誕生日の魔法
転移魔法を使い、ロキ達はダンジョンを渡り歩く。
「アンリエッタ、この国の最高難度のダンジョンはどこだ?」
「あなたが倒れたあそこですが……」
この国に来て初めて入ったダンジョンだ。
属性魔法に頼り、前情報なしで入ったから気づかなかった。
「ではそこに三日後入る。今度は負けない」
ロキが事前に入るダンジョンを決めるとは珍しい、いつもは魔法が決まってから入るのに。
「大丈夫なのですか?」
「明後日は俺の誕生日だから、大丈夫だ」
ニヤリとロキは笑っていた。
「ハッハァ! もう負けんぞ!!!」
あっという間に最深部にまでたどり着き、最高ランクの光魔法を展開する。
ロキの手にはいくつもの光球が生み出され、アンデッドドラゴンは消滅した。
「時間は大丈夫だろ」
「ええ、まだまだあります」
時計を確認したアンリエッタは、ロキの魔力量に驚いていた。
ここに来るまでかなりの魔法を使用したはずなのに、疲れた素振りもない。
それだけではない、ロキは全ての魔法を使えるようになっていた。
「今日だけ特別に全ての魔法が使える。俺様の誕生日だからな」
隠されていたレアアイテムも探知魔法で全て回収し、エンカウント率の低いレアモンスターも強運スキルで見つけ、素材を剥ぎ取り、収納魔法で保管していく。
道も最短ルートで工率良く進む。
以前のように時間切れにならないように。
「最高峰の魔石だ。高く売れるだろう」
最後の魔物、アンデッドドラゴンが守っていた紫色の魔石をうっとりと見つめる。
魔石の大きさはかなりある、しばしの間誰も手にすることがなかったのだろう。
ダンジョンは世界の淀みから生まれる。
この魔石はこのダンジョンの核で、淀みが結晶化したものだ。
淀みにくっついてきた様々な魔力を含んでいる。
悪意がなくならない限り、こうしたダンジョンも魔物もなくなったりはしない。
このダンジョンの核となる魔石もやがてまた淀みが集まって、新たな物が出来るだろう。
ロキは手に取り、ひとしきり眺めた後はアンリエッタに手渡した。
「最後の手切れ金だ。元婚約者とやらに渡して縁を切ってくるといい。君は自由だ」
「えっ?」
ロキは満足そうだ。
「これだけの魔石は早々ないだろう。それこそ一生物の値打ちだ。君が提示した額以上に売れる。これで全ての借金は返せる」
今回見つけたレアアイテムやレアモンスターの素材全てが入った収納ポーチも渡す。
「これも売れば君は自由に生きられるだろう。生まれた街に残るも、新たな場所で生きるも、自由だ。お金で縛られることはもうない」
アンリエッタは戸惑った。
「待って下さい。こんなに渡したら、ロキ様の分は?」
「俺様の力なら、またすぐ稼げるさ」
ロキはアンリエッタと共に転移魔法で街へと移動する。
外はもう真っ暗になっていた。
「それじゃ、元気でな。幸せになれよ」
「待って下さい!」
踵を返し去ろうとするロキを、アンリエッタは必死に止めた。
「行かないで……」
アンリエッタの泣きそうな声にロキは驚く。
「一人では不安か? ならば渡すところまで付き合おう。あんな無茶な慰謝料を請求する輩だ、確かにロクでもない奴なんだろうな」
そんな非道な元婚約者になんて会いたくないのだろうと結論づけた。
アンリエッタの恋心になど気づかない。
「違うの……あの提示額は、私が増やしたの」
「はっ?!」
ロキの訝しむ声。
「私が、あなたと一緒にいたくて借金の額を多く伝えたの。そうしたら返済中はずっといられると思って。こんなには要らないわ」
紫の魔石を返される。
「それでも、こちらくらいにはなるのだけど…ごめんなさい」
「いや、充分ぼったくりだな」
ダンジョンの、レア系を売って賄えるとは、どちらにしろ高すぎる慰謝料だ。
「連れ戻しに来たのも本当は復縁を迫られて……でも私、戻りたくなかった」
その言葉にロキは表情を歪ませる。
「復縁? 今更?」
貴族であったアンリエッタが急に家を追い出され、慰藉料という借金を背負わされ、冒険者生活をさせられたのだ。
返済も順調だったのに、復縁したい?
仮に好いていての復縁だとしても、身勝手な要望としか思えない。
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