第90話 文化祭の準備(1)

 放課後になり、僕たちはメイド喫茶で使うものの準備を始めた。

 喫茶店で出品するものは他の飲食店とのかみ合いもあり、飲み物だけの出品となった。まあ、メイド、と言う売りもあるものだし、妥当なものであろう。

 飲み物の準備は簡単にできるとして、現在メイド服の準備の話をしていた。


「んで、メイド服はどうするんだ?」


 光がクラスメイトと話している。


「誰かに頼むしかないんじゃない?」


 と、まあ当たり前の答えを返している。


「まあ、そうだけど。誰か貸してくれそうな人に心当たりはない?」


 と、光が尋ねている。そんなに話し上手ではない僕からしたら羨ましいものである。なぜ、入学式の体育館であんなことができたのだろうと改めて疑問に思った。


「ねーね! 悠くん!」


 と、飲み物の準備の仕事をしていた、楓に話しかけられる。

 「お熱いカップルのお二人は2人でこれをやっておいてくれ」と光に言われて、一緒に準備ができているわけである。しかも、周りの目を気にしなくて良い、隣の空き教室で!である。光には本当に感謝だ。


「なに? 楓?」


 そう言い、楓の方を見る。すると、僕の方にもたれてきた。


「疲れちゃったから癒してくれない?」


 と、甘えるような声で言ってくる。


「具体的に何をして欲しいの?」


 僕は「周りに誰もいないし、ある程度なら叶えてあげよう」と思い、楓に訪ねる。すると、楓はいつものように、笑顔でこちらを向き、


「ぎゅーってして欲しい!」


 と、言う。てっきり楓のことだから「キスして!」とでも言うのかと思っていたのだが、どうやらぎゅー、つまりバグでいいようだ。でも気になったので、


「楓のことだから『キスして?』とでも言うのかと思ってたけど、言わないんだね?」


「いや、流石に学校でキスはまずいでしょ? あ、もしかして悠くん、キスしたかったの!?」


 と、揶揄うように言ってくる。


「そんなことないよ!」


 と、即座に返す。すると、楓は少し悲しそうに、


「そんなことないの?」


 と、言った。ぼくは少し「やってしまったな」と後悔し、


「…、楓とキスしたいよ………」


 今にも死にたくなる、周知を晒すことになった。


「うれしっ! ありがと! じゃあ、ハグさせてねー!」


「キスはしてくれないのかよ!」


 思わずすぐに突っ込んでしまう。


「やっぱり、学校じゃまずいでしょ?」


 やはりしてくれる気はないようだった。そのままハグを受け入れたのた。今日はいつもと違ういい香りがする。香水を変えたのだろうか、とか考えているその時、ガラガラガラとドアが開き、クラスメートが視界に映った。ばっちりとハグしているところを見られてしまった。


「えっと、この件なんですが………お邪魔しました!」


 と、要件も話さずに横の教室に戻っていった。これには2人で目を合わせるしかなかったのだった。

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