十三 夢の中
アキホシはまた別の鱗を手にした。
背後の闇に横たわっているエリカを窺う。
傷の痛みこそ感じていないものの彼女はもう虫の息だった。
再び意を決して、鱗を食んだ。
そして、それが”正解”だった。
つまりは男の――エリカを助けてくれるという目の前の闇の男の”大切なもの”を突き止める映像にようやく出会ったのだ。
浮かび上がる映像は、夢の中の男の視点だと明確に悟った。
いや、彼は現実では少年だった。
少年はよく予知夢を見た。自分が死ぬ夢だ。
きっかけは白蛇が幼馴染の少女の足首を噛んだのを目撃したこと。その日から悪夢を見始めた。
最初の頃は平気だった。
その程度の悪夢より、現実のほうが悲惨だからだ。
飲んだくれの母と、母を支配しようと暴言を繰り返す母の彼氏。
彼らの言い争いを毎晩見て、心は荒んでいくが取り繕うのは上手くなった。
だが、姉は異様に心配した。
まるで悪夢以来、少年が心を病んでしまったと思いこんでいるような過剰な気遣いようだった。
少年は必至で弁解した。
『姉さん、姉さん』
『えっと、何……?』
『姉さんがそばにいてくれるなら、俺は平気なんだけど。何がそんな怖いの? その、俺に何でも相談してくれていいからさ』
その言葉は姉に届かない。
姉はずっと少年を不健康だと思いこんで、何かに怯えていた。
映像が切り替わる。
夢の中。
少年は少年ではなくなった。大人になっていて、死んでいた。
平たく言うと怨霊のような生霊のような存在だった。怨霊は寝ることがないため夢を見なかった。
暗い井戸の底で一心不乱に鱗を食べる。
淡く光り、ほろほろ零れ落ちる美しい白蛇の鱗を掬って掬って、口に運ぶ。
彼は自分の”大切なもの”を探し続けて、鱗を食べていた。
彼の認識できなくなった”大切なもの”は姉の存在だった。
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