第37話 召喚魔法

 ルビーに乗り、湖があると言われた場所へたどり着いた。

 だが、湖の面影は全くなく、だだっ広い乾燥した広野である。

 その中心部には炎を纏ったモンスターらしき生き物がいた。


「リリアよ、一つ気になるのだが、あれは見た目に惑わされてはいけないということか? どうも人間が絶対に勝てないというような相手には見えぬのだが……」

「どうでしょうか。ただ、あのモンスター一体だけで湖の水を全て吸収できるとは思えませんよね」


 そのとき、突然ルビーが力を溜めはじめて力を解放した。


「ぎゅーーー!!」


 ルビーがすぐに強化された水流ブレスを放つ。

 綺麗に命中した。

 すると、あっという間にモンスターはその場で倒れ、やがて姿を消した。


「これは……召喚か!? 息絶えた後に姿が消えるのは、召喚魔法特有の現象だろう」

「やはりそうでしたか。ならば辻褄が合います」

「まさか、人間がわざとこの湖に放ったとでも?」

「それによって儲けて良い生活を送れる者達がいるってことですね。周りに召喚魔法を使った者がいるはずです。探しましょう!」


 空中から手分けして辺りを見渡す。

 すると、急ぎ足で王都とは反対側へ逃げていく集団を発見した。

 こんなところに人がいるのは不自然だ。

ルビーが逃げている者たちの前に周り、目の前に降りたつ。


「くそう……まさか人が来るなんて」

「其方らがこの湖にモンスターを放ちワザと水不足におとしいれたのか!?」

「これは商売だ……。法的にも裁くこともできないんだぞ」

「は?」


 カルム様が今まで見せたこともないような表情で睨みつけていた。


「別に湖自体が国の物というわけではない。俺たちはただ、モンスターに餌を与えていたに過ぎない」

「愚かな……。本当に水が無くなったとき、どれほど辛く苦しいか分からぬからそういう行為ができるのであろう……」

「何と言おうが俺たちは違法ではない手段で商売をしているだけだ」


 カルム様が今にも殴りかかりそうな状況だった。

 だが、私は止めることができない。

 今までずっと国の代表という立場で、水が全くない状況を必死に考えて乗り越える手段を考えていた人だ。

 悩みに悩んで苦労してきた。

 それなのに、目の前の男たちは水を私利私欲で奪っているのだ。

 私だってこんな奴らは一度痛い目を見てほしいと思ってしまうくらい腹立たしくなっている。


「わかったらどっか行ってくれ」

「断る。民が公平に使う水を独占しようなど、たとえ違法でないにしても放ってはおけぬ」

「この……しつこいんだよ!」


 なんとかできないものだろうか。

 この男たちが水を独占し、全てをモンスターに吸収させないようにしたい。


「ぎゅーーーっ!!」

「ルビー?」


 ルビーが激しく咆哮した。

 ルビーの声を聞き、男たちはガクガクと震えている。


「逃げろ!! バケモンがキレちまった!」

「あんなのには勝てねぇ……」

「おぼえてろ。またいずれ水は独占しに来るんだからな!」


 男たちが逃げていくのと同じ頃、空が分厚い雲に覆われた。

 そして、この辺り一体が物凄い激しい雨が降ってきた。

 まるでバケツをひっくり返したかのような、とんでもない勢いだ。


「ルビーがこんな激しい雨を降らせたのね?」


 私とカルム様は、ルビーの翼に覆われて雨に打たれずに済んでいる。

 きっと逃げていった男たちはびしょ濡れだろう。


 しばらくすると、湖がみるみるうちに水溜りになっていった。

 泥水も混じり、色合いは綺麗とは言えないが、ひとまず水は溜まってきたのだ。


「ぎゅーーー!!」


 ルビーがさらに咆哮した。

 すると今度は、泥水のような色をしていた湖が、あっというまに綺麗な透き通った水に変化した。


「素晴らしい……まさかルビー殿はこんな力まであったとは」

「私も知りませんでした。水を浄化する能力ですね……」

「ぎゅーっ!」

「なんですって!?」

「リリアよ、ルビーはなんと言っていたのだ?」

「あの程度のモンスターがどんなに水を吸収しようとも、この湖の水が枯れることはない、そういう力を与えたと言ってます」

「なんと!」


 これでデインゲル王国の水不足問題は解決できるんじゃないだろうか。

 水筒に水を汲み、王宮へ戻った。

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