エピローグ 暗い空へ

「……成功だ」


 万感の思いを込めて、フィーバスはそう呟いた。


「博士……博士! ついにやりましたね!」


 ホープは嬉しさのあまり、ちょっと涙ぐんでいる。

 フィーバスのほうが泣いていいはずだが、不思議と涙は出なかった。


 ブラックコーナーを除去する研究。それはついに実を結んだ。


 フィーバスたちが生成に成功した新しい粒子は、ブラックコーナーを吸収して増殖し、やがて霧散して空気に帰る。

 そうして、ブラックコーナーを消し去るのだ。


「博士、名前付けましょう名前! 何がいいですかねー」


 嬉しそうにはしゃぐホープ。

 ブラックコーナーを消した後は無用の長物だから、別に名前なんて必要ない。

 ただ、もし付けるなら――


 実験の録画データを見て、フィーバスはふと思い出す。

 真っ暗な暗闇の中に、白い霧が現れるような映像だ。


 霧。思い出すのは、悪戯っぽい妻の顔。


「――『ハヤミスト』」

「へ?」


 くつくつとフィーバスは笑った。

 そう、しょせんこれは自分のエゴで作ったものだ。

 これくらいふざけた名前で、ちょうどいい。


「この粒子の名前は『ハヤミスト』だ。異論は認めん」

「え、えぇ……? いや、博士がいいならいいですけど……」


 わけがわからない、という顔のホープに、フィーバスはことさら満足げに笑った。


****************


 だが、そう上手くは行かなかった。


 その後、ハヤミストの安定生成に成功し、いつでもどこでもハヤミストを作り出せる装置『HAYAMISTA』を作り上げた――そこまではいい。


「まさか、政府にバレてたなんて……」


 そう、二人の研究は政府にバレていたのだ。

 外の世界を隠したい政府としては、当然見過ごすわけにはいかない。


 当然の如く、HAYAMISTAは没収。

 二人は軟禁状態にあった。


「どうしましょう、博士」

「どうもこうもない。奪われたなら取り返すまでだ」


 フィーバスの意志は固かった。

 ――せっかくここまで辿り着いたんだ。諦めてたまるか。


「行くぞ、ホープ。政府の施設に侵入して、HAYAMISTAを取り戻す。そのまま外に脱出して――」

「ブラックコーナーを消し去って、グリマーちゃんたちを救う! ですね!」




 ――今度こそ、救ってみせる。

 どこか暗い空の下にいる、あの子のことを。




――to be continued――

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