第1章 成り上がり
第9話 夢の職業「探索者」
ゴブリンキングを倒し、ユヅネと約束を交わしたあの日から一週間ほど。
「うおっ! 兄ちゃん、すげえなこの発掘物の量! 一体どこの者だい!」
「ふっ、今はただのしがない探索者ですよ。まあいずれ……」
「?」
「“最強”になりますがね」
「???」
完全に決まった。
「……恥ずかしいです、優希様」
「なにっ!」
「は、はは……。面白いお客さん、だな」
たしかに、おじさんも引き気味かもしれない。
そう思うと急に恥ずかしくなった俺は、普段の態度に戻す。
「じゃ、あの、この売却……お、お願いします」
「お、おうよ……」
「はあ」
ユヅネの、少し微笑んだような顔でついたため息が場に行き渡る。
ふと、周りを見渡してみれば、
「はいはい、今日は武器安くしてるよー!」
「そこのお姉さん、この装備なんて似合うんじゃないですか?」
「はい、承りました! ありがとうございます!」
今日も大いに賑わっているなあ。
ここは『ダンジョン
俺たちは、ここ一週間にダンジョンで得た魔石や素材を換金するべく、ダンジョンでの発掘物を取引するこの場所に足を運んでいた。
あれからユヅネと共にダンジョンに潜り、俺たちは多くのダンジョン発掘物を得ていた。
あの時は付いて来てしまったので仕方が無かったが、ユヅネも探索者カードを発行して正式にダンジョン探索が可能になった。
もっとも、ユヅネは「探索者」ではなく「探索付随者」という立場。
その二つの違いは、“制限の緩さ”。
探索者にはランクごとに制限が設けらており、上位ダンジョンに潜るには功績を残さなければいけないが、探索付随者は制限がない。
つまり、俺のランクが上がって上位ダンジョンへ潜っても、ユヅネは付いて来ることが出来る。
その代わり、付随者は報酬を受け取れないなどの決まりはある。
よって、今ではほとんど付随者として資格を発行する者はいない。
だが、ユヅネは「わたしの分も全て優希様の物になるとは、なんだか夫婦みたいですね!」とむしろ喜んでいた。
俺もユヅネと一緒に暮らしていくので、互いに良い関係だ。
ユヅネにとっては、ぴったりの役割だろう。
そして、この一週間。
俺はFランク探索者のため、協会規定によってF・Eランクダンジョンしか潜ることが出来ない。
しかし、今回はそれが逆に功を奏した。
「こりゃ、結構な額になりそうだなあ」
「まあ、人がいなかったので」
一般的に、探索者専業で生計を立てるには、最低でもDランクは必要だと言われている。
ほとんどのF・Eランクの者は兼業で探索者をやっているのだ。
つまり、募集があっても集まりは良くない。
俺たちはその人気の無さの隙を付いて、どんどんと効率よく短時間で攻略していった。
それこそ、一日にいくつものダンジョンをこなすペースで。
その成果がこれだ。
「ほらよ、兄ちゃん。一つ一つの値段は高くないが、よくぞこんなに集めたもんだ」
おじさんに手で促されたので、会計スペースに『探索者カード』をかざす。
「!!」
するとそこには、驚愕の数字があった。
探索者カードに付属されている D-Pay(ダンジョンペイ)。
今の売却によって増えた額は、
「に、二十万!」
俺にとっては大金だぞ!
F・Eランクダンジョンのみ、しかも“たった一週間”でこの稼ぎは相当凄い!
これが本来の夢の職業「探索者」か!
やったよ、天国の母さん、父さん……。
「ユヅネ、欲しい物はあるか?」
「お菓子をいっぱい!」
「よーし、わかったぞー」
ユヅネを撫でてやる。
今回の報酬、こいつのおかげでもあるからな、ほんの九割ほどは。
俺たちのやり取りを前に、おじさんは微笑ましい顔だ。
「ははっ、可愛い妹さんじゃねえか」
「妹というか……そうですね。可愛い奴です。ありがとうございました」
関係については誤魔化したが、可愛いというのは本心。
その言葉に、ユヅネはちょっと顔を赤らめて照れた。
「おう、今度も
俺たちは一礼をして、その場を後にする。
そしてそのまま、
さてと。
「……いつものですか?」
ふふん、悪いか。
そう、いつものだ。
「ステータス」
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ステータス
名前:明星優希
職業:なし
レベル:32
攻撃力:176
防御力:169
素早さ:171
魔力 :170
スキル:【遅咲き】
ギフト:【下剋上】
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おほー!
うんうん、何度見ても素晴らしいね。
F・Eランクの魔物相手なので、レベルは一つしか上がっていない。
それでも、ずっとオール1だった俺には、何度見ても飽きないステータス。
レベルアップした時のステータスの上がり幅は、レベルが上がるほどに大きくなるらしい。
なので【下剋上】の効果もあって、たった1レベルでそれぞれ45程伸びたのだ。
つまり、チンピラ達のレベル13
改めてすごいな、【下剋上】。
最近は、こうしてステータスを覗くことが趣味だったりする。
その度に「ニヤニヤして気持ち悪いです」と、横からユヅネの
「優希様が嬉しければ、わたしも嬉しいです」
「そうか、この可愛い奴め。よし、次に向かう場所は……あ。まずい」
「どうされました?」
しまった。
魔石の売却は半分にするはずが、調子に乗って全部売却してしまった……。
「なんてバカな事を」
最近うまくいきすぎて、完全に調子に乗ってたみたいだ。
「ふんふふんふ~ん、お菓子いっぱい食べられるかな~」
まあ、いいか。
隣で鼻歌を歌う、ユヅネの嬉しそうな顔を見てるとまた頑張れる。
とりあえずお金はもらえたんだ。
また必死に集めた物を、次こそ
売却と同じぐらい、もしくは、より重要なあの場所へ!
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