第13話 vs地竜

 どうやら私は、ミ・ランドという男のことをこの上なく見くびっていたようだ。


 自身の不遇を環境のせいにして、逃げた先でもまた逃げる。あの瞬間、確かな反骨の意志を宿して地竜と対峙する姿を見るまでは、甘ちゃんの洟垂れ小僧であると思っていた。


「お前、そのレベル差で地竜に挑むとかマジで馬鹿だな」


「にゃあぁ……酷いにゃ……」


 果たして本当に馬鹿なのはどちらか。


 ランドの凄さを見抜けず、一方的に足手纏いだと決めつけていた私の方が馬鹿なのでは? いや、少し違うな。


「でも、最高だ」


 私は臆病だった。命を預けられる責任、仲間を作ったとして、死ぬかもしれない可能性を考えて臆病になっていたのだ。ランドは己の意志で、命を賭けて私に勇気を証明した。ならばこちらも応えねば無作法というもの。


「立てランド、一緒にあのクソドラゴンぶっ殺すぞ」


「でも、ボク……ボク、地竜に手も足も出なかったにゃ……」


「そりゃお前は精霊術士だからな、タイマン向きじゃない。いいか、今から言う事をよく聞け――――」


 私はランドを背に、腰から剣を抜く。正面には地竜、サイズがゲームより二周り程大きい。これは奴が持つ威圧感からか、はたまた上位の個体なのか。


 地竜はこのエリアの中で最も強い、いわばフィールドボスのようなモンスターだ。圧倒的なDEFに物を言わせて殴り合いをしてくる他、土属性のブレスを吐いてくる。ブレスは直線に飛ぶビームタイプで、弾速が速すぎるので見てから避けるのは現実的じゃない。


 正直1人で相手にするには少々面倒くさい相手だが、ランドがいるなら話は別。強いと言っても、明確な弱点もある。それに、今の私は以前までとは違う。


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[名前]フラムヴェルク・フレアウォーカー

[メインジョブ]剣豪(now!)

[種族]吸血鬼

[性別]女

冒険者等級:未登録

称号:古豪を斃す者(now!)


Level:59

HP:6890/6890

MP:690/690

EXP:45/382500

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STR:1921

VIT:913

AGI:2546

MAG:111

DEF:169

MND:266

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 ジョブの欄は、覚醒により[剣士]の派生先である[剣豪]へと変わった。これは50レベルで開放される[剣至羅刹魂常けんしらせつこんじょう]と言うスキルを取ることで、覚醒条件を満たす。


 1次覚醒を果たすと既存スキルの効果が変わったり、これからのステータスの伸びも変化していく。また[剣豪]のみのスキルカテゴリが追加され、初期ジョブとは比較にならない程強くなるのだ。 


「―――分かったな!?」


「うにゃ!」


 ランドへ極めて簡潔にこの後の作戦を伝え、私は改めて地竜を見据えた。乱入者を警戒しているのか、間合いを測っている。

 

「オラ日和ってんじゃね―ぞ!」


 そこへ飛び込んで眉間へと斬撃を叩き込むが、硬質な鱗に弾かれた。まあ、素の状態じゃ攻撃が通らないのは分かっていた。


「[鎧砕よろいくだき]!」


 レベル45で開放される『通常攻撃にDEF減少効果を乗せる』スキルを発動。刀身が灰色のオーラを纏い、次いで放った横切りが地竜の鱗を僅かに砕く。


「オォ……!?」


 地竜の鱗は鉱石を含んで堅牢だが、それに守られた肉は柔らかい。鈍足で予備動作も大きい為、慣れればまず攻撃を食らうこともないだろう。ただ、それを補って余りある程の防御力をどうにかすれば、の話だが。


「普通に殴ってたら全然削れないのは変わらずか……」


 緊張した面持ちで自分の出番を待つランドを横目に、私は新たに[旋風裂波]を加えて幾つかバフを掛け直す。




 ――――対地竜戦における戦術は、ある種のテンプレートとしてプレイヤーの間で定着していた。


  


 まずタンク盾役が地竜の攻撃とヘイトを受け持つ。その間にアタッカー攻撃役は土属性に有効な氷属性をメインに攻撃していき、暫く戦闘を続けているとブレスを放つ予兆を見せる。そこで下顎へと打撃属性の攻撃を加えると、口が閉じて地竜が自爆するのだ。


 自爆ダメージはブレスの威力≒地竜の強さである為、個体のレベルによって変わるが――基本は凡そ最大HPの3割。このギミックを利用すれば、レベルの低いパーティーでも倒せるようになっている。


 そしてランドは偶然かそれとも知っていたのか、先程やってのけた。アイツの役割は、私が誘発したブレスを止めること。今はその合図をずっと待ち続けている。


「……ただ」


 私もその戦術に倣い、回避タンクらしくバフを掛けては攻撃し、鉤爪の振り下ろしや尻尾による薙ぎ払いを避け続けていた。


「やっぱ警戒するよなぁ……」


 しかし、一向に地竜がブレスを放つ予兆を見せない。ここは取り敢えず、ある程度殴って嫌でも奥の手であるそれを放つように追い詰めるしかないだろう。


「ランド、バフくれバフ!」


「わ、分かったにゃ!」


 [精霊術士]のスキルは少々特殊で、敵に打つか味方に打つかで効果が変わる。例えば先程攻撃に使った[土塊の昇拳]は敵であれば打撃と土属性の魔法攻撃となり、味方に使えば[岩の肌]と言う防御アップのバフになる。


 ランドが今覚えているスキルは8つが精々。火、水、土、風、光、闇の基本的なスキルを、それぞれ1つか2つずつだ。


「精霊よ、彼の者に巡り、その奔流を力に![水の恵力アクア・グラス]!」


 詠唱によって青い光球――水の微精霊が集い、私の体と剣に祝福が与えられる。これは一定時間自動回復と、攻撃に水属性の追加ダメージを付与する効果だった筈。


 そして地竜には氷ほどではないが水が属性ダメージとして若干通りやすい。


「上出来だ!」


 地竜の脚元へ潜り込み、脚首の部分へと袈裟斬り一閃。水を纏った刃が鱗を砕いて、周囲に飛沫が舞う。


「おお、手応えも悪くない」


 精霊術士のバフ、実は初めて貰ったが結構いいな。殴った時のズバシュッ! って出る水の追撃が手に心地良い。それにダメージ自体も術者がそれなりにMNDを積んでるお陰で、レベルの割には出ている。


「シッ!」


 一筆で三角形を描くように剣を振り、地団駄を踏む前脚を紙一重で避ける。浅い傷を無数に負い、相当苛立っているようだ。


「はいブーレース! ブーレース!」


 ブレスコールを聞いて益々ピキッたのか、地竜が咆哮を上げて上半身を仰け反らす。そのまま私を押しつぶさんとするが、予備動作が大きすぎて既に範囲外。


「お前のAGI低すぎなんだよ! 所詮はパッチ2.0の骨董品、運営と寝てから出直して来るんだなぁ!」


「フランは一々相手を煽らないと戦えないのかにゃ……?」


 そうは言うが、インフレが続くこの世の中でDEF偏重が許されるのは小学生までだ。


 タンクでさえ、STRを上げて与ダメージをHPに還元する[ライフスティールビルド]が主流だった。足が遅いことに見合う長所が固いだけというのは、正直に言って足りなさすぎる。


「グオオオォォォ!!」


「ランド、バフの属性変えてくれ!」


「あいにゃ!」


 地竜には悪いが、そろそろ体も温まって来た頃合いだ。もう一段ギアを上げるとしよう。


「[剣至羅刹魂常]!」


「精霊よ、背を押す風を! [風纏の加護]!」


 [剣至羅刹魂常けんしらせつこんじょう]は、[血の魂契ブラッド・ソウル]の効果中にのみ発動出来る。こちらも永続的なパッシブスキルで、効果は[怒髪天衝]の上位互換だ。


 基本は既存の効果内容のままだが、発動時に自傷ダメージを受け、その数値分のシールドを獲得し、徐々に体力が減っていく仕様に変わっている。そして減少体力がトリガーとなっていた【背水の激昂】は、HPが一定の割合ずつ減ることで発動するようになった。


 他にも追加点はあるが、とにかくより殴ることに特化した性能になっている。もしかするとこのままブレスを吐かせずに、殴り倒せる可能性もあるだろう。



「別に倒してしまっても構わないのだろう?」



 かくして一生に一度は言ってみたい台詞第一位を口にし、私は剣を構え直した。











◇TIPS


[剣至羅刹魂常]


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スキル発動時、現在HPの30%を消費し、その数値分のシールドを自身に付与する。

スキル発動時、自身に【憤怒】を付与する。

スキル発動中、毎秒HPが現在値の1%ずつ減少していく。(25%以下にはならない)

相手にダメージを与える毎に、【水鬼の因】スタックを1つ付与する。


【憤怒】

・18秒間与ダメージを12%上昇させる。【背水の激昂】スタック1つ毎に効果時間が1秒伸びる。


・スキル発動時または発動中に現在HPの3%に相当するダメージを受けた場合、自身に【背水の激昂】スタックを1つ付与する。


【背水の激昂】

1スタック毎に全ステータスを3%上昇させる。(最大10スタック)最大スタック時に[紅蓮刃]または[怒りの連鎖]の発動が可能。


【水鬼の因】

1スタック毎に攻撃対象の最も高いステータスの値を3%減少させる。(最大5スタック)最大スタック時に[紅蓮刃]によるダメージを与えると、全てのスタックを消費して[返刃之紅蓮]が発動可能になる。

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