009 尿意100%
僕がこの辺境の温泉に来る事になった出来事を喋り終えた時、丁度ミリアさんの家へとついた。
鍵はかけておらず、そのミリアさんをおんぶしたまま入る。
ぐるっと部屋を見渡してどこに置こうか迷ったけどベッドが一番良さそうだ。
「ここでいいですか?」
「良いも悪いもすでに寝かされたわけだが、礼を言おう。畑は潰されてしまったが、私の家の裏に野菜や乾燥した肉などが少しある。礼の代わりに受け取ってくれ」
「ありがとうございます」
「どうだ、少しはすっきりしたんじゃないのか?」
ドヤと言わんばかりの笑顔で僕に聞いて来た。
すっきり、というのは僕の失恋の事だ。
「本当に少しだけですけどね」
こればっかりはしょうがない。
今でもサーリアが、付き合い直すわよ。と言われたらグィンに悪いけど僕は付き合うかもしれない。
「まったく軟弱者だな」
それは言い過ぎと思う。
「しょうがないじゃないですか……19年も一緒だったんですよ」
「それで、手も握らない付き合いはもはや狂ってるだろう……別れて正解なんじゃないのか。いや、先ほどの話を聞いていると本当に付き合っていたのか?」
「えっ!?」
「えっ!? 何をそんなに驚く……」
そういえば同じような質問を御者の人にも言われたような気がする。
僕が考えているとミリアさんが淡々と話してきた。
「ラックがその幼馴染とのデートの状況を聞かせてくれたが、手すら繋いでおらず、それでいて飲食、お土産代はラックの財布。
幼馴染がラックの金で買った品物はラックが持ち、他の仲間のお土産代まで出していたそうじゃないか……」
「それは仕方がないです。サーリアは結婚資金を貯めるから。と言ってまして」
だから男の僕がデート代は出していた。
「別の男との結婚資金だったな」
「うぐっ! もういいです。はい、グィンならきっとサーリアを幸せにしてくれます。僕が願うのはそれだけです!」
グィンと僕を比較しても一切勝ち目がないし、グィンのほうがサーリアを幸せにしてくれる。と思うから。
「ラック」
「は、はい!」
「悔しいなら強くなれ!」
ええ…………ど、どうしよう。
悲しい感情は勿論ある。
三日ほど泣いたし。
でも、僕よりグィンのほうが幸せに出来るかも。と気づいたし、本当に僕が悔しかったら、あの時に酒を吐いててでも追いかけるはず。
「いや別に悔しくは……」
「明日から特訓だな」
「し、しませんよ」
僕の意見は無視されているようだ。
「それでは僕は一度帰ります。
いつまでもミリアさんにお世話になるのも悪いですし、温泉の場所に寝る所もありましたし」
「あるな」
「じゃぁあの、お邪魔しました」
「待て」
ベッドの上で首だけを動かすミリアさんに呼ばれた。
他に何の用だろう。
「なんでしょう?」
「私は動けない」
「そうですね、師匠の受け降りなんですけどおそらく1日もあれば動けると思うんですけど……」
「汚い服のままベッドに運ぶのはまだ許そう。洗えばいいし着替えを手伝わされてもラックも迷惑だろう」
「あっ」
確かにはぐれスライムの体液や土、口から吐いた血のシミがある服のままベッドに置いたのを思い出した。
「動けない私を置いて一人食事をとるのもまぁいいだろう」
「ご、ごめん」
着替えできないか。
僕としては僕だって健全な男だし綺麗な人の裸は興味が無いわけじゃない。
でも、ここは反論しないでおこう。
「野菜スープぐらいなら僕でも作れますし、作りますか?」
「ほう、ではそれは後でお願いしていいかな」
「はい」
「さて……それは置いておいてラック。大事な話があるんだ」
「な、なんでしょう」
ミリアさんは僕をにらみ付けてるので、何か怒っている。
怒っているけど、僕には何に怒っているのかはこれ以上はわからない。
「私はトイレに行きたい」
「はぁ……いってらっしゃい? ――――――ええええええ!」
「大声を出すな」
「すぐに用意をします!」
トイレとはトイレだ。
排泄行為の事で、動けないミリアさんがトイレに行きたいといえば放置すると、漏らしてしまう。
30にもなる女性がベッドの上で漏らすのは流石に可哀そうだし。僕の責任でもある。
「ラ、ラック!!?」
後ろでミリアさんが僕の名前を叫んでいるが時間がないだろう。
どこだ! あった、クローゼットはそこか。直ぐにクローゼットを開ける。
ミリアさんの私服だろう、白い服と黒い色の服が多く。ファッションに興味がないんだろうな。とわかった。
サーリアなんて色んな服を持っていてアクセサリーだけで部屋を借りたい。と言っていたし。
じゃなくて。クローゼットの中にある小さい箱を開けた。
「これだ」
「おい! ラック!?? そ、そこは私のそのアレだ」
「はい! 下着ですよね!」
白色や青色の下着は数枚入っていた。
手でかきわけてもそれぐらいしかなく、僕の探している物がない。
急いで振り返りミリアさんの顔をみる。
酷く焦っているようで、限界が近いんだ。
「ミリアさん! オムツが入ってません! 何所にしまってあるんですか?」
「………………なるほど、突然私の下着をあさったと思えば……なるほどな。そうか、そうか、ラックは私がもうオムツを使っていると思っていたわけだ……なるほどな」
「いや、老後のために1個ぐらいあるかなって思ってまして」
「まだ
あれ? ミリアさん何か怒ってる……? それに見間違いかな。
「ミリアさん、なるほどな。が多いですけど……それとミリアさん動いてますよね?」
ミリアさんの体が少しであるが動いている。
指先が動き手首、肘、肩と徐々にであるが動ける場所が増えていった。
僕が見ている前で足を床につけると、堂々と立ち上がり、座っている僕を見下ろしている。
「ラック、お前を全力で殴りたい。と思ったら動けるようになってきたさ。体中は激痛が走るがなっ!
私がラックを呼んだのは、クアッツルを探して来てくれ。と頼みたかっただけだ!!」
「ミ、ミリアさん動けるうちにトイレいった方がいいですよ」
「お前を殴ってから行くとしよう!」
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