第15話 もう1方では…

 〜大倉視点〜


 時は打ち上げ終了直後まで戻り、俺は森下さんと帰っていた。


澪「いやー、今日は楽しかったね!」


 笑顔で言ってくる。


光「そうだな」


澪「それより大倉君! あの歌声全力なの??」


 森下さんは茶化すように聞いてくる。


光「そんなわけないだろ? 本気でやると悠より上手いはずだぜ」


 まあそんな訳ないのだが、あれが全力なのだが。


澪「そかそか! じゃあまた本気の歌声聞かせてね!」


光「ああ、分かったよ」


 俺はあれが全力だったのでちょっと練習しとかないとまずいかもしれない。それでド下手のままだったら茶化されるで済むとは思えない。


澪「なにかとさ、こんな感じで2人で話すのって初めてだよね」


 森下さんがそんなことを言ってくる。確かに森下さんは天野さんの友達、俺は悠の友達。そして悠は天野さんの友達と言うことで俺らは全く持って繋がっていなかったのだ。


光「確かにそうだな。お互い仲良い人に付いて来たみたいな感じだもんな」


澪「ね! 私たちが仲良くなったらみんな繋がる! と言うことでまずは連絡先交換しない?」


 想定外だった。向こうからそんなことを言われるなんて。


光「え? うん。いいけど」


 そうして俺は初めてとなる高校での女子の連絡先を手に入れる。


澪「後もう1つお願い、いい?」


 俺にお願いすることなんてなんだろう?そう思いながら頷く。


澪「大倉君のことって呼んでいい?」


光「は!? なんで??」


 なんで名前で呼びたがるのだろうか。本当にわからない。が、ここで事件が起こる。信号無視の車が突っ込んできているのだ。それに気づいた俺は


光「森下さん!危ない!」


 瞬時に手を引っ張り、なんとか回避することができたが、森下さんを正面からハグするような形になってしまった。強く引っ張ったのめ柔らかい感触と森下さんのドクドクと激しい心臓の音が伝わってくる。柔らかい感触は正直惜しいが今連絡先を交換したばっかりの男女、いや、付き合ってもない男女がするのはダメであろう。とりあえずハグ状態をとき、


光「…………ごめん。大丈夫か?」


 すると森下さんは下を向いてしまっていて返事がない。森下さんが顔を上げたと思ったら目にすごい涙が浮かんでいた。


澪「……こ、怖かったよ! !!」


 そう言った森下さんが俺にまた抱きついて来て、大泣きしていた。


光「ちょ、あー、もう。しゃーねーな」


 柔らかいものの感覚を忘れて、背中を譲ってあげるのだった。


 それから数分後、森下さんが泣き止んだ。


澪「……ごめんね。いきなり抱きついちゃったりして」


 反省したような声色でいう。


光「いいよ、他の人に泣き顔見られたくないよね。わかるよ」


澪「優しい、光君。ありがとう」


光「それはいいんだけど、なんで名前呼びなんだよ? 俺は許可してないぞ?」


澪「うぅ、それは、わ、私がそう呼んでみたかったから……」


光「ーーーっ!」


 不覚にも少し照れてしまった。女子に名前で呼んでみたかったとか言われたら照れちゃうよね。


澪「ねーね! 私のことも澪ちゃんでも澪さんでも呼んでよー!」


 いつもの調子を取り戻した森下さんが言う。俺としても嫌な感じはしなかったし、いいか、と思い、呼んでみる。


光「み、澪さん……」


 すごく恥ずかしいが呼んでみた。


澪「ーーーーっ! ほ、本当に呼んでくれた!ありがと! 光君!」


 照れながらも森下さんは上目遣いで俺の顔を覗き込んでくる。こっちの方が照れてしまう。


澪「ふふっ、照れちゃって! かわいいっ!」


光「かわいくねーし、てか男子は可愛いって言われてもうれしくねーし」


澪「そうなのね。あ、私こっちだから! また連絡する! 本当に助かった! ありがとね! じゃあね!」


光「おう! 気を付けろよ!」


澪「ありがと!!」


 その後森下さんは誰も聞こえないような声で


澪「私、光君に惚れちゃったかも」


 そんなことを呟いているのだった。

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