第25話 報告を受けるジュエルイアン 2


 ジュエルイアンは、ヒュェルリーンにエルメアーナの事を任せていることもあり、ベアリングの開発もヒュェルリーンに全権を任せていた。


 ただ、ヒュェルリーンには、ジュエルイアンの筆頭秘書としての仕事があるので、実質的には、アイカユラがエルメアーナ達のマネージメントを取り仕切っていた。


 ヒュェルリーンは、報告を聞いて指示を出したり決済をするだけで終わっていたのは、アイカユラのマネージメント能力の高さが可能とさせていたので、アイカユラの報告を受けた内容を筆記士を使って羊皮紙に清書させ、その内容をジュエルイアンに報告するのだった。


 容易に羊皮紙を使うことが難しい事もあり、記録は筆記士を使って、その記録が完成したところで、ジュエルイアンに書類を見せつつ報告に上がった。


 ジュエルイアンは、ヒュェルリーンの報告書を確認すると、一瞬、口の端を上げた。


「なるほど、こんな方法を取るのか。 面白いな」


 報告書の内容に満足そうに答えた。


「ええ、ただ、一つ、研磨用の円盤の製造には、プレス機が必要になりそうなのです。 その時までに間に合うか気になります」


 ジュエルイアンは、それを聞いて考えたようだ。


「なあ、それって、回転する台が用意できれば作れるんじゃないのか?」


 その一言にヒュェルリーンも、何かを閃いたようだ。


「なるほど、そうですね。 極端な事を言ったら、今のプレス機の回転運動を、何かベルトのような物を使ってとか、彼らに作らせる事を考えさせればいいわけですね」


 ジュエルイアンは、その一言でニヤリとした。


「そういう事なんだよ。 何も全部をイスカミューレン商会のプレス機で作ろうと考えず、動力を繋ぐ方法を考えれば、簡単なものならそれでも製造は可能だろう。 それに、動力を用意できて、後の工作機械を動かせるとなれば、その工作機械を売ることも可能になる。 水車だろうが、風車だろうが、動力があれば、使う事が可能になったら、今まで、人の手で行なっていた事が機械によって可能となる」


 ジュエルイアンの話を聞いて、ヒュェルリーンも納得したようだ。


 ジュエルイアンの考えがヒュェルリーンにも理解でき、新たな商材が思い浮かんだのだ。


「そうですね。 今回のベアリング開発は、ベアリング以外にも販売可能な商品が有るのですね。 これは、産業が大きく変わることになるということになります」


「そういう事だ。 そして、そんな時には、大きな商売になる事が多い」


 ヒュェルリーンも、ジュエルイアンも、何か新しい商品が市場に出回った時には、それを欲する人達によって大きな需要が生まれる。


 そして、その商品が多くの利益を生み、それにあやかろうと同じものをコピーして作る人々が出てくる。


 だが、そこにベアリングの技術が入っていたとすると、1000分の1の精度を出せない模倣業者にとって、そのベアリングをジュエルイアン商会から購入する必要が出てくる。


 それを嫌がる者達は、似たような物を作るだろうが、精度のでないベアリングでは性能を出せない。


 精度の悪いベアリングを使っても、回転軸は摩擦が大きく動力を伝えるにしても損失が大きくなり使えるトルクは低くなってしまう。


 馬車のようなものであれば、馬が引っ張れる荷物の量が増える事になるか馬への負担が減る事になる。


 ジュエルイアン商会が販売するベアリングを使った商材は、誰も作れない技術で製造される事になるので大きな利益を生むのだ。


 ジュエルイアンは、その事に気がついていたのだ。


「ああ、ベアリングは、しばらく、販売はしない。 うちの傘下の工場にだけ、販売をする。 まあ、最初は、生産量も増えないだろうから、傘下の工場だけでも、取り合いになる可能性が高いな」


 それを聞いて、ヒュェルリーンも、その可能性を理解したようだ。


「そうですね。 傘下の輸送用の馬車を、ベアリング付きの馬車に変えて、その性能を周囲に見せつけたら、周囲は、当商会の荷馬車を欲しがる事になるでしょうね。 圧倒的な性能の違いを見せつけたら、荷馬車の値段は高くても欲しがるはずです」


 そこまで言うと、ヒュェルリーンは、何か考えるような表情をした。


「工作機械? ああ、販売しようと思っていた、エルメアーナがこれから考える工作機械についてもベアリングを使うのですね」


 それを聞いて、ジュエルイアンは、ニヤリとした。


「そう言うことだ。 水車のような動力の場合、そこから何個もの工作機械を動かそうと思ったら、摩擦は小さいに越した事はない。 負荷が少ない方が、使える工作機械は増える。 それに、その動力となる水車だったとして、それも回転軸があるからな。 より大きなベアリングが必要になる」


 ヒュェルリーンは、ジュエルイアンの話から、もっと先の事も考えていると思ったようだ。


「なるほど、自分達の商品でベアリングを宣伝する事も考えているのですね」


「そうだ。 同業他社としたら、俺達が販売する似たようなものなのに、性能の違いが有ったなら、調べるだろうが、同じ物は作れない。 性能を引き出す方法を知らないだろうからな。 他が、ベアリングの精度を出せるようになるまで、うちの商会の独壇場になる。 もたらす利益は、莫大だろうな」


 そのジュエルイアンの言葉に、ヒュェルリーンも納得したようだ。


 思いもよらず日本刀の生産を手掛けて、利益を得る事ができたジュエルイアンなのだが、使われる箇所の多いベアリングならば、日本刀以上の利益をもたらしてくれると、その可能性を2人は考えていたのだ。

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