蒸気を燃やせ
玄葉 興
第1話 蒸気ってなんだ?
照りつける日光。蒸し暑い部屋の中で反射して眩しさと共に、激しい熱を送り出す。
ただしそんな物は彼にとっては日常茶飯事。それよりも熱い物に関われば正直へっちゃらだ。
よいしょ。よいしょ。スコップで黒い石を掬う。なるべく平らになるように。出ないと親方さんに怒られて、またほっぺをこの窯みたちに真っ赤にされちゃうから。
本当はきかんし?さんという名前だけど面倒くさいから親方と呼べって言われたからそう呼んでるむきむきのおじさん。おじさんは優しく僕のほおを引っぱたいてくる。それはやっちゃいけないことをしちゃったときにしてくれる愛のムチらしい。でもお仕事で失敗しちゃった時はめちゃめちゃ痛い。仕事以外の時はおじさんって呼んでもいいのに、一回この鉄の馬に乗っちゃうと機嫌が悪くなったみたいに怒り出す。僕のほっぺと一緒。
「次は〜リヴアループ、リヴアループ。終点でございます」
シュー、と汽笛の鳴る音。日が暮れ出すのにも関わらず彼は毎日元気に雄叫びをあげる。
少しだけ空を回りながらレールの切れ端と共にタイヤは止まる。
よしっ。これで今日の分の仕事は終わりっ!
「おい!カフ!どこ行こうとしてんだよ!
今日は積み込みがあるから着いたらすぐこいっていっただろ。ったく。今年で10になるんだったらちゃんと仕事の内容は覚えろよ。」
そうだった!
「おじさん!ごめんなさい。すぐに行きます。」
「まぁだ仕事中だ馬鹿ヤロー。とっとと積んで飯にするぞ。」
そう言いながら彼は背丈を悠々と超す魔導物資を積まれた箱を軽々持ち上げて明日出る機関車に荷物を入れる。
おじさんと協力したらすぐに終わった。僕も10歳になったから力がついてきたのかな?これで僕もおじさんみたいなきかんし?になれるのかな。
カフ、10歳。彼は捨て子だ。職を機械に完全に奪われた父。そこからの家庭崩壊の最中。彼は齢1歳にして荒野へと放り出された。
彼の両親はオツムが少しだけ弱かったのか目立つようにと荒野の中心に設置されているレールの上に彼を乗せてその場を去って行ってしまった。幸いそこで通った機関車はたまたま親方が操作していた機関車で、轢かれる寸前に彼の泣き声によって、機関車を緊急停止させてなんとか一命を取り留めたものの、
彼は既に天涯孤独と言っても過言ではなかった。それに近しい事情を悟った彼は、その 幼子を「カフ」と名づけ、自身の副機関士として彼の仕事を手伝わせるようにした。それが親方とカフの出会いであった。
にわとりさんがもうちょっとでお顔を出すくらいの時間帯に僕らは仕事を終える。そのあと近くのばーでそのまま夜を明かす。それが親方にとっては大切な習慣らしい。僕はあんまり計算が得意ではないけれどこんなにここに通ってお金が足りるのかは僕もわからない。
「あらっ、また来たのかい、毎日毎日飽きないねぇ。」
「いいじゃねえか兄弟。こいつと俺にいつもの作ってくれよ。」
「はいはい、わかりましたよっーと。」
ばーのマスターはおかしなカッコをしてるのに、作ってくれるごはんはめちゃめちゃ美味しい。姿も相まってまるで美食の星から来た宇宙人みたいな感じ。
あったかいスープにかたいパンをつけて食べる。厚めに切られるベーコンは最後のお楽しみ。よくわからないけど体のまんなかくらいからぽかぽかする感じがする。
「お?いらないのか?それもーらい。」
皿に残されていたブロック片にフォークが突き刺さる。それは止まらぬ勢いで口に向かっていく。もう口に入るかっとその時。
「わぁー!」
「ははっ、冗談さ、ほら口開けろ。」
「うぅ…、美味しい。」
「もう、からかってあげるのもそろそろよしたら。もう立派な大人に手が届く歳だっていうのに。」
「いやいや、カフはまだまだ子供だね。今日だってオキゾクサマの積荷を置き去りにしてそのまま家に、」
「おじさん!その話はもうダメだって!」
バーの喧騒の中に彼らの話は溶けていく。
そうして夜が明け、今日もまた煙が上がる。
「ねぇ親方。ところで…これどういう仕組み?」
「はぁ!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます