後悔の詩

無式透色

プロローグなんてとうの昔に

これは、君の後悔であり、僕の後悔であり、そして、僕が、僕たちが、人が、神になんて成り代わることなんて出来ない証明の物語だと信じている。



普通。普通とはなんだろうか。僕が過ごしてる日本ではよく使われてる表現である。「普通に〇〇する」、「普通はそんなことしないでしょ」、「あ、それは普通に△△すれば直りますよ」とか。分からないこと聞いたときに、普通にって言われるのが1番嫌と言う人もいるくらいである。とりあえず、常識的にとか中間のようなニュアンスで使われるが多い。しかし、本当に普通という言葉を使ってる人達は、普通の意味を本当に理解出来ているのだろうか。現に、日本と海外の常識は違うことは火を見るよりも明らかで、こっちの普通はあっちの普通に通用しないのである。比べた先の海外同士だって、普通は違うのだ。ここで思考を反転させる。逆に、その場やコミュニティの普通を知ることが出来れば、自然な普通を演じることが可能なのだ。だから、僕はどんな過去があろうともこの場では、望月律(もちづきりつ)は、普通の男子高校生なのである。




「ううん、あぁ、ふぁぁ。」

目覚まし時計ほど、朝を明確に知らせ、憂鬱を誘う物はないと思う。しかも、冬の冷えきった朝となれば尚更だ。布団から出るのが四季の中で1番億劫になる。しかし、昨日は学校をズル休みしてしまった手前、連日欠席となれば少なからずクラスでは目立ってしまう。仕方なく布団から這い出て登校の準備を整える。

まずストーブの電源を入れ生活スペースを暖め、その間に寝癖を直し、歯磨きをする。それが終わったらキッチンへ行き朝食の準備をする。最近はコーンフレークが簡単で朝に欲しい栄養が取れている気がするからよく使っている。(牛乳をかけて食べるから水分補給も同時にできて本当に楽)テレビを付けニュースや天気を確認しながらコーンフレークを貪り、食べ終わったならそれを片付け学校に間に合うギリギリの時間までテレビを眺めながらゆったりと過ごす。

「そろそろ出ないとまずいか」

重い腰を上げて家を出る。戸締り良し、ガスの元栓良し、忘れ物無し。自転車に跨って、

「行ってきます」

覇気の無い声が澄んだ空気の中に埋もれて行った。


無事に何事もなく学校まで辿り着き、昇降口で靴を上履きに履き替える。自分の所属しているクラスは3階にあるため、階段をひたすら登る。去年の中学は2階だったから多少楽だったのになぁ。そんなこんな心の中でボヤきながら進んでいると教室に着いていた。ドアをあけ、教室に入る。

「お、おはよう、望月。昨日はどうしたんだよ?ズル休みか?」

仲のいいクラスメイトの須藤新汰が話しかけてきた。須藤新汰(すどうあらた)、初めて会った時から良くしてくれていて、友達も多く、コミュケーション能力が高い。クラスでは中心的な位置にいたりする。

「ズル休みじゃないよ。ちょっと持病が発病してな。」

「おい、そんなに大変だったのかよ、それなら連絡のひとつくらい」

「まあ、仮病って名前の持病なんだけどな」

「っておい!!ただのズル休みじゃねぇか。心配して損したぜ。」

こいつはいつもなんだかんだ優しいんだよな。

「あ、そういえば、昨日ちょっとした突発イベントがあったぞ。」

「ん?突発イベント?何かあったのか?」

別に学校の予定表では昨日はなにもなかったはずだが。まあ予定にないから突発イベントなのか。

「ああ、昨日転校生が来たんだよ。しかも、女子で結構な美人だったぜ。」

「へえ、そんなことがあったのか。で、どのクラスにきたんだ?」

「隣のクラスだよ。昨日は隣クラスの入口が人でごった返しになってたんだぜ。」

「へぇ、じゃあ、僕があんまり関わり合いになることは無さそうだな。」

「あんまり興味無さそうだな。でもそんなこと言ってられないぜ。」

そりゃ、隣クラスなんてあんまり話すことも無いし、ましてや女子なんて授業で一緒になることすらほとんど無いのだ。

しかし、なぜそんなこと言ってられなくなる?考える間もなく答えは飛んできた。

「昨日、その噂の転校生がこのクラスにお前を尋ねて来たんだよ。」

どうだ驚いたか?と言わんばかりのしてやったり顔でこちらの反応を見てきた。

確かに謎だ。わざわざ僕を尋ねて来るなんて、そんなやつ居るはずがないのに。

「その噂の転校生とやらは、どんな要件で僕を尋ねてきたんだ?」

「それは分からなかったな。今日はお前が学校に来てないって伝えたら、そうですかって言って教室に帰っちまったからな。」

「そうか、まあ大事なことならまた今日も尋ねて来るだろう。」

分からないこと考えても仕方ないのだ。他のことに思考を回したほうがいい。例えは、この窓際の席は暖房が効くまでとても寒い、いや、ほんとにまじで寒いんだよ、この寒さをどうやって凌ぐか等など。

「お前はいつもそういうところ肝が据わってるよな」

一通りの会話が終わったからか、須藤は他の人に呼ばれどこかに行ってしまった。まあ、特にすることも無いし、読書をするにしても寒くて手を出していたくない。丸まって温まっていよう。ああ、カイロはあったかいなぁ。


「ねぇ、律、ねぇってば!!」

ん?あぁ、いつ間にかうたた寝してたのか。

「ああ、南か、すまん、どうしたんだ?」

思考を起こしながら聞き返す。

南陽葵(みなみひまり)、仲良くなったきっかけはクラスの最初の席替えで近くになったことである。周りも良く見えているため、とても気が遣える子である。

「その、知らないかもしれないんだけど昨日転校生が来て、その転校生が君のこと呼んでるんだけど」

「ああ、須藤から聞いたよ。今日も尋ねてきたのか。で、その転校生とやらはどこにいるんだ?」

「入口を出たところの廊下で待ってる、早く行った方がいいよ。ギャラリーが増えてきて行きづらくなっちゃうから。」

「分かった、ありがとうな。」

確かに入口に人が多い気がしてきた。面倒くささを押し殺し、重い腰を上げて入口へ向かう。面倒くさいこと後回しにするともっと面倒くさくなるのだ。

廊下に出たが、どこに噂の転校生がいるのか分からない。こっちはあっちの顔を知らないのだ。

「ねえ、あなたが望月くん?」

予想外にもその噂の転校生とやらは、目の前にいた。確かに美人だけど、この顔どこかで、

「そうだよね?ねえ、私の顔覚えてる?」

は?

「いや、、、えっと、、、」

「覚えてないみたいだね。まあいいや、これ私の連絡先、今日の放課後校門で待ってるから。それじゃあ、また後でね。」

そう言って噂の転校生は去っていってしまった。名前すら教えて貰えなかった。まあ名前はあとから聞けばいいか。しかし、やっぱり僕が知ってるはずの人なのか?

分からない、さっぱり分からない。しかし、それもまあ、放課後になれば分かることか。今考えてもただの堂々巡りで終わりそうだ。思考を放棄する言い訳を頭の中で考えながら

教室に戻ると、須藤と南が席の近くで待っていた。

「「で?どんな話だったんだよ?(のよ?)」」

「そんなに食いつくなよ。特になにも、ただ放課後校門で待ってるって言われて連絡先渡されただけだよ。まず知らない人だったし。」

「まじか?これは脈アリなのか?そうなのか?」

テンションが上がり気味でちょっとめんどくさい感じだ。

「でもそれだと話がおかしくない?律は転校生のこと知らなかったんでしょ?そしたら、あっちが一方的に一目惚れって線しかないけど、昨日律は学校休んできてないんだよ?」

「確かにそうか。主人公は本当に転校生のことを知らないのか?」

「ああ、多分ね。僕が忘れているという点を除けば、本当に知らないことになると思うよ。」

「うーん。やっぱりそうなると本当になんなのか分からないわね。」

2人があーだこーだ話をしてる間にチャイムがなり、強制的に会話は終了となった。

その後も放課後まで、何人かの人達にどんな会話をしたのか聞かれたが特筆して話すような内容は無いというと残念そうに去っていく。そういうことを繰り返して、問題に放課後になった。なってしまった。

何人かのクラスメイトと雑談をし、校門に向かうと、そこにはちゃんと転校生が立っていた。

「ちゃんと来たのね。」

「まあ、約束という訳でもないけど、これで行かないの寝つきが悪いそうだろ。睡眠は大事にするタイプなんだ。」

「そう、あなたがそういう性格なのは知ってたからこうやって来るのを待ってたんだけどね。」

本当にこの転校生は僕の何を知ってるって言うんだ?怪しいし、ちょっと怖い。

「ふふ、とても私を疑ってるような目ね。そうね、ここでは話づらいから場所を移しましょう。」

そう言って彼女はスタスタと先に歩いて行ってしまう。もういっその事ここで踵を返して家に帰ってしまおうかとも考えたが後が怖そうなのでやめておいた。

着いたのはいかにも隠れ家という名にふさわしい出で立ちの喫茶店だった。

カランカラン

入店、そして着席。あまりにも自然な動きである。僕らに会話が一切行われてないという一点を除けば。

とりあえずメニューを見よう。生憎あまり今は手持ちがないため、お手頃なものを頼んでおきたいとこだが。

「あなたはもう頼むもの決まった?私はもう決まったけれど」

「ちなみに参考までに聞きたいんだけど、何にしたんだ?」

「アイスコーヒーするわ。」

なるほど、僕はコーヒーが苦手なため同じものを注文するという技法は使えないようだ。

「僕も決めたよ、紅茶にしようと思う。」

「あなた、コーヒー苦手なの?」

おい、そこは触れないで置いてくれよ。子供舌だと小馬鹿にされるのいつもやられているんだ。

「ああ、匂いは好きなんだけどな。苦くてちょっと酸味があるのがどうにも。」

「へえ、そうなの。」

聞いてきた割には全然興味が無いのな。

オーダーを済ませ、また、少し沈黙が続き、各々の注文した品が届き、また沈黙。

(、、、僕から話切り出すにも何から話せばいいんだ?呼びつけてきたのあっちなのに何故なにも質問すらないんだ?)

そう、心の中でひとりでに焦りを感じていると、その沈黙を破ったのは、やはり転校生の方だった。そういえば、名前をまだ教えて貰ってないな。

「もう一度聞くけど、あなたは私の顔に見覚えは本当に無いのかしら?」

「全くないと言ったら、嘘になるけど、頭の中にモヤがかかってる程度でしかないよ。勘違いとか君に『私を知らないか?』って聞かれたからそう思い込んでるぐらいのレベルだと思う。」

「そう、本当に覚えていないのね。私の聞き方が悪かったのかもしれないけれど。」

何故か、それは、その発言の意図は、とても自分にとって悪いことなのだと予感した。

「それは、どういうことだ?」

「私の顔を覚えていないが正しい質問の仕方という訳では無いということよ。正しく例えるなら、私の顔とほぼ同じ人を思い出すことは出来ないのか、ね。」

もっとよく分からない。何を言いたいんだこの転校生は。

「それを聞いてもよく分からないのが正直なところだし、ずっと気になってるんだけど、君の名前なんて言うんだ?あと、僕について何を知っているんだ?とりあえず、それを教えて欲しい。」

少し焦りが入ってしまって捲し立て気味に聞いてしまった。

そんな僕を見ても、彼女は会話のペースを乱さずに答えた。

「私の名前、月見里凪(やまなしなぎ)。」

月見里だって?いや、待て、その名前は、まさか、見覚えのある顔だったのは、

「そう、あなたが3年前に救えなかった月見里翠(やまなしすい)の妹。」

確かに、瓜二つではある、そんな、だとしたら、僕のこと知ってるって、あのことも、

「ええ、もちろん知ってるわよ。あなたが、人間ではないということも、でも、それだと正確ではないわね。」

思考が追いつかない、そんなはずは無いと頭で否定している、でも、本能は彼女の言っていることをちゃんと理解しているようで、徐々に頭の回転と思考と心が追いついていく。

「正確には、あなたの身体の中に人間ではなくなってしまったところがあるということを、私は知っている。」

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