第110話 親を失った少女、楓
母さんから僕に電話があり、天野家の訃報が伝えられる。死因は車同士の交通事故。相手の車が信号無視をしたせいで事故となり相手の運転手も亡くなったようだ。
楓は、僕のスマホが鳴った時に恐らく訃報の話だ、と察したのだろうか。我慢していたであろう悲しみが込み上げてきて、横で大泣きしていた。僕は楓を優しく抱きしめた。
僕は何と声をかけたらいいかわからなかったので、優しく抱きしめて、優しく背中をさすって、あとハンカチを渡してあげたりした。それで十分なのだろうか。
それから数分後、母さんに迎えにしてもらい、とりあえず僕の家にやってきた。
楓のおばあちゃんは健在だが、家が遠すぎるためか、「今そちらに向かっております。今日は楓をお願いします」と、お願いされたと言う。つまりお泊まりということだ。理由が理由なので、とても喜べるものではないが。
「楓さん、今楓さんのお婆様と連絡がとれて、明日にはこっちに着くそうだよ」
父さんがそう言った報告をした。
「………」
が、楓は僕の部屋にある、椅子に下を向きっぱなしで座っており、何も答えない。まるで心のない人形に成り果ててしまったようだった。
「楓、聞いてたか?」
僕も声をかけてみる。すると、
「………うん、ありがとう………」
楓は答えた。
その後すぐに母さんに呼び出された。
「悠、今日は楓ちゃんと一緒にいてあげてね。私たちは1階にいるようにするから話とか聞いてあげて」
と言われたので、
「もとからそのつもり。配慮ありがとう」
もちろんずっと一緒にいるつもりだった。やはり、そこまで関わっていない母さんたちがいると話しにくい事もあるだろう。なので、母さんたちは気を遣ってくれたと考えた。
「楓ちゃんのことをよろしくね」
まるで楓のお母さんの代わりのような、そんなことを感じた。
「うん」
僕はそう言い、部屋に戻った。
そして、僕の部屋は僕と楓の2人だけになった。
すると、楓が
「……ねぇ…悠君…。私、これから…どうしたらいいのかな…?」
楓は声を激しく振るわせながらいう。
「……ごめん、それは僕にはわからない」
「…そうだよね…。ごめんね…」
そう言った途端、また楓が抱きついてきた。
「……ごめん、少し胸を貸してね…」
「うん」
それから、楓はまた泣き始める。
何の前置きもなく、一気にお父さんとお母さんをうしなったのだから、いくら泣いても足りないだろう。
それから約20分ほどした時、
「……ごめん、私もう寝るね」
僕から離れてそう言った。
「分かった」
僕もそう言って、地面に敷かれた布団に楓は横になる。続いて僕も隣に横になった。
それから、少し経っただろうか。
また横で鳴き声が聞こえ始める。
僕は楓の方を向き、
「楓、大丈夫…?」
頭を撫でながら尋ねる。まあ、大丈夫なわけがないのだが。
すると、楓がこちらを向き、
「…今夜は抱きついて寝ていい?」
そう尋ねてくる。
もちろん、楓の願いは何でも叶えるつもりでいたので、
「いいよ…!」
と、許可する。
それからは少し楓は落ち着いたようで、すぅー、と寝息を立て始めた。(楓は今夜は寝れない
のではないか)と、心配していたので、少し安心した。これで変に体調を崩すことはなさそうである。
それから僕も眠りについたのだった。
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