーラーを借りて連れていくしか。



「面白い」

「ぱちぱちぱちぱち!♪」

「え?」



 ユーリーさんとリバーが僕を褒めてくれた。

 嬉しいけど、ちょっと考え直す。



「いや。でも……大事な物なんですよね。それを偽物と交換ってのは」

「君、さっきその大事な物を壊して魔力を戻そうとしていたよね?」

「いや、まぁそうなんですけど」

「ラック様。男には堅い意思が必要なんです。毎朝堅くなってますけど」

「ぶっは。ちょ! リバー声が」



 食堂に残っていた兵士がリバーの声で僕を見てくる。恥ずかしい。

 女性の兵士は指さしてるし、男性兵士は哀れみの目で見てくる。



「はい! 張り上げました♪」

「そ。そう……」



 笑顔で言われるともう、僕も怒る力も沸いてこない。



「話はまとまったようだね。贋作か……くっくっくあのジャックがスタン様から貰った贈り物が偽物と気づいた時の顔が見たい、今すぐに」

「えーっと恨みでも?」



 ユーリーさんは笑顔になり静かに首を横に振る。



「ないわよ? ただ何かにつけて第七部隊はゴミ部隊だって上に申告するからね。ここだけの話、第七部隊を一番に目をかけてくれてるのはスタン第二王子なんだ。それも気に食わないんだろうね。

 私はともかく、ミリアやセシリアは単騎の強さではジャックを余裕でこえるからね。実力で来れないからって、ちまちまちまちまちまちま突いてくるのよ」



 うん、これ相当恨みあるでしょ。



「と、いうわけで全く恨みはないわよ。全部ミリアのであるラック君のためよ」

「そ、そうですよね」



 友人という所を強調されたようなきがする。

 いいんだけど、最悪息子じゃなくてよかったのかな?



「じゃぁええっと武器屋とか行きますね。同じような短剣を……あっでもデザインがあまり覚えてない」

「王都に行くといいわ。第七部隊は護衛者を連れ去られた罰も含め辺境地域の警備でここにいるけど、短剣を作った人間にもう1本作らせればいいのよ」



 若干であるけど、僕に対しても文句を言っているような。



「ラック様、連れ去られる警備のほうが悪いんですよ?」

「そうね。今度逃げそうな護衛対象が来たら両手足に鉄球をつける事にするわ」



 リバー煽らないで! あと、ユーリーさんそれを受けないで。



「中々やりますね」

「あなたもね」



 僕を無視して二人は握手しだした。

 基準がわからないけど、喧嘩よりはいい。



「じゃっ食器は置いておいていいわ。別な係が回収するから。あの魔剣を作った人物に手紙書くから……そうねぇ今日はここに泊まるといいし、部屋は前の部屋の番号で手紙は明日の朝に渡すわね。

 私はこの後も任務があるから……くれぐれも逃げ出さないでね」



 逃げ出すも何も、連れていかれただけで逃げ出していたわけじゃない。



「ラック様鉄球つけます?」

「つけない」

「残念です」



 ユーリーさんが席を立つので僕らも一緒に食堂を出た。

 仮宿舎の前にあるベンチへと座ってお腹を撫でまわす。




「ラック様、まさかの妊娠!?」

「食べたばっかりだから撫でてるだけだよ……」

「ラック様、なんでもかんでも正論はだめですよ?」



 なぜかリバーに怒られる。

 確かに僕も冒険者が長い、正論だけでは生きていけない事は知ってるつもりなんだけどね。



「たぶんラック様が思っている事と違いますよ?」

「え?」

「ラック様はいつも考えすぎるんです、楽に行きましょう楽に♪」



 楽にか。

 楽に生きるってどうするんだろう、やっぱりお金を貯めるって事だよね。


 まだ貯金はあるけど、やっぱ稼がないと。

 にしてもやる事がない。

 周りの兵士達は僕を見て挨拶してくれたり、仕事したりして忙しそうだけど、こういう時本当に困る。



 『ラックお前は昔から時間の潰し方が下手だな』グィンの懐かしい声が聞こえてきそうだ。

 グィンは直ぐに酒場にいって女の子をナンパしていたっけ。

 よく出来るよね、それでいてサーリアと付き合っていたって僕はとても無理な話だし。



 ちらっと隣を見ると、メイド服のリバーが僕と同じように椅子に座っている。気を使わせてる感じだよね。



「よし! 買い物行こう。リバー何か欲しいのないかい?」



 僕は椅子から立ち上がる。

 ここは勇気を振り絞っての行動だ。



「宿場なので余りものは売っていませんが……?」

「えっ……ああ、そうだね」



 僕は椅子に座り込んだ。

 やっぱだめかもしれない。



「ここはラック様の勇気を褒めたたえるべきですね、ではリバー。ラック様のご厚意をうけましよう」

「……ありがとう」



 もう一度ベンチから立つと、おみやげ物が売っている店へと歩く。横にいるリバーが僕の目を下から覗き込んでくる。



「ラック様最近眼鏡の調子が悪いです? かけてない時が多いですけれど」

「え。ああ……うん。マナアップを使ってから視力が戻って来たというか、ちょっと度が合わないけど無いと不安で、いまはカバンに入っているよ」



 横のポーチを軽く叩く。



「なるほど。眼鏡をとればイケメンと120%ですよ!♪」



 平凡顔が120%になっても平凡なんだよね。

 まぁでも嬉しい。

 昔は村の人に黒髪だから捨てられたんだ。と言われたっけ。



「何がいいですかねぇ。お姉ちゃんにお土産も欲しいですし」

「あーそういえば姉がいたんだっけ?」

「そうなのですよ。リバーとお姉ちゃんはいけにえの捨て子なのです♪」



 …………やばい。

 これは地雷な会話を引いた気がする。

 話が重たくなる。



「むーラック様がドン引きしてますので、空気の読めるリバーはお話を終わらせます」

「ご、ごめん! そ、そのかわり、ほら何でも買うから。こう見えても白金貨あるし」



 流行りの肉を挟んだパンとかならそれこそ1000個以上買える。

 服でもなんでも買い放題だ。



「ラック様。リバーは構いませんが、お金だけで出すような男性はそれはそれでもてませんよ?」

「そうなのかな……サーリアはそれでいいって」

「でも振られましたよね?」

「うっ……そ、そうだね。心に留めておくよ」



 だって……僕にはお金ぐらいしか。

 でもリバーのいう事もわかる。いつもふざけているけど僕の事思ってくれてるし、気にとめておこう。


 リバーが氷入りのジュースを買ってくれた。

 僕が1本もらいリバーもそのジュースのストローに口をつける。



「何か色々ありがとう、逆に元気を貰ったというか」

「いえいえいえいえ、リバーはただのメイドなので」



 絶対違うよね。

 こんなメイド今まで見た事ないし、これが普通だったらザックさんの家は特殊すぎるよ。



「ラック様って将来の夢とか、無いんですか?」

「前にも聞かれた気がするけど、特に……しいて言えば何もしたくない」

「ラック様、たまにゲスですよね」



 褒めている顔で言っているが、褒めてないよねそれ? それとも本当に褒めているのだろうか。

 まぁリバーだしなぁ。



「正確には、特に問題もなければ辺境で自給自足が一番かな……僕がいた村の村長さんがね――――」



 僕は歩きながらリバーに僕がいた村の村長はいかに楽そうに見えたがを昔話として聞かせた。

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