職業不詳、借金いっぱい

しろねこ。

借金が生まれたわけ

ロキは困っていた。


「これが今回の報酬なんだが……」

アンリエッタは渡された報酬から自分の分を計算して、残ったお金をロキに返す。


あれほどあったお金の殆どが、アンリエッタに納められた。


「あぁ俺様の今日の稼ぎよ! こんなに減るのか……」

冒険者であるロキは、借金返済の為に頑張ってお金を稼いでいた。


だが、どんなに頑張っても手元に残るは微々たるお金。


美人の借金取り、アンリエッタは容赦なく取り立てる。


「仕方ありませんね。そういう契約ですから」

頬に手を当て、ふぅっとタメ息をついた。


茶色の瞳は真っ向からロキの赤い瞳を見つめ、確認するように言う。


「報酬の八割を貰う、それが契約でしたよね?」


「……確かに契約したが」

納得して結んだ契約だが、それでもこんな額を毎回持ってかれては逃げ出したくもなる。


こんなちょっとの報酬じゃ、粗食ばかりしか食べられない。


たまには肉をガッツリ食べたいのに!


借金取りのアンリエッタはどこにいてもロキに付いてくる。


危ないダンジョンに入る時でも、よその街にいく時も付いてくるのだ。


逃げられないように。


こんなにきれいで美しい女性なのだから、借金取りでなければ喜んで追われたいのに。


さらさらの栗色の髪の毛と穏やかな茶色の瞳、スタイルもとても女性らしく、丸みを帯びていてきれいだ。


口調も丁寧で、育ちの良さが伺える。


「今、どれくらいだ?」

残りの借金の総額を聞く。


「利子のニ割を返せた、といったところですわ」


「利子のニ割……!」

がくりとロキは項垂れる。


ロキは凄腕の魔法使いだ。


しかしその能力は特殊で、何とも使い所が難しい。


なのでチームを組むことが出来ず、基本ソロで動いているのだ。


ロキは様々な魔法を使えるが、その日どんな魔法を使えるかは、完全ランダムなのだ。


この世界では魔力を持つものは、皆火や水などの属性魔法を一つか二つ使える。


火なら火と、水なら水と一度決まった属性は生涯変えることは出来ない。


基本的には遺伝で決まるのだが、それをロキはその日次第ではあるが、全属性の魔法を使うことが出来、しかも高ランクの魔法を、修行せずとも使用できる。


属性魔法以外の錬金術や回復魔法なども使える時もあり、時には使役系の魔法を使える日もあった。


それ故に職業不詳だ。


魔術師とも錬金術師ともテイマーとも言えるような、特殊な能力をロキは持っていた。



使い方次第で儲ける子ども出来る    ロキなのに、何故こんな借金を背負ったのか。


「あの日、あんなミスをしなければ……!」

運命の日を思い出す。







あの日は調子に乗ってしまった。


その日選ばれたのは光系の魔法。


闇系の魔物が多いダンジョンを、爽快に且つ豪快に攻略していた。


最深部まで難なく進み、最奥の魔物、アンデッド・ドラゴンにも遭遇した。


しかし、ここまで来るのに時間を費や過ぎていた。


いつもは懐中時計を見て時間には気をつけていたのだが、その日は時計が壊れていて、いつもよりゆっくりと時を刻んでいた。


不運は重なる。


闇系のダンジョンはとても暗く、感覚も狂わせやすい。


そしてソロでダンジョンに入るロキには、時を知らせる仲間もいない。


日にちが変わった事も、気付かずトドメを刺すつもりだった。


「はっ?」

魔法が発動しない。


ロキは焦った、あと少しというところで光魔法が消えてしまった。


代わりに使用出来るようになったのは、闇魔法。


「何でだ?!」

タイミングが悪すぎる。


あまりのショックに硬直してしまったロキはアンデッド・ドラゴンの呪いのブレスを受ける。


「しまった……!」

防御壁を展開するより早く、ブレスを全身に浴びてしまった。


ロキの体が少しずつ黒く変色していく。


「聖水を」

すぐさまアイテムを取り出そうとするが、追撃しようとドラゴンが体当たりをかましてくる。


「転移!」

ロキはまず、身の安全を図るためにその場から逃げ出した。


ドラゴンの後ろにあるお宝を諦めるしかなかった。







ダンジョンの外に出ることは出来たが、痺れる手足ではアイテムが取り出すのが難しく、四苦八苦する。



「最期の一本…」

本日の不運。


光魔法に頼りすぎていたロキは、アイテムが不足しているのにも気づかなかった。


呪いの進行を止めることは出来たが、動けない。


自身の作った魔道具で救命信号を出す。


既に舌が回らず、転移魔法も使えない。


(誰か、来ないか?)

深夜のダンジョン前。


昼間ならともかく、こんな真夜中に人が来るはずもない。


意識が朦朧としてきた、眠気が凄い。


一日ダンジョンに潜っていたため、体力もかなり消耗していたのだ。


「大丈夫ですか?!」

どれくらい待ったかわからないが、声がした。


(助かった……)

これでひと安心だと、ロキは意識を手放した。





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