第7話 レベルアップと授かったギフト

 「「「ま、真っ二つ……」」」


 チンピラ達はあんぐり開けた口で呟く。

 そして、綺麗に縦に割れたゴブリンキングは、大きな音と共に左右に分かれて倒れた。


 やがて魔物が消え、その場には赤色に輝く綺麗な魔石がドロップする。


「あれは……Aランクの魔石!?」


 それも、かなりのサイズのものだ。

 少なくとも、俺はあのサイズの魔石は見たことがない。


「「「!」」」


 俺が歩いて回収に動き出そうとした瞬間、奴らは先程まで全く動かなかった足をすぐさま動かした。


「「「俺のだ!」」」


 一目散に魔石に手を付けたチンピラ三人は、魔石を掴んで引っ張り合う。


「てめえ、これは俺のもんだ!」

「バカ言え、一番活躍したのは俺だろ!」

「てめえら、ここに誘ったのは俺だぞ!」


 この様子にはユヅネもあきれ顔だ。


あわれな人たちですね。そもそも倒したのは優希様でしょう」


「まあ、良いんだよ。嫌な奴だし、金に目はないけど、誰も死ななかったんだ。今はそれで良いんだ」


 俺はすでに、あの中に混ざる元気はなかった。


「……そうですか」


 少し下を向くユヅネの顔は、はっきりとは確認できなかったが、かすかに口元が笑っていたかのように見えた。


「ん?」


 そんな中、視界の下方に目の前にメッセージが流れているのが見える。


≪レベルアップしました≫

≪ギフトが授けられました≫


 え、レベルアップ?

 レベルアップって、あのレベルアップ?


 やったぞ、ついにやったんだ!


 それともう一つ下のはなんだ?

 ギフト? 聞いたこともないぞ。


 それに、周りを見渡してみても……


「「「わーわー、ぎゃーぎゃー」」」


「あ、ああ……」


 チンピラ達、南堂さんにギフトが授けられている様子はない。

 あの不思議な声が聞こえた者にのみ、授けられるのだろうか。


 まあいい、とにかく今はそのギフトやらも含めて確認しよう。


「ステータス!」


 俺は初めて、意気揚々としてステータスを開く。


-----------------------

ステータス

名前 :明星優希


職業 :なし


レベル:31


攻撃力:128

防御力:123

素早さ:124

魔力 :125


スキル:【遅咲き】


ギフト:【下剋上】

-----------------------


「!?」


 ちょっとまて、なんだこれ。

 夢か? 夢なのか?


「うそだろ」

 

 ツッコミどころはたくさんあるが、ますはそのレベル。

 上がり過ぎだろ……。


 二カ月間レベル1のままだった俺には、とても信じられない。

 Bランク相当の魔物を三体倒せばこんなに上がるのか?


「これはなんなのですか?」


 気になったのか、ユヅネもひょいっと俺のステータスに顔を覗かせる。


 普段なら恥ずかしくて見せられたものではないが、今はユヅネに頭を割いている余裕が無い。


「ほー、ステータスと言うのですね。して、優希様。この【下剋上】というのはなんなのでしょう?」


「あ、ああ……」


 これが、レベルアップの通知と共にメッセージで流れてきた“ギフト”とかいう、よく分からないものか。


 って、なんだよ、表示されている項目の場所からして、結局スキルじゃん。

 俺に嫌味ったらしくついている【遅咲き】みたいなものか?


「イタズラもいい加減にしてほしいよ」


 スキルに対して良いイメージを持たない俺は、期待をせずにギフト:【下剋上】をタップする。


「なになに」


ー---------------ー-----


【下剋上】……弱き者が遥か強敵を倒した時に得られる。魔物を倒した時の獲得経験値、またレベルアップによるパラメータ上昇が倍増。


ー---------------ー-----


「!?」


 え……え? 

 な、なな、なんだって!?


「優希様ー? 固まっておりますよー」


 ぺしぺしとユヅネに叩かれるのが、生憎今は放心状態だ。


「倍、増……?」


 人より倍の経験値がもらえて、人より倍のステータス上昇がされるってこと?


 な、なんだよこれ。

 凄すぎるだろ。


「でも、ギフトなんて。そんなの聞いたことがないぞ」


 だがやはり、ステータス内に存在するということは俺が獲得したものなのだろう。

 俺が情弱なだけで、上位に人たちは普通に持っているのか?


「頭が追いつかねえ……」


 ユヅネの謎の力に謎のボス部屋、巨大な魔物を倒した衝撃、ステータスにギフト。


 色々な事が一度に起き過ぎた俺の頭は限界を迎え、


「ゆ、優希様!?」


「ほげー」


 すでに何も考えられなくなっていた。







「これがコーヒーというものですか。どれどれ……にがっ!」


「だから言っただろ。ほら、ミルクでも入れろ」


「わーい」


「……」


 あれから、一先ひとまず事態は一応の収束を見た。

 パーティーの五人は解散し、今ユヅネと一緒にいるのは俺の家。


 結局、チンピラ達の誰にAランク魔石が渡ったかは分からないが、南堂さんがパーティーを率いたことでダンジョンからは脱出。


 自分たちの失態を広めない為、あのダンジョンはFランクダンジョンだったとチンピラ達が報告をし、何事にもならなかった。


 そして、もう一つ。

 あの「運命の石」とかいう、謎の綺麗な石がいつの間にか手元に戻ってきていた。


 今は家に隠してある。


「で」


 俺はユヅネの顔をじっと見つめる。

 相変わらず美しい。


 ってそうじゃなくて、


「結局、君は何者なの?」


「はい。わたしはユヅネ。異世界の魔王の一人娘です」


「だからそれはもう聞いた……いや、詳しく聞かせてくれ」


 あの不思議な力。

 真面目に聞く価値はあるかもしれない、そう考えた俺はしっかりと耳を傾けた。


 改めて、この子の名前はユヅネ。

 小さな見た目に美しい童顔をしているが、年齢は俺と同じ二十歳だという。


 出身は異世界(?)であり、どうやら俺と結婚するためにこの世界で俺を訪ねてきたらしい。


 そしていくつか質問させてもらったが、同姓同名などではなく、やはりユヅネはちゃんと俺自身を探し求めてきたようだ。


 嬉しい気もするが、疑問が一つだけ残る。

 どうして俺なのか、と尋ねると「そういうのは雰囲気がないと……」とはばかられた。

 

 謎だ。


「ていうか、そもそも異世界ってなんだよ」


 ラノベとかでよくあるあれか?


 お金が無くて買ったことはないが、なんとなく名前ぐらいは聞いたことがある。

 確か、こことは違った世界……とかそういった意味だったような。


「うーん、そうですね。では行ってみましょうか、異世界」


「は?」


「実際に見てもらった方が、優希様にも納得してもらえると思うんです。わたしの力についても、そこで説明しますよ」


 ユヅネはすくっと立ち上がり、後方を向いて何かを


「ちょ、ちょっと待てって! ユヅネ?」


 日本語ではない。

 外国語……とも明らかに違っただ。


 異世界語……なのか?


「手を握ってください」


「お、おう……」


 異世界語は唱え終わったのか、ユヅネはくるっと振り向いて手を求めてきた。

 俺は彼女の手を恋人繋ぎで握る。


「それっ!」


「うわあっ!」


 ユヅネは、俺が握った反対の手を振り下ろす動作をすると、目の前に二メートル程の、全体的に赤みがかったおごそかな扉が現れる。


「さ、行きましょうか」


「お、おい! どこにだよ!」


「いいですから。とにかく付いて来てください」


 俺はユヅネに強く手を引かれ、開いた扉の向こうへと足を踏み込んだ。

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