第8話 vsアークマンティス
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[怒髪天衝]
スキル発動時、自身に【
【
・15秒間与ダメージを10%上昇させる。【背水の激昂】スタック1つ毎に効果時間が1秒伸びる。
・スキル発動時または発動中に現在HPが30%を下回った場合、自身に【背水の激昂】スタックを1つ付与する。現在HPが30%以下の場合にのみ、【背水の激昂】スタックを毎秒1つ付与する。
【背水の激昂】
1スタック毎に全ステータスを1%上昇させる。(最大15スタック)最大スタック時に[紅蓮刃]または[
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私が今発動した[怒髪天衝]は、[血の魂契]と共に背水ビルドの根底を成すスキルだ。
殆どWSを用いない戦法を取った場合、通常攻撃では与えるダメージが低すぎる。それを補う為に、バフにバフを重ねる必要があった。そしてLAOで最も効果の高いバフは、この減少HPと連動するタイプの――所謂[背水]と呼ばれるスキル群。
発動さえできれば、例え相手が50レベル以上離れた相手であっても勝てる。……と思う、多分。これは個人の意見ですので鵜呑みにしないように。
「おっしゃー!」
口から血を吐き捨て、口角を拭う。
腹がだいぶ血みどろだが、このダメージが無ければ[怒髪天衝]の100%は引き出せなかった。傷口をどうやって塞ぐのかは後で考えるとして、今はとにかく目の前のボケナスをぶっ殺すことだけに集中する。
【背水の激昂】スタックは15秒で最大まで溜まる。即効性のある【憤怒】もスタック分を含めれば30秒、戦いを終わらすに十分な時間だ。
生憎スタックを消費して発動するスキルの[紅蓮刃]はレベルの都合上使えない。スタックマックスの状態で殴り続けるのが今の最高火力だろう。
「第二ラウンドと行こうぜ!」
痛みにもだいぶ慣れた。踏み込みと同時に、マンティスへ渾身の一撃を放つ。自分でも体感出来る程、先程と動きのキレが違う。
マンティスも対応に梃子摺ったのか、ガードが甘い。鎌ごと腕が持ち上がり、後ろへと後退る。
「どうした!? そんなもんかよぉ!」
ここに来て、私自身の調子も上がってきた。体が温まり、汗が引いて思考がクリアになる。視野が広い、だけど要らない物に意識が向かない。
直上から降ってくる連撃を紙一重で躱し、腕の関節部分を狙って逆袈裟に刃を振り抜く。
「ギッ」
マンティスはそれに反応して体を横へと逸したが、僅かに遅い。節が半ばまで切り裂かれ、右の腕がダラン、と力なく垂れ下がる。
その隙を逃さず腕の合間を縫って肉薄し、[旋風裂波]を発動。胴体を横薙ぎ、袈裟懸け一閃。追撃効果で傷口が更に深く抉れ、体液が周囲に飛び散った。
だが、痛みを感じない虫らしく、嫌がる素振りは見せつつも攻撃の手は止まらない。千切れかけた右腕を鞭のようにしならせ、頭を的確に狙ってくる。
「満身創痍だな! おい!」
鞭、とは言ってもそれは最早苦肉の策だ。
今度こそ千切れかけの関節を叩き切る。とうとうマンティスの腕が宙を舞った。攻防一体の武器を片方失ったことで、奴の戦闘力は大幅に下がった。
他の動物ならここで怯むだろう。しかし相手は無機質な戦闘マシーンとも言える虫型モンスター。
残った左の鎌が、部位破壊をした後隙を感じさせない速度で叩き込まれた。この時点で[背水の激昂]スタックは7、まだ私の能力は上がる余地を残している。
相手の攻撃手段が減った以上、ここは一旦引いてじっくり時間を掛けて追い詰める方が安全だろう。そう思いもしたが――――
「それじゃつまんねぇよなあ!?」
私の辞書に安全マージンなんて単語はない。それに、今ここで更に深く肉薄する方が、絶対に有利になる事を理解していた。
剣で鎌を切りつけ、返す刀で脚を一本切り飛ばす。五本脚になったことでバランスを崩し、マンティスの動きが一瞬止まった。そこへすかさず、二撃をV字に見舞う。
手応えは完璧、ここが攻め時だと本能が告げていた。
剣を振る腕を止めず、横一文字、袈裟懸け、逆袈裟の三連撃を放つ。
相手が衝撃に後退るのと同時に、更にもう一歩踏み込んで最下段から斬り上げる。今度は持ち上がった腕と両足に力を籠め、復路を辿った。これで[烈火の型]が発動。更に5秒間のダメージが上がる。
「うおおぉぉ!!!」
無意識に咆哮していた。
最早腕の感覚が無い、脇腹から体温が失せていくのが分かる。想像以上――いや、順当に私の体は限界を迎えていた。ここで動きを止めたら、多分もう力を入れることすら出来なくなってしまう。
「は、はははははははははははッ!!」
――――この楽しい時間が終わるのは嫌だが、そろそろ決着と行こうじゃないか、おい。
そんな私の意志を感じ取ったのか、マンティスは全身に力を入れて左腕を振り上げた。羽が振動し、残った五本脚が順番に地面を踏み鳴らす。
来る、半分砕けた鎌が振り下ろされた。しかし、どのみちこの距離では避けられない。剣で止めるか否か、一瞬の逡巡があった。
「ッ!」
その躊躇いの直後、折りたたまれていた関節が伸びた。軌道が変わって、鎌が背後に回り込むようにして迫ってくる。例え剣で腕を弾いたとしても、鎌自体は止まらずに命中する。
となれば、最早迷う要素はなかった。
「ッらああぁ!!」
左腕を盾に鎌を無理やり止め、剣を持った右腕を限界まで引き絞った。肉に無数の刃が食い込み、脳が焼ききれそうな激痛に襲われる。
だが、逆に言えば私は奴のことを間合いに捕まえた。この動けない状況であれば、好きな場所を確実に狙うことが出来る。
最後に放つのは、ビルドの中に幾つか組み込んだWS。尚、分類上はWSだが、ダメージ計算で通常攻撃として扱う為――今掛かっている全てのダメージバフが乗る。
その威力はバフマシマシした私のSTRと、マンティスのDEFが凡そ3000と想定してその3.5割カットで除算アンド減算。威力補正、急所攻撃補正も合わせて大体"1585ダメージ"! このレベル差にしては破格の威力だ。
「[
剣に青白い光が宿り、エネルギーが渦巻く。凡そ0.5秒の
今まで散々抉って来た傷口に剣先が触れ、そして肉体を砕き貫通する。
「まだだぁ!!」
しかし、この程度のダメージで奴が死なないという自信、あるいは信頼があった。
柄を握る手のひらが血で滑りそうになるのを堪えて、残った力を振り絞り刃を上へと持ち上げる。最初こそ抵抗はあったが、その後は一瞬で頭頂部まで達し――マンティスの肉体を半分に裂いた。
勢い余って手放した剣が宙を舞い、地面に突き刺さる。それと同時に、マンティスの体がその場に崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……っ、う、あ……」
呼吸に詰まって、その拍子に全身から力が抜けて膝を着く。目が霞む、腕が上がらない。ヤバいな、血を流しすぎた。
それでも勝った、私が勝った。紛うことなく、確かに最後まで立っていたのは私だ。
「――ッ、ざまぁみやがれ」
フィールドモンスター1体倒しただけで、ここまで感慨に浸れるとは、昔の私からすると考えられない。と言うか、モブの分際で強すぎなんだよこのクソ害悪モンスター。マジで死ぬかと思ったわ。
「あ……いや、死ぬ、の……か……」
私はとうとう上体を起こしている力も無くなって、うつ伏せに倒れてしまう。全身から体温が失せていき、段々と意識が朦朧として来た。
確か、この世界に来てまだリスポーンの概念は確かめてなかったよな。確証はないけど、多分死んだらそのままな気がする。そうなると、これ辞世の句とか読んだ方が良いのか?
「あー……」
馬鹿野郎、死に際に小粋な詩が思い浮かぶ程頭回るわけねえだろ。こういうのって大体処刑とか戦の前に詠むものだし。でもまあ、強いて言うならやっぱりこう、満足すれど後悔は――
「あ、猫」
猫がいた。
ほんの一瞬、視界に猫が映った。二足歩行の、茶色い毛並みの猫が私を見ている。そのせいで、辞世の句が猫になってしまった。
「……いや、何で猫?」
そう呟いた直後、私の視界は閉ざされ、完全に意識が途絶えた。
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[名前]フラムヴェルク・フレアウォーカー
[メインクラス]剣士
[種族]吸血鬼
[性別]女
冒険者等級:未登録
称号:古豪を斃す者
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LEVELUP!
Level:39→51
HP:2789→4950
MP:460→540
EXP:5665/10254
STR:1120→1560
VIT:456→685
AGI:1340→2012
MAG:86→101
DEF:92→138
MND:201→240
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◇TIPS
[ダメージ]
攻撃を与えた側と受ける側のステータスや
バフデバフの差異によって計算を行い
弾き出される数値。
全身に均一の防御力を持つ生物はおらず
攻撃した箇所によってその数値は大きく変動する。
またこの世界において、ゲームとは異なる要素による
ダメージの増減が確認されている。
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