七 ”大切なもの”
アキホシたちの小学校の見慣れた校舎が見えてくる。
理科室。白衣の男性教師。彼は上級生の理科科目の担任教員だ。
次々と女子児童にセクハラを働くことで有名だ。
『あ、消しゴムのカスが落ちたよ』とのたまって、彼の手が女子のスカートから覗く太ももに伸び……。
映像が切り替わった。
男が理科室の実験台で頭を抱えていた。
『どうして、どうして……』
男は机の上に雑誌を並べた。少女の際どいポーズの写真がページをめくるごとに現れた。
男は『おかしい……おかしい……』と焦燥を浮かべた。
と、そこで映像は掻き消えた。
アキホシは背中に伝う汗が気持ち悪くて身震いした。
元の、井戸の底にいた。
男がアキホシを気遣う気配もなく説明を始めた。
「今、君に映像が見えたのは白蛇の鱗に触ったからだ。鱗を砕いて飲み干せば、映像の人物は”その人にとって大切なもの”を認識できなくなる」
アキホシは吐き気を堪えた。
「じゃあ今、先生は本当に……」
「あーいや。あくまでも、そんな未来があり得た、という映像だ。思考実験。君らの現実には微塵も影響しない」
男はアキホシにやっと要求を告げた。
「俺の認識できなくなったものが何か、突き止めてほしい」
「どういう意味……?」
「俺は長らく夢を見て、夢の中で蛇の鱗を砕いてきた。だがある時、鱗を砕いてしまってから自分の”大切なもの”が失われたと気づいた。その日を境に俺は死んでとうとう夢の中に意識を得た。
――なあ、わかるだろう? 想像できるだろう? 俺がどれだけ辛いか。死んでからも”大切なもの"を思い出せない悲しい男に同情してくれ。
そして俺の”大切なもの”を突き止めてくれ」
アキホシは狂人を見ている気分になってきた。
だが男が「俺の”大切なもの”を突き止めてくれたならその女の子の命を助けよう」と告げたことで腹は決まった。
それからアキホシは浴びるように白蛇の鱗を咀嚼し続けることになった。
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