第36話 楓送迎中のパプニング

 僕たちは楓を家に送るために真っ暗な夜道を歩いていた。


「楓さん! 何であんなに正直にいうんですか!」


 僕が一番言いたかったことを言う。

 何も僕の親の前でそんなこと言わなくてもいいだろう。何より僕が恥ずかしい。


「ごめん。悠くん。ちょっと途中から悠くんのことを言うの楽しくなっちゃって。調子乗っちゃった」


 どうやら反省はしているらしいが、


「でも悠くんのいいところを悠くんのお母さんに知って欲しかったと言うのもあるよ?」


 楓の言う意味は、(悠くんは私を色々な場面で助けてくれた!)と言う意味だろうが、きっと母さんたちには(好きだからいっぱい助けて、僕に目が行くようにする! つまり惚れさせる!)と言う解釈をされたような気がする。多分だが。


「恥ずかしかったけど、いいところを知って欲しかったと言うところはありがとうと言っておこう」


 そんな話をしながら楓の家に向かって行き、10分程度で到着した。


「じゃあね。悠くん」


「うん。じゃあね、楓さん」


 そう言って立ち去ろうとするが


「ちょっと待て。うちの娘をこんな時間まで外に連れ出して何をしていた!」


 僕は聞いたことのない声に驚いているが、楓はそんなことはなかった。


「お父さん、これは…!」


 即座にそう言っていた。どうやら楓のお父さんである、天野 康太あまの こうたさんのようだ。


「楓は黙ってなさい。改めて聞くがうちの娘をこんな時間まで外に連れ回してどう言うつもりだ?」


 どうやら(この時間まで外で遊んでいた)と思っているようだ。

 

「すいませんでした。僕の家に来ていただき、ご飯食べてました」


 (まあここは正直に言うべきだろう)と思った僕はそんなことを言う。


「楓、男子の家に上がるとはどう言うつもりだ! お前、襲われたらどうするつもりだ!」


 楓のお父さんは声を荒げて言う。

 (公共の道路で「襲われる」とか言うもんじゃないだろ…)とか思いつっていると、


「悠君はそんなことしない!」


 楓も楓で必死に抵抗している。その騒ぎを聞いたのか冬美さんが家から出てきた。


冬「こら! 康太何してるの!」


 冬美さんが怒る。

 まさかの名前呼び、と言うことに驚いた。


康「こんな時間まで俺に連絡なしだ! しかも男の家に上がってたんだぞ! そんなの許してやるか! 冬美もそうだろ!?」


 何も知らないらしい康太さんも相変わらず声を荒げて言う。

 さらっと康太さんも冬美さんのことを名前呼びしている。


「その人、悠くんは楓の彼氏! しかも楓をボールから守ってくれたり、ゲームの相手をしてくれたり、迷子になったのを見つけ出してくれたり、とてもいい人なの! 今日もちゃんと連絡あったよ! 私が承諾したの!」


 (やっぱり誤解されたままだったかー)と内心思いつつ、康太さんの顔を見ると、とても驚いているようだった。


「その、いきなり怒ってすいませんでした。色々聞きたいので少し上がって行ってもらえませんか?」


 謝罪され、少し話をしたいと要求された。びっくりするぐらい声が萎んでいた。反省しているのだろうか。

 (ここで断ってしまうと、またさっきのことになりかねない)と、考えた僕は


「少しの間ならいいですよ」


 そう言うことで、天野さん一家と僕の話し合い(?)が始まるのだった。

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