008 軽い軽い軽い軽い軽い軽い…………
よっこらせっと。
掛け声をかけてミリアさんを背負う。
うん、背負った。
暫くするとミリアさんの不機嫌な声が耳元で聞こえてくる。
「………………おい!」
「い。今は黙ってもらえると嬉しいです」
「…………私はそんなに重たいのか?」
「い、いいえ」
ギリギリで否定する。
何で僕がミリアさんを背負っているかというと、背負える人間が僕しかいないから。
クアッツルは事のてんまつをエルフの族長に報告しないといけませんわ! と森の中へ消えていった。
残ったのは指先一つ動かせなく、口だけが動かせるミリアさんと僕だけ。
暫くはクアッツルを待っていたけど、やっぱり帰ってこなくてミリアさんの家へ帰る事になった。
で、背負う。
「い、いい加減一歩目ぐらい動いてくれると、私は心の底から嬉しい」
「は、はい」
「何だったら、今までのラックの不貞行為も目をつぶろう」
「不貞はしてません」
「でも温泉や家で私の裸を舐めまわすように見ていただろ?」
「見てません!」
「では、早く動いてくれ」
「はいっ!」
はい。とは言った物の動けないのだ。
何で動けないかと言えば、やっぱりミリアさんが重いから。
そもそも僕と同じぐらいの身長だし、腰に剣つけてるし簡単な革の胸あてやその他備品もあるし。普通の人を背負うよりも重い。
そういえば冒険者ギルドで行う初心者訓練で元気な人間を背負うのと、同じ重さの肉を背負うのでは重さが全然違った。
「ラックわかった」
何かわかったのだろう。
ミリアさんの声がとても暗い。
「私を置いていけ」
「お、置いていけって……手足動かないんですよね?」
「ああ、
「僕のせいなんですかね」
「いいや、限界が近かった私の責任だ」
本当に? とっても僕のせいにしてるきがする。
それに置いておけって言っても辺りは黄昏時だ。
「
凄い感情のこもってないような声が耳元で聞こえる。
さすがの僕でも、この
クアッツルなんで先に一人で里に行ったんだ。
せめて二人いれば板が何かに乗せて運べたのに。
あ、まてよ。
一つだけ解決方法がある。
僕は一度ミリアさんを畑に降ろした。
「ふ……それがいい。墓にはこう書いてくれ。太り過ぎたミリアここに眠る。と」
別に太ってはいないと思う。
重いだけでスタイルは凄くいい……と思う。
思うのは比較する対象を知らないから。
「ちょっとだけあの端で準備運動しますのでお待ちを」
「ああ、そのまま帰ってこなくていいぞ」
少し離れた所で屈伸運動をする。
背中を見せて小さく口を動かすことにした。
「
うあああああ体中が暖かい温泉に入ってるように熱い。
そして眠くなる。
ちょっとだけ強くなった気分だ。
ミリアさんの所へ戻っていくと、冷めた目で空を見上げたまま、僕のほうへ視線を動かしてきた。
「野犬でも来たのかと思ったらラックか。この私に墓石でも持ってきてくれたのか?」
「あの、根に持たなくても」
「持ってない、どうせラック、いや君には私が重くて運べないんだから愚痴も出よう」
「任せてください。よいしょっと」
今度はさっきより軽い。
さっきより、という事なのでまだ重いけど、これだったら運べそうだ。
「ほら、ちゃんと運べます。ちょっとお腹減って力出なかっただけなんです。気合を入れればこの通り」
「そ、そうだったのか……私はラックに酷い事を沢山言った気がする、すまない」
「いいんです」
来た道をゆっくりと歩く、転んだら大変だ。
首筋にミリアさんの吐息が当たって少し痒い。
何か会話して気分を変えないと痒くてどうしようもない。
「そういえばミリアさんって何才になるんですか?」
「…………聞きたいのか?」
「いえ、別に、余りにも静かで退屈しないかな。と思いまして」
「そうか、隠すほどでもないが29才だ」
「なるほど」
僕は力を入れて道をゆっくりと進む。
「…………おい!」
「は、はいっ!?」
突然怒鳴られたのでミリアさんを落としそうになる。
「私だけ言ってラックのは無いのか?」
「え? 何の話でし……ああっはい。年齢でしたよね。もうすぐ20才になります」
「…………本当か? 確かに体付きは青年だが頭のほうが。いやいい、今はラックに頼る事しか出来ないからな忘れてくれ」
「ほぼ全部言ってますよね」
これは僕にとってはよく言われる言葉だ。
子供っぽい。と。
サーリアに振られた理由はそういう所かもしれない。でも大人っぽいって言うのは、どうすればなれるのかは僕にはわからない。
一人称を俺。にしたほうが良いのかもしれないけど、使い慣れないし以前試して駄目だった。
その点グィンもツヴァイも大人だったなー……今頃二人はどうしているんだろう。もうサーリアと結婚したのかな。
気になるけど、サーリアを見たら泣くかもしれない。
「まてまてまてまて!」
「えっ!?」
「通り過ぎたし道が違う……そっちは温泉だぞ、ま、まさか動けない私を温泉で襲うつもりか!? …………いや、なぜ
「ち、違うんです、ちょっと前の事を思い出してしまって」
「話せ」
僕はミリアさんから手を離した。
ミリアさんは僕の背中から落ちて体や頭を地面に打ち付けて、呻き声をあげまくっている。
「はい、離しました。これからどうすれば?」
「お、お前は! 私から手を放してどうする!」
「離せって……」
「この馬鹿……いや、私の聞き方が間違っていたのかもしれない。そうじゃない。お前の涙の理由を話せ。と、言ったんだ。
後は家に着くまで絶対に落とすなよ。先ほどの痛みはないが落とされた時の痛みはあるんだ」
「ご、ごめんなさい」
ミリアさんをもう一度背負って再び歩く。
「深い事情があるんだろ?
なぜか赤の他人を強調された気がする。
でも、話すか……ミリアさんに聞いてもらえば胸のつかえもとれるかもしれない。
「ええっとですね。僕にはサーリアという幼馴染がいまして、村からでて――」
僕はつい一月前の事までを簡単に話しながら歩き出した。
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