第36話 乱入者
「偶然見かけてしまいましてね。リリア様の飲まれていた飲み物に何か薬のようなものを混入している姿を。後に回収して部下に調べさせたところ、飲んだ者のそのときの記憶が消えてしまう魔道具であったと判明しました」
「そんなことがあったとは……。リリアが無事で何よりだが」
「特に害があるものではないため、国の意図かもしれないということで当時は何も追及はできませんでしたが……」
「どうりでここに来た日の記憶がないわけです……」
ラファエルは何のために私にそのような魔道具を使ったのかわからない。
どちらにしても、あの男にその頃から泳がされていたと思うと苛立ちを覚えてしまう。
「なるほど……確かにそれならば辻褄があう……」
「カルム様……何がですか?」
「いや、なんでもない。だがリリアよ、君が無事でいてくれて本当に良かったと思っている」
「はぁ……」
カルム様が何か言いたそうな顔をしていた。
それ以上、ここでは深く聞かないでおくが、気になってしまうではないか……。
「ところでリリア様、せっかく我が国にお越しくださった上でこんなことを聞くのも失礼かもしれませんが……」
「どうされましたか? そんなに物腰低くならなくとも……」
「実は、我が国の水が消滅してしまいそうな状況でして……。このままではデインゲル王国は滅びます」
「なんですと!? カイエン陛下、それは誠ですか? 環境に最も優れた国であるから、今まで物資や水を輸入してきたのですが」
「水が急になくなったのは、最近のことです」
この時点で、私は少々困ってしまった。
仮にも、この国にも水の加護が必要と言われても、すでにカサラス王国で力を発動しているため、この国でも加護を与えるのは難しい。
「原因はわかっております。最近急に出現したモンスターの仕業です」
「モンスターですか?」
「はい。我が国の財宝とも言えるべき広大な湖に突如として現れました。そのモンスターは水を吸収し、己の炎へと変換してしまうのです」
そんなモンスター聞いたこともない。
だが、それならば対処の仕様はありそうだ。
「おやおや、カイエン陛下。そんなにお困りですかな?」
いつの間に現れたのだろうか。
五十代くらいの髭を生やした男が得意げに姿を現した。
「いやいや、君には助けられているよ……。今となっては君たち魔導士が頼りなのだから」
「それは光栄ですなヒッヒッヒ……。おっと、他国のお客様が来ているのに失礼しましたね」
「……」
私は何も言わずに黙ってこの男をじっと見ていた。
どこかで見たことがあるような気がするのだが……。
「話は聞いていましたが、あのモンスターはどうすることもできませんよ。誰も倒すことのできない規格外の強さですから」
「そうですか」
「でもご安心を。我々魔導士が集まればこの国の水くらいならまかなえますとも。でも、ちゃんと報酬は頼みますぞ」
「うむ……」
「ではこれで失礼。あなたがたも何者かは存じませんが、とっとと逃げた方が身のためですぞ、ヒッヒッヒ……」
魔導士と名乗った男はゲラゲラと笑いながら退室した。
「申し訳ないリリア様。カルム殿にもこんな恥ずかしい状況を見せてしまい……。だが、彼には現状逆らうことが出来ぬのです」
「どういうことですかな? あのような男の言いなりなど信じられませんが」
「彼らのおかげで現在国中の水をまかなえているのです。国の予算も彼らへの報酬で大部分削ることにはなっていますが、それでも国が崩壊せずいられるのは彼らのおかげでもあるのですよ」
カイエン陛下は仕方がなく従っているようにしか見えない。
他国のことに口を挟むつもりはないが、あんな常識知らずのような男の言いなりというのもシャクであった。
「そのモンスターを倒せれば、再び水に恵まれた国になるんですよね?」
「そうだとは思います。ただ、魔導士の情報だと、人間では絶対に倒せないモンスターだと聞いております」
「そうですか……。その迷惑かけているモンスターがいる湖の場所を教えていただけませんか?」
「ま、まさかリリア……!?」
カルム様がとても心配そうな顔で私を見てくる。
「根源をねだやさないと解決にはなりませんものね」
「あまりにも危険だろう……」
続けて、カイエン陛下も驚いた表情をしながら、声を少々荒げていた。
「リリア様。あなたがカサラス王国でご活躍されていることは重々知っております。危険な目に遭わせてしまうようなことはできませぬ!」
「この国で水の加護を発動することができません。それに、多分この聖獣ルビーなら負けないと思います」
いや、もしかしたらそこそこ強い人間が集まれば勝てるんじゃないかと思っていた。
もちろん、実際にそのモンスターを見たわけではない。
勝つ確証は持てなかったが、ルビーならなんとかなる気がする。
「せめてリリア様に護衛を……」
「いえ、飛んで向かうので大丈夫です。カルム様、少しお待ちくださいね」
「いや、私も向かう。万一にでも何かありそうになったら命に変えてでもリリアを守る」
「カルム様……」
カルム様のマジな視線に反することはできなかった。
「おあついのう……」
カイエン陛下がニヤニヤと笑いながらそう言ってきた。
確かに陛下の言うとおり暑い。
これもモンスターが水を炎に変えてしまっている影響なのだろうか。
「すぐに向かいますね」
モンスターか。
以前にも相当な強さを誇っていたはずのモンスターを倒したことがあるし、きっとなんとかなるだろう。
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