第82話 一緒に帰ろ!

 それからはお互い、普通の高校生活を過ごし、先生が終わりの号令をかけて、放課後となった。

 僕たちが付き合ったと言う噂はすでに学校中の噂となっているようだった。だが、今日の学校生活中はお互いのうざうざさのせいで、いつも通りに過ごしていたので、3組のメンバーは全員付き合っていると信じ込んでいるが、それ以外のクラスはと言うと『この噂は嘘なんじゃないか?』と言う意見も出ているようだった。正直、あの、天野さんに彼氏ができた。だなんて好きな人からしたら思いたくない、と言うのもありそうな気がするのであった。つまり、現実逃避、と言うやつである。

 その状況をなんとなく知ってしまっている、と言う立て前の理由で楓を帰り誘うかを悩んでいた。

 (本当の理由としては、朝の場合、家はもちろん違うので別行動だ。バス停で、どう頑張っても楓と同じに場所に来てしまうので、『一緒に登校する?』と自然的の流れでそうなるのは、まだなんとか誤魔化す事が出来るだろう)と僕は考える。最終結論から言うと、(みんなに知られて、みんなにボコボコに言われると言うのを恐れている)が本音である。


『楓、僕らの関係は公開する? それとも出来るだけ隠す?』


 僕は楓の様子を伺うようにして尋ねる。


『んー、公開しない? だって、そっちの方が色々とやりやすいじゃん!』


 楓は笑顔でそう言う。


『わかった! そうしよう!』


 僕らはこんな話をして、公開する事になったのだ。だから朝の公開に至ったのだ。が、結局、今日1日ほとんど変わることのなかった。クラスメートに関しては、朝の騒動はあったが、それ以降は特に絡んでくることもなかった。どうやら見守っていてくれるようだ。そんなクラスメートに感謝しつつ、僕は終礼が終わって約2分間悩み続けている。と言う状態だ。だが、そんな考えも虚しく、すぐに解決する事になった。


「……ねえ、悠君」


 僕は誘うか、誘わないか、と言うことを考え込んでしまっているので、聞こえてはいるのだが、すぐに耳から出ていってしまう。


「……ねえ、悠君ったら…」


 それでも僕の耳には届かなかった。

 すると、我慢できなくなった楓か、


「ねえ! 悠!!」


 まだ、部活に行っていないクラスメートが多数いる中で大声で言う。クラスメートからの注目が集まるのを感じた。

 僕はその声で我に帰り、


「あ、楓。ごめん、考えごとしてた」


 僕は正直に話す。


「ふーん、まあ良いけど。それより、悠君、一緒に帰ろ!」


 まさかの楓の方から誘いがかかった。もう、誘われたのなら、乗るまでなのだが、(他のクラスの人が怖いな)と言う気持ちが芽生えてしまったので、少し弱気になってしまった。


「……うん。帰ろ」


 そう言うと、楓は少し首を傾げたが、ニコニコと微笑んでいた。

 男子クラスメートは、心の痛みに耐えながら、女子のクラスメートは、応援しながら、見守っているのであった。

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