第8話【Side】リリアを追放したあと2

「ラファエルよ。パーティーは盛況だったようだの。まずその点は褒めよう」


「当然です! 最後の最後まで心までどん底にしてやりましたからね。これで砂漠の国へ行って己が無能聖女であることを知れれば、我々の行為も当然なんだと納得がいくでしょう」

「ふむ。力もなき女が聖女と偽った件は問題だった。財宝まで手に入れ他国に渡す判断をしたお前の功績は素晴らしい」


 ラファエルは珍しく褒められ、頭を下げながらニヤニヤと笑っていた。


 ウィンド皇帝もラファエルが手柄を立てたことを微笑んでいた。

 今まで国務以外では問題ばかりを起こしていて頭を悩まされていたからである。

 唯一褒めていた国務も、リリアに無理やりやらせていたことをウィンド皇帝は知らなかった。


「これからは父上に褒められるよう努力して参ります!」

「そうか。一時期はどうしたものか悩んだが、お前の新たな婚約相手を探すため他国へ出向き交渉して正解だったようだ。お前も成長したな」

「こ……婚約相手!?」


 ラファエルは考えもしなかった言葉を聞いて驚いていた。


「そうだ。デインゲル王国の第二王女だ。今回も交渉のために私自ら頼みに行ってきたのだよ」


 評判の悪かったリリアとの婚約によってラファエルの評判が下がってしまっていた。

 だからこそ汚名返上のつもりでわざわざ他国まで足を運び、ラファエルと国のために無理をして交渉したのだ。


「あ……あの、実は婚約相手はもう……」

「何か不満か?」


 パーティーでマーヤと婚約したことを話しはじめた。


「私はデインゲル王国へ出張する前に伝えたはずだが……。お前の新たな婚約者を見つけ出すと……」

「そう言われてみれば……」


 ウィンド皇帝が伝言をしたときのラファエルは、マーヤのことで頭がいっぱいだった。

 聞いているようで、全く聞いていなかったのである。


 何度も叱られてきたラファエルは、今回も怒られると思っていた。

 だからこそ、すぐに言い訳を思いついたのだった。


「えーと……、結婚相手などそう簡単に見つけ出せると思わなかったので……。それにほら、マーヤは実力もありますし、父上もお喜びになると思いましたし」


「つまりお前は私に何も断りもせず、私を信用せずに勝手に婚約を結び、大規模なパーティーで公言までしたというのだな?」

「は、はい。しかしながらマーヤは……」


 ウィンド皇帝は、すぐにラファエルの胸ぐらを掴み、投げ飛ばした。


「パーティーではリリアを婚約破棄させ他国に売ることが決まった追放送迎会だと言っていただろう! 私に何も言わず、何故勝手に婚約をしたのだーーー!!?」

「い……痛いじゃないですか! そんな元気があるならば別の場所で使っていただきたい!」

「バカか貴様は! 相手が大事な息子じゃなければ投げ飛ばすだけでは済まんぞ……!」


 ラファエルの言い分を聞いてさらに怒りがヒートアップしていった。

 それに対して、ラファエルは何故こんなにも怒られているのか理解ができずに痛みを抑えながら首を傾げている。


「お前はどうして勝手に物事を進めていくのだ? リリアの件もお前が勝手に決めたことだろう。なぜ大事なことを私に相談しないのだ?」

「確かに勝手に婚約者を決めて先に公開したのは謝ります。しかし、マーヤは立派な一流魔道士で……」

「まさか魔法を滅多に見ることのない貴族どもが驚けば一流だと思っていないだろうな!?」

「げ……そんなことは……」


 魔法を使えるものは限られている。

 パーティーにいた多くの貴族たちは魔法を見ただけでも驚く。

 しかも具現化の魔法まで見せられたから驚いて当然だったのである。


「まさか、相手は王族の地位を狙ってきた婚約じゃあるまいな……!?」


 ギロリとラファエルを睨みつけている。

 すぐにラファエルは首を何度も横に振っていた。


「わ、私が彼女の魅力に惹かれ一目惚れしたのです! マーヤはそんな人間ではありません!」

「ほう。もしも今回手に入った財宝が欲しいなどと申し出た場合はすぐに追放させる。それだけは心得ておけ」

「ひぃ……!」


 もはやラファエルは何も言い返せなかった。

 この後に財宝を少しばかりマーヤに渡してもいいか聞くところだったのだから。


「パーティーの場で貴様が勝手に婚約者と堂々と伝えてしまったのならば、余程のことがなければ後には引けん……。お前のやることだから心配しかない」

「大丈夫です……。マーヤの魔法と美貌を見れば父上もきっと納得できるかと!」

「たとえ魔法が優れていようとも、メリットはよわい。まだ名だけは聖女のリリアの方が他国からの見られ方だけだったらマシだわい……。ここで美貌と言うと言うことは……まさかではないが結婚相手を外見だけで判断していないだろうな?」


 ラファエルはまたしても、ウィンド皇帝と目線を離した。

 マーヤのことは外見でしか判断していないことが既にバレてしまったのかと驚いていたのである。


「どちらにしても一度会わせてみよ。そこで魔法も一応確認しておく。ここで無能魔道士だとしたら……わかっているだろうな?」

「それは問題ありません! マーヤの魔力が万能だということは私自身もしっかりと見ていますので!」

「ほう、自信たっぷりのようだな」

「はい! すぐにマーヤに報告してきますので!」


 慌ててラファエルはマーヤの元へ駆けていく。

 あっという間にマーヤの元で事情を説明した。

 だが、ウィンド皇帝にマーヤに魔法を見せて有能なところを証明して欲しいと告げた結果、マーヤの顔色が真っ青になる。

 その表情を見て、ラファエルは不思議そうな表情をしながらマーヤを眺めていた。


「えぇ……。も、もちろん皇帝陛下に私の素晴らしい魔法を見せて差し上げますわよー……」


 マーヤはどうしたら自分の魔力不足を誤魔化せるのか、必死になって考えていたのだった。

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