第10話 北村の容態と天野さんの反省◎

※この話は前作品ではなかった話となっております。




 僕は天野さんの身代わりになり、ボールを受け、気絶して今保健室にいる。


「う、うぅ」


 僕が目を開けると目の前には目をうるうるさせた天野さん、僕を保健室まで運ぶように指示してくれた森下さん、そして僕の初の男友達である光がいた。いち早く気づいたのは僕の方をずっと見ていた天野さんだった。


「あ! 北村君!! よかった、本当によかったよぉ〜」


 そのまま僕に抱きついてきて大泣きし始めてしまった。(好きな人に抱きつかれてる! やった!)とおもったのは束の間、僕の胸の辺りがすごく痛んだのだ。


「いったぁぁ!!」


 僕は思わず声を上げてしまった。だが、天野さんは泣き喚いているので聞く耳を持っていないようで、全く離してくれる気配がない。


「こら、楓!」


「北村君痛がってるでしょ!?」


 と急に出てきた保健の先生まで声を上げたが、もう僕は無理だと判断し、2人に向けて首を横に張った。「もうこのままでいいよ」と言う意味を込めて振ったのがちゃん伝わったようで2人とも見守っている。胸の痛みに耐えながらも、天野さんのシャンプーだろうか、の、香りを堪能するのであった。


 結論として、泣き止むまでの10分程度、そのままになるのであった。天野さんに「痛かったんだよ」と言ってしまうとまた泣き出しそうなので言うのをやめておいた。


 それから保健の先生により、容態の説明があり、しばらく様子見ないとなんとも言えないが、おそらく、しばらく安静にしておけば大丈夫だと言うことだ。しっかりと両手で衝撃を吸収していたため、軽傷で済んだらしい。保護者はと言うと現在沖縄県までの長期出張の最中で、誰も来てはくれていなかった。息子が倒れたというのに、なんとも薄情な。まぁ、しょうがないんだけどね。


 なのでそのまま帰宅している。すっかり日も落ちており、辺りもかなり暗くなっていた。


「まずは楓。言うことあるんじゃないの?」

 

 森下さんが真剣そうな顔で言う。

 すると、


「北村君。何から何までほんとにごめんなさい。助けてもらったせいで傷を負っちゃったのに、そこから抱きついて更に悪化させちゃうなんて。私最低だね。何もしないで許してもらうなんてそんな生ぬるいことは言わない。私に何でも言って! 私の出来ることはなんでもする! ううん、出来なさそうなことでもできるように努力する! だから、どうか、側にはいさせて……」


 最後の「側にいさせて」はもう消えそうなほど小さな声だった。

 正直全く怒ってない。好きな人に抱きつかれていい気分であったのも事実だし、香りも堪能させてもらったし、天野さんを守りたいと思ったから守った。

 だから、ほとんど自業自得だし、天野さんにそこまで反省してほしくなかった。


「天野さん、そんなに謝らなくてもいいよ。僕が勝手にボールに当たって怪我をしただけじゃないか。それにもうこんなに元気だし!」


 そう言って、少し走ってみせた。


 まだ走らない方がいいんじゃないか?という光の声が後ろから聞こえたような気がしたが、おそらく気のせいだろう。


「大丈夫だったでしょ? だから何の心配もせずに、これからも友達としてやっていこう。今まで通りのね!」


 僕はそう言って笑顔を浮かべる。

 光と森下さんは安心した顔で僕を見ていた。

 

「うん。わかった、わかったよ。北村君。北村君ってほんとに、めちゃくちゃ優しいね。ごめんちょっと澪、胸貸して」


 言葉を振るわせながらそう言った後に森下さんの胸の中で泣き始めた。


「ほんとに、優しすぎるよ。大好き」


 泣きながら誰にも聞こえないような小さな声で言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る