第40話【ラファエル視点】リリア奪還作戦

「と、いうわけで今後デインゲルとは関われなくなってしまったのだ」


 私は大臣や宰相、そして王宮に近しい者達へデインゲル王国で起こったことを伝えた。

 私が帰国する前に、間抜けな大使が帰っていた。

 もちろんコイツは国の恥さらしということで問答無用で監獄へ投獄させた。

 その上で全ての責任は大使ということにしてある。

 幸いにも、コイツは我が国でも良からぬ勧誘をしていたから、誰一人として疑う者はいなかった。


 だが、リリアのことについては意見が割れ始めてしまった。

 リリアが聖女だったのではないか、彼女の力で今まで雨が降っていたんじゃないかと間抜けな考えを持った奴が増えてきたのである。


 最近の日照り続きが影響で、冷静に物事を考えられないやつが増えてしまって困る。


「陛下。こうなってしまったら一刻の猶予もございません! どうぞマーヤ様の強力な魔法で雨を……」

「大臣よ……、なにを言っているのかね。大袈裟だろう」


 だが、そう言って誤魔化そうと思っていたが、大袈裟なことではないことくらい自分でもわかっていた。


「すまない。マーヤはこのところ体調不良で魔法が使えぬのだ……」


 ついに打ち明けてしまった。

 これでどれだけ時間を稼げるかはわからない。

 早く雨が降るか、魔導士をなんとかして集めないと……。


「もしくはリリア様を連れ戻してはどうでしょうか?」

「宰相まで何を言い出すのだ!? しかも、リリア様だと!!」


 宰相はリリアのことを様呼ばわりすることは決してなかった。

 一体どういう風の吹き回しなのだ……。


「私も聖女など有り得ない、国のお荷物だと思っておりました。しかしながら、長い期間の日照り続き、更にデインゲルの陛下の書状を読んで納得しました。やはりリリア様は聖女であり、苦痛にも暴言耐えながら国を護っていたのでしょう……」

「宰相までリリアを味方するのか……」


 こうなってしまうと、私の立場が非常にまずい!


「マーヤ様の魔法が使えず、聖女もいないのではこの国は人の住めぬ国になるかもしれません。民を思うならばデインゲルの陛下の提案どおり移民を推奨するしか……」

「宰相よ、少し黙りたまえ! まだ策はある!」

「一体どのような方法で?」

「リリアを返品してもらう……!」


 はっきり言って、リリアは聖女ではないと断言する。

 だが、こんなにも多くの者がリリアを信じるというのならば、一度連れ戻し、無能なところを見せつければ良い。

 その上でそいつらに責任を押し付ければ都合が良くなる。

 これでマーヤのスランプ問題も脱し、更に私への信頼を格段に上げることができる。


「確か、カサラス王国にある国の財宝の三分の一で取引したのでしたな?」

「そうだが」

「だとすると、全て返却のうえ、我が国の財宝の半分は渡さなければ取引にも応じないでしょうな……」

「バカな……!」

「向こうはおそらくリリア様が聖女だと知っていたのでしょう。だから国が傾くほどの財宝を失ってでもリリア様を求めていたのかと」


 宰相の言っていることに違和感がない。

 私自身も、宰相が言ったことを信じてしまいそうになったくらいである。


「もしそうだとしたら、あの王子め……。卑怯な取引をしおって!」

「卑怯……?」

「あぁそうだよ。何しろこっちの知らぬ情報だけで要求してきただろう」

「いえ、何度も聖女だと言っていたかと……。我々が断固としてあり得ないだろうと笑っていたのですよ……」


 財宝のことで頭がいっぱいで、あいつの話など耳に入ってそのまま抜けていってしまったような気がする。

 このままでは私までもが聖女だと思ってしまいそうだ。

 早いところ交渉してしまったほうがいいかもしれない。


「リリアの件は私自ら出向こう」


 すぐに準備日に取り掛かった。

 財宝は用意しない。

 せっかく手に入った宝を返してたまるものか。

 様子を伺い強引に連れ去れば良いだけのことだ。

 どうせカサラス王国は砂漠が広がる地獄の国。

 無能だと知った王子がリリアのことを捨てている頃だろう。

 そこら辺で苦しんでいるところを声かけて助ければ良いだけのことなのだから。

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