第23話 生存確認
岩山の一部が破壊され、そこに倒れて微動だにしないファイヤーバードが倒れている。
間近で見ると、巨大化しているルビーよりも大きいし、これは相当ヤバいモンスターだったのではないかと思ってしまった。
恐る恐る近寄ってみたが、やはり動かない。
試しに心臓近辺だと思う場所に耳をそっと近づけてみたが、鼓動も聞こえないし、息もしていなかった。
私は専門分野ではないので詳しくはわからないが、それでも死んでいると判断して大丈夫だろう。
確か、モンスターは貴重な資源になり、色々な素材として役立つはず。
これほど大きいモンスターならばそれなりの値打ちだろう。
だが、今はカルム様を一人にしてしまっているので後回しだ。
完全に安全になったところで、村の生存者確認を最優先したいので、再びルビーの背に乗っかりすぐに村へ戻る。
戻ってみると、カルム様以外にもパッと見た感じで三十人ほど現れていた。
皆ルビーを見て驚いて警戒しているようだったので、すぐに私が降りてから小型化してもらい、私の肩に乗っかってもらった。
「ただいま戻りました」
すぐにカルム様の元へ挨拶した。
警戒されても困るので、カルム様の知り合いとなれば少しは安心してくれるだろうと思ったまでだ。
「カルム王子殿下。そ、その者は今巨大なモンスターの背に!?」
「モーヤル辺境伯よ、安心したまえ。私の信頼する者たちだ」
「そうでしたか……特殊なモンスターを操っているのですな」
うーん……考えが甘かったようだ。
やはりルビーのことが周知されていないから、警戒されている。
「先ほどの続きですが、カルム王子殿下。この度は危ないところから救っていただき、なんとお礼を言って良いのやら……」
「勘違いするでない。この騒ぎを止めてくれたのは今戻ってきてくれた聖女リリアと、その聖獣ルビーによるものだ」
「なんと!! ではあなたが……」
モーヤル辺境伯と呼ばれた男性は四十代くらいで、顔中に長い髭を生やしたダンディなお方だ。
だが、その目線はルビーを見た後に私の胸元や足をキョロキョロと見ている。
すぐに視線を逸らそうと頑張っているようだ。
本人は気付いていないのだろうが、目線でどこを見ているかは大体わかる。
「リリアと申します。全員無事でしたか?」
「いえ、半分ほど逃げ遅れてしまって……無事なら良いのですが……」
「なんと! ではすぐに救出へ向かう! リリアよ、あれだけ魔法を連発した直後だ。無理をせずここで待っていて欲しい」
「大丈夫です。私も手伝います」
とは言ったもの、流石に魔力の使いすぎでさっきから普段よりも息が荒い。
「リリアは十分に頑張ってくれた。もしも死人を見てしまったら辛いだろう。あとは私たちがなんとかしよう」
そう言ってそのまま辺境伯や生き残った人たちと一緒に焼け跡の建物へと向かっていってしまった。
だが、今は走れるほど力が残っていないことに気がついた。
「あぁ、これがイデアの言っていた魔力の使いすぎの感覚なのね……」
身体中の血液が大量に無くなった感覚と似ているのかもしれない。
まだ倒れるほどではないが、魔力が回復するまではあまり動かない方が良さそうだ。
しばらく地面に座りゆっくりと休ませてもらった。
♢
「生存者は逃げ延びた者達だけのようだ……」
私は直接は見ることはなかったのだが、建物から発見された村人は全員焼死してしまっていたらしい。
もう少し早く到着できていれば……。
「リリアよ、残酷だがこればかりは仕方のないことだ。辺境地には昔から時折モンスターが出る。それを覚悟の上で、モンスターを狩猟しながらここで生活しているのだから……」
「しかし……」
いや、これ以上の言葉は出せなかった。
エウレス皇国も王都から離れた地では似たようなことが度々あると聞いたことがある。
カサラス王国でもそれは一緒なのだろう。
「聖女リリア様、この度は死者は出てしまったものの、被害が甚大になる前にお助けくださりありがとうございました」
「いえ、当然のことですから。たまたまここへ来れて良かったです」
「歓迎したいところですが、村がこれでは……」
本来の予定だったら辺境地ビレーヌで水の加護を与えて、私とカルム様で近くの自然を満喫する予定だった。
実際に見て感じたことだが、自然と言っても枯れている木も多いし作物も育てようとしても厳しい環境ではある。
だが、この辺りは国境に近い分、当初の王都よりはマシだと言えるだろう。
だからこそ辺境地に住みたいと願う人たちもわずかにいたのかもしれない。
「村の復興への支援を全力で行う。父上にもこの旨は報告しておく」
「おぉ……カルム王子殿下。いつもながら感謝致します!」
辺境伯がこれほど頭を下げているところを察するに、カルム様の評判は遠く離れた場所でも良いようだ。
私は思い出したように辺境伯へ質問をした。
「モーヤル辺境伯、村の中でモンスターを解体できる人はいますか?」
「はっはっは……それならば全員可能ですよ。モンスターを倒して生活していたようなもんですから。流石にあれほどの大型となると、倒せるものは誰もいませんでしたがね……」
「ファイヤーバードでしたっけ。あちらにある奥の岩山で死体となって倒れたままなので、あの素材はこちらで使ってください」
私は平然としたまま言っただけのことだった。
「「は!?」」
辺境伯だけでなく、カルム様まで変な声を出して驚いているようだ。
「良いのですか!? 実物を見ておらんからなんとも言えませんが、村中を破壊するようなモンスターの素材は全て合わせて金貨千枚は下らないでしょう!」
「リリアよ、前に国からの表彰で与えた五倍以上の価値があるのだぞ!? 通常、モンスターを倒した者に所有権が与えられるのだから考え直しても良い。これは国の問題なのだ」
表彰では金貨を二百枚もいただいてしまった。
せっかくなので、今回着ているワンピースや、他にも洋服を色々と買ってみた。
だが、金貨一枚払ってお釣りが沢山残っている。
他に使い道が今は思いつかないし、これ以上あっても今は使い道に困る。
「遠慮せず。どうせ私は素材の有効活用法もわかりませんし、村の方々が有効利用してくれた方が良いかと」
「相変わらず欲がないのだな……」
「なんと……有り難き幸せ……。村を代表して感謝致します!!」
村は壊滅状態だし、役に立てるならそれで良い。
モーヤル辺境伯は何度も何度も、私に頭を下げてきた。
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