046.5 (第三者視点・グィン)復讐心は燃え上がる
「酒だ! 次の酒を持ってこい! こきたねえ酒場でも酒のお代りぐらいあるんだろ?」
俺は店主に言うと店主は俺の顔見ただけで奥へ引っ込みやがった。
俺が注文をしても次の酒が運ばれてこない。
「ちっ!」
テーブルを蹴り上げると、昼間から飲んだくれている他の奴らが俺を見て来た。
俺はそいつらの顔を見渡す。
「何か文句あるのか?」
誰一人文句を言わずに、そそくさと店を出ていった。
「つまらねえ。酒もねえのかこの店は!」
椅子を斜めにして倒れたテーブルに足をかける。俺の影に一人の影が入り込んだ。
「僕がおごろう」
金髪の男が俺を見下ろしている。
苦労も何もした事のなさそうなボンボン顔だな。貴族か? 貴族なら俺の事を知っているのかもしれないな。
が。
「いらねえ。失せろ」
「おやおや……君は酒が飲みたいんじゃないのかね? グィン君」
「誰だてめえは」
「スタ……通りかかりの人間ではだめかね?」
すた? おそらく名前だろうが。俺の記憶にはないな。
酔っぱらってるからかもな。はっ!
「うせろ。これでも酒をおごられる相手ぐらいは選ぶっ」
俺は椅子から立ち上がると、金髪男の顔へと蹴りを入れる。
もちろん本気で蹴るわけがない、顔面ぎりぎりで止めた。
にも関わらず。金髪男は涼しい顔をしていた。
「流石A級冒険者、やはり君におごらせてほしい」
「俺が断るって言ってるんだ!」
「まぁまぁ」
こいつもしつこいな。
足を下げ、椅子に座りなおした。
「そうだな。こちらの事は仮面とでも名乗っておこう」
仮面を一切してない金髪の男はテーブルを持ち上げて俺の前に戻した。
もう一度蹴り上げてやろうかと思ったが、辞めておく。
「素顔なのに仮面なのか?」
「ああ。君と同じだよ。君も仮面をかぶっている、本当の君は仮面の中だろうに」
「悪いが……俺はお前の話を聞くつもりは無い」
「それは構わない。こちらが一方的に喋るだけだからね」
気に入らねえ。
こいつも気に入らねえが。
酒場から人の気配が消えたのも気に入らねえ。
何所の貴族の馬鹿がしらねえが、俺を試すような事をしてるのも気に入らねえ。
「回りくどい」
「おや?」
「用があるならさっさと言ったらどうだ。下らない駆引きで酔いも覚めた」
仮面と名乗った金髪男は顔を片手で押さえて髪をかき上げる。
「さすがはA級。いや、今の君にとっては痛い所だったかな。
酒を飲んで暴れるA級冒険者がいる。と聞いてね、そんなに暴れたいなら、こちらの仕事を手伝って欲しいんだ」
「悪いが、こう見えても動く時はパーティーで動く。他のメンバーの意見も聞いてからだな」
「もちろんさ。他の二人の意見も聞いてきて欲しい。もちろんそれで断る。というのならこちらも引き下がろう」
ちっ。
俺は人数は言っていない、言っていないのに二名という事はサーリアとツヴァイの事も知ってるな。
カマをかけたら、わざとに乗ってきやがった。
俺にどうしてもやってほしい仕事。というわけか。
「ギルドに通したらどうだ? 仮面さんよ」
「こちらとしてもそうしたい所なんだが、実力者が中々なくてね、報酬をいくらあげても成功者がいなければ意味が無いだろ? 無暗に冒険者を殺すわけにもいかないし」
良く喋る奴だ。
冒険者なんて腐るほどいる。それぐらいに貴族からみれば冒険者の命は安くみられるのに、高く見せようと交渉してくる。
「要件を言わないなら俺は帰る」
「おっと。言うよ……よく部下から怒られるんだ。グィン。君のパーティー双翼の剣には旧魔王の血を取ってきて欲しい」
眉をひそめる。
魔王とは魔族の王。
人間にも王がいるように魔族にも王という奴がいた。
いた。というのはここ数百年、魔王がいたという話は聞かない。
それにそんな物があるとしたら、今頃冒険者が荒らした後だ、もしくはどっかの
「おとぎ話なら
「それが、グルーレンの森。そこの地下に隠されたダンジョンがあるんだよ」
「仮面男。俺の話を聞いていたか? そんなダンジョンがあったらすぐに話が……」
俺は言葉を止める。
そんなダンジョンがあれば国が知っているだろう。その言葉だ。
俺の考えを見抜いたのか、仮面と名乗る金髪の男はにやりと唇の端をあげた。
「その血は不老不死になれる薬が出来るらしくてね。
おっと、もちろんこちらだって、そんな話は信じてない。
でも、魔族の血は飲めば強くなる。そんな話は聞いた事あるだろ?」
まったくだ。
これだから貴族様は頭が馬鹿で困る。
「俺がその血を飲んだらどうする気だ」
「構わないよ。飲みたければ飲んでもらっていい。
本当に強くなるのか証明になれるからね。
じゃぁ明後日にまたこの酒場で返事を聞かせてもらうよ」
金髪男が酒場から出ていくと、暫くすると酒場の主人が黙って酒をテーブルに置いていく。
さっきまでの事が嘘のように客が戻って来た。
「あっグィン! また飲んで……体に悪いわよ。
ヘンテコな回復魔法の依頼、キャンセルだってお金はギルドから貰って来たけど。変な顔してどうしたの?」
「サーリア。俺は弱いと思うか?」
「…………強いわよ」
「ラックよりもか?」
サーリアは黙り込む。
「変な事を聞いたな。次の冒険の話をしよう、俺も飲んでばかりでは体がなまるからな」
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