学校一可愛い彼女の過去について、彼女の親友が話す事を僕は信じるべきなのか分からない。

フォリー・ベルジェール

第1話 僕は 告白する

 僕は、今日告白をする。


 桜木光さくらぎひかりさん。

 名の通り春の陽光を思わせるたおやかな黒い髪、睫毛長め眉太めのめっちゃ美人、あと主張の強い胸。

 どちらかというと昭和の美人さんというカテゴリなのかな?

 常に薄化粧で、学校指定のセーラー服と白のハイソックスが良く似合っている。

 あと榊原郁恵の様な胸……。

 試験の成績も常に上位、バレー部のマネージャーではあるけれどスポーツも万能。

 誰に声をかけられても笑顔で応対し、誰とでもすぐ仲良くなれる。

 最高な娘さんだね。ご両親はさぞ徳の高い方なのだろう。

 そんなわけで当然モテる。この1年間で、先輩同学年問わず10人程度は涙を飲んだのではないだろうか。


 じゃあこの僕は? 勝算が有って今日告白すると息巻いているのか?

 水島彼方みずしまかなた。県内それなりの進学校に通ってはいるけど、試験の成績は真ん中あたりを行ったり来たり……

 勉強以上に打ち込んでいるテニスも運が良ければ個人ベスト8、強者にぶつかったら2回戦ボーイ。

 顔? フツメンと思いたい。体の線は細めで、色も白め……。

 悪く言うとモヤシ、良く言うと? なんだろうね。

 休みの日はマンガ読んだり、ゲームしたり、近所の幼馴染とテニスしたり。

 極めつけに、桜木さんとは建設的な会話は一つもしたことが無い。

 もっと言うと挨拶すらしたことが無い……

 

 この状況で告白するなんて馬鹿げてる? いや自分でもそう思う。

 ただ、僕は昔から諦めが悪い。と言うか何かが確定していない中吊りな状況がイヤなんだ。

 彼女に対して抱いた恋心。それが成就するのか、しないのか。

 その結果が分かるまでは行動しないと落ち着かない。居心地が悪い。

 簡単に言うとダメならダメでさっさと砕けてしまいたいという事。

 何年も恋心を秘めて温めている人なんかはすごいと思う、本当にね。

 そんな事を考えながら歩いていると、見慣れた時計台の下にいる幼馴染二人が見えてくる。


「おはよー」

「おーす」

「いよっ」


 気心知れた挨拶。

 茶色のウェーブが掛かったショートボブ女が髪を揺らし、小走りで近寄ってくる。

「いい天気だねっ。正に何かが成就しそうな祝福された朝だね♪」

 朝一のイジりが入る。


 時田夏希ときたなつき。オナ小、オナ中、ついでに家が近所。

 物心ついた頃から一緒に外で走り回っていた仲だが、中学生の頃は周りからからかわれて、一時疎遠に……という全くテンプレ通りの幼馴染である。

 顔は悪くないと思うし、社交性もある。それなりにモテるとも聞くが、男と付き合っている様子はない。 小学校の時から同じテニスクラブに通っていたが、大会の成績はこいつの方が上。


 カチンと来て、にやけ顔で返す。

「そうだねえ。毎晩愛の神様と恋の神様にお祈りしてるからねえ」

「うわキモ!」

「応援はしてるけどさ、あの桜木光はヤバいだろ」


 長身の色黒がボソッと声を発する。

 堂島比呂戸どうじまひろとオナ小、オナ中…以下略。

 バスケを愛し、バスケに愛された男。

 全国でも強豪校に入るウチの高校で、1年からレギュラーを張っている。

 裏表が全くないヤツで、昔からなんでも話せる親友だ。

 バスケの事しか考えていないあまり、普段口数は少ない。


 3人でいる時は僕と夏希が会話を飛ばし、たまに比呂戸がツッコミを入れる。そんな関係。

 当然今日告白する事も、昨晩グループチャットで報告済みである。


「そうなんだけどさ、好きになっちゃったんだからしょうがないじゃん。こんなに好きになったのは、小3の時の瞳ちゃん以来なんだ……」

「ああ。あの性格最悪の」

「言うなよ。綺麗な思い出にしたいのに」

「彼方って女見る目ないよねー。外見から入るし、理想高いし」

「皆そんなもんだろ?」

「あんたは極端」


 話しながら歩いていく。

 この近所の時計台で待ち合わせた後は、最寄りの駅から電車に乗る。

 二駅先の『高谷堂』という駅から学校までは徒歩10分。


「で、どうやって告白すんの?」

「下駄箱に手紙入れて、校舎裏に呼び出そうかなと」

「べたやね。他に作戦は?」

「無い」


 はあーっとオーバー気味に息を吐き、首を垂れる。

「比呂戸、このドンキホーテに現実を教えてやってよ」

「別にいいんじゃね? 彼方はピンチになってからが強いから」

「キ〇肉スグルかっつーの」

「そうそう、そういうポジティブ情報もっとちょうだい」

「もうねえや、ごめん」


 冗談も言える間柄っていいよね。


「今夜9時にグルチャで報告会ね。まあ結果は分かり切ってるけど~」

「まあ頑張れよ。諦めたらそこで試合終了だ」

「惚気オールナイトを予定してますんで~」

 下駄箱に着いた僕らは、上履きに履き替え散り散りになる。


 さて……

 タイミングを伺い、桜木さんの下駄箱に手紙を投入。

 思い切りだけはいい男なのだ。



 18時。約束の時間まであと15分。

 校舎裏で落ち着きなくうろつく不審者。

 まあ、僕なんだが。


 18時15分を指定したのは根拠がある。

 彼女は男女バレー部のマネージャーをしており、バレー部の練習が終わるのが18時。

 やや急かす事になってしまうが、あまり遅い時間にするのも憚られる。

 手紙を入れるまでの思い切りは良かったが、今日の授業中はまともではいられなかった。


 来なかったらどうしよう。


 これが一番怖い。しっかりとクラス・名前を記載しての呼び出しで、その場に現れないというパターン。


 『あいつ、桜木さんに告ろうとして拒否られたんだって』


 そんな噂が広がる事で、失恋を知るという悲しい結末。

 「安西先生……告白だけはしたいです……」

 顔面ボコボコのロン毛をイメージしながら、心を平静にしようと努める。

 あ……しゃがみ込みたくなってきた。

 

 突然ガサッガサッと枯葉を踏む音が聞こえる。

 うちの高校はガサツなのか、校舎裏には昨年の落ち葉が残ったままだ。


 来た……!?

 来てくれた。


 間違いなく桜木光さんであるその人が、何も持たずに歩いてくる。

 帰る準備が間に合わなかったのかな?時間指定間違えたかな…?

 少し表情が辛そうなのは、小走りで向かっているから?

 艶のあるロングヘアが小刻みに揺れ、主張の強い胸も併せて揺れている。


「ごめん、ちょっと遅くなったかな?」

「来てくれてありがとう」


 彼女が軽く息を整えるのを待ち、緊張して硬直した口を動かしていく。


「話すの初めて……だよね?」

「うん。でも私は知ってたよ。テニス部の……時田さんといつもいるよね」

 何ッ!彼女に認識してもらっていたとは……!?

 夏樹は割と目立つ方だから、そのオマケとしてかな?


「ああ、あいつ家が近所なんだ」

「そうなんだ」


 さして興味も無さそうな反応に、会話が一度途切れる。

 深呼吸を1つして、声が上ずらないように、慎重に話す。


「桜木さん。君の事が好きなんだ。僕と付き合ってくれませんか」

「ごめんなさい」


 最初から決まっていた様な回答。

 深々と礼をする桜木さん。セーラー服とお辞儀って相性ばっちりだな。

 惚れ惚れする様な所作に、全身の緊張がほぐれていくのを感じる。

 まだ、諦める訳にはいかない。


「私、恋愛とかよく分からなくて、今は誰かと付き合う気は無いです」

「そうなんだ。実は僕もよく分らないんだ」

「えっ?」

「今まで誰とも付き合ったことないし。好きになった子はいるけど、振られたし」

「この学校の子?」

「いや、金木田小学校の瞳ちゃん」

「誰!?」

「僕の小学校のね。芸能人みたいに可愛かったなあ。でも僕が出したラブレターを大声で回し読みしてくれたね」

「うわ~、最悪」

「桜木さんはそういう事しないよね?」

「しないよそんな事! というか……私貴方の事振ったんだよね? なんで和やかに話しているのかな?」

「ん~、ごめん。あきらめたくないと言うか。元白髪鬼の安西先生が応援してくれてるし」

「クスっ」


 お、かわいい笑い方。


「水島君て変わってるね。私、何回か告白された事があって……お断りした人は食い気味に『こっちこそごめん』って言ってさっさと帰っちゃったよ」

「そうなんだ。僕は諦めが悪いからね。今もストーカーにクラスチェンジしようか考え中」

「しないで下さい。水島君はさ、何で私と付き合いたいの?」

「そりゃ可愛いし……どんな子なのかすごい気になるし」

「瞳ちゃんみたいに性格悪かったら?」

「それはその時考えるよ。でもね、僕が今知っている桜木さんの良い所だけで、そんな悪いところも気にならないぐらいだよ」

「ふーん……」


 顎に手を当て、何かを思案しているポーズ。長い睫毛が軽く伏され、美しさが際立つ。

 沈黙に耐えかねて、何か発しようとしたその時。


「ストーカーになられたら困るから、友達からなら……」

「え?」

「友達になろうよ。メッセージアプリ何使ってる?交換しよ」

「あ、これ」


 慌ててスマホを落としそうになりながら、差し出す。


「交換完了。体育館閉まっちゃうから、ごめん急ぐね」

 

 スマホを差し出したままのポーズで、小走りで去っていく彼女を眺めていた。

 


 告白 成功……?

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